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第37話 旅の終わり

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 次の日、二人は野営の始末を済ませ二人で街へと向かい出した。

 互いに掛ける言葉が思いつかないのか、言葉少なに早足で歩く。

 途中で、セイが足を止めて、二人で街に行くのは難しいだろうと口にする。

「……ここでお別れか」

「そうだな……じゃあな、レリア、元気で……」

「セイもな……」

 互いに手を挙げ軽く別れの挨拶を交わして別々の道へと進みだす。

 セイは森の中を抜けるようにして元々拠点にしてた街へと向かい、レリアは旧街道をそのまま歩いていく。

「一緒に来てくれ……とはいえないな」

 レリアは一人歩きながらそう呟く。ただの冒険者を王配にするなど、と国を無駄に揺るがすことになりかねない。かといって女王に就くことを放棄して彼を追いかけることも出来なかった。

 魔王の復活の予言、これから世界が間違いなく乱れると解っていながら、逃げ出して妹姫に押し付けることなどもってのほかだ。

「……セイ、それでも私はお前に傍らに……」

 空を見上げ涙を飲み込む。レリアは迷いを振り切るように歩みを速めた。


***


「……レリア王女殿下……魔術師団長、アインベルク・ハーベスがお迎えに参りました」

 きらりとモノクルを光らせながら姫の帰還を迎えるアインベルク。

 おもわせぶりに口元に笑みを浮かべながら恭しく頭を垂れる。何処かうさんくさくも、王国随一の魔術師である彼を前にレリアは緊張していた。

「ああ、心配を掛けたな。この通り、私は無事帰ってきた。……先見の予言のことも気になる、王都にさっそく帰るとしよう」

「……先見の予言ですか」

 口元の笑みを崩さずに、けれど不快を声音にのせてアインベルクがレリアの言葉を繰り返す。魔術師団長としては、先見の予言は嫌いだった。自分の実力を信じるからこそ、あらかじめ結果を与えられるということに不快に思っている。

 たとえどんなに足掻こうとも結果に変わりはない。お前の力もおよぶこともなく、ただ先見の予言の通りに収まることを見つめていれば良い、と言われているように思えてならない。

 けれど、アインベルクが知る限り大きく外れることが今までなかった先見の予言に絶大な信頼を寄せるものも少なくないのも理解できる。

「そう怖い顔をするでない。……お主も、将軍と同じように先見の予言に良い感情を持っていないことは承知しているが、それでも私は女王になるべく足をディッテニィダンジョンに向けた。そして、転移し、大深林を抜け、今ここに帰ってきたのだ……この英雄王の剣を持って」

「なんとっ……むっ、むむむむ……ふむぅ、確かに……」

 レリアが佩いている剣を示すと、アインベルクは驚きで目を丸くする。

 モノクルで詳しく見るまでもなく、彼女の示した剣は独特の魔力を帯びた特殊な剣であることが解った。

「先見の予言にすがってしまったことも確かだが、私自身が大深林で得たものだ。英雄王の剣を引き継ぎ、英雄王の志を引き継ぎ、私は女王として国に立つ。そのように進めてくれ」

「……畏まりました。もっとじっくりたっぷりねっとりぐっちょりと観察させていただきたいところですが……英雄王様の剣とは……残念です」

「アインベルク卿……お主の知的好奇心には感心するし、それによってもたらされる恩恵には感謝しているが、英雄王様の剣をねっとりぐっちょりは看過できないな」

「レリア様、非常に心惹かれ踊るモノでございますが、おっしゃるようなことは恐れ多くめっそうもございません」

「そういいながらモノクルで見ているではないか、まったく」

 笑いながらも魔力を込めてモノクルで示された剣を興味深く観察するアインベルク。

「これは失礼……ふむ」

 すっと魔力を込めるのを止める。

「どうした、アインベルク卿。何か気になっているのか? 剣は卿には渡さぬぞ」

「いえ、なんといいましょうか、レリア王女殿下におかれましては……肩の力が抜けたようで良き事かと、僭越ながら臣下として思う次第でございます」

「……肩の力が抜けた、か」

 二人旅で色々経験したことが彼女の心に変化をもたらしたことは間違いないだろう。アインベルクの指摘に、そうかもしれないな、と答え、改めて労をねぎらう。

「良い経験をされたようでなによりです。それはさておき、王女殿下。わたくしが遺跡を拝見、調査したところ、転移したのは二人とのことだったのですが、お一人はレリア王女殿下でございますが、共に飛ばされたであろうもうおひとかたの御仁はいずこに」

「……」

 アインベルクの言葉にレリアが表情を曇らせる。

「彼は……共に来れなかった……残念ながら」

「……そうですか」

 レリアの表情にアインベルクはそれ以上追及出来ずに引き上げの指揮を執った。

 こうして、姫騎士レリア・カルネージュの無事の帰還ということで、ディッテニィダンジョン転移事故については収束へと向かうことになる。

 そして英雄王の剣を携えて、帰還した彼女を女王に推す声が高まり、そのまま女王就任へと続いた。


 姫騎士様と二人旅、起きたことは二人きりの秘密として……。


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