26 / 39
第26話
しおりを挟む金属鎧が徘徊していたであろう場所に二人は足を踏み入れた。
「……この場所は……」
草木に覆われた廃墟。
砦があったのか、近くには盛り上がった丘のような場所。
幾つもの錆びた鎧が転がっていた。その鎧の紋章を確認するレリア。
「この紋章は王国の旧紋章……つまりここは英雄王の最後の戦場……ガルム古戦場ということか」
「ガルム古戦場……」
ギルドに置いてあった地図を思い出すセイ。ディッテニィダンジョンから南にずっと行ったところの大深林地帯……隣国との国境辺りにかつて存在していたという街。
隣国との競り合いで戦場となり、大規模な衝突の末、突如出現した魔物たちの進撃に両軍が飲み込まれ全滅したと言われる。
かろうじて、魔物たちの進軍は食い止めることは出来たものの、押し戻すことは出来ずに大深林が広がることになった何十年も前の出来事。
その際に、前線に出ていた国王……英雄王と呼ばれた男を失い、以後王国は女王を戴くようになったという話である。
「……何もかも魔物の進軍……おそらくはスタンピード的なものに飲み込まれて何もかもが破壊されたと聞いたが……」
レリアが辺りを見回しながら呟く。
草木が生えているものの、街のあとはまだそこにあり、黒く焦げ半ば崩れた石壁とかもあちこちに存在している。
保護魔法が掛かっているのか、錆びつつも朽ち果ててない鎧があちこちに転がっている。
王国の立て直しの為に調査隊を派遣することも叶わず、放置されたかつての戦場。
「勇敢に戦ったものたちの墓標としては……寂しいな、仕方がなかったとはいえ」
「そうだな……」
レリアに同意するセイ。
調査隊も入ってこないような場所ゆえに仕方ないが、慰霊碑の一つでもあればと思わなくもない。こちらの世界にそういうものがあるかは判らないが……。
「鎧の魔物が出現するのも納得だ。戦士たちは勇敢に戦ったとはいえ無念な者も多かっただろう」
辺りを見回すが、今のところ夜に音だけ聞いた鎧の魔物の気配はなさそうだが、いかにも動き出しそうな鎧は幾つも転がっている。
保護魔法が掛かっていることを考えると結構な身分の者が多く居たのかもしれない。その筆頭が英雄王であるのだが……。
「……英雄王の墓標、セイ……すまないがここを調べてもいいか?」
「危険だぞ。鎧の魔物もおそらく遭遇すると思うが……」
「それでも調べたいのだ。駄目だというなら私を置いて先に行ってくれても構わない。遺髪を届けてくれるだけでいい」
「……レリア、何でそうお前は……」
はあっと溜息を吐くセイ。
さっき付き合うといったばかりなのに、すぐこれだ。報酬の為に付き合ってもらうぞ、くらい言えばいいのにとセイは思う。
「付き合うよ。報酬をきっちりと頂くためにも、な。だが、あまり時間を掛けたくはない。夜になると一斉に鎧たちが動き出すとかありそうだしな」
「ありがとう、セイ」
微笑むレリア。素直に礼を言う女騎士にぐっとくる気持ち。
どこまでも真っ直ぐで可愛らしい。セイも腹を括って彼女とともに帰還することを望んでいた。
「報酬のためだ。しっかりと綺麗な身体を隅々までじっくりと堪能してやるからな」
そんなまぶしい彼女にセイは照れ隠しなのかこういう言葉を掛けるしか出来ない。
「ふふっ、じっくりと見られるのは照れるが……セイなら構わないぞ、たぶん」
セイの照れ隠しを解っているのか、レリアは軽口をかえして調査を開始した。
56
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる