姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう

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第25話

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「すまない……」

 起きるとすぐにレリアは謝罪する。不安でセイを起こして、一緒に様子を見るはずがいつの間にか眠っていた。

 ぐっすりとはいかないの仕方ないし残念なのだが、かなり身体を休めたことは確かだった。目を閉じて緊張をほぐして……までは覚えているのだが、その後は意識を手放していたようだ。

「俺は大丈夫だ、休めたか?」

 セイは特に気にした風もなくそう言い放つが、そうもいかない。

「あ、ああ、身体は休めた、ありがたいが……」

「ならいいさ」

 状況に戸惑うレリアに、澄ました顔のセイ。彼がそういうならこの話はここまでで切り上げた方がいいだろう。

「……解った。恩に着る。……それで、状況は?」

 例の金属鎧の魔物らしきものについて尋ねるレリア。

「だんだんと動きが緩慢になっている感じで、同じ場所に留まっているのかもしれない」

「そうか……」

 今は特に音は聞こえないが、セイの言う通りなのだろう。彼を揺り動かす前に警戒していた方向を見つめる。
 そちらに何かあるというのだろうか、危険だろうが何故か気になる、心に引っ掛かる。

「大深林については魔素の濃度や魔物の強さの違いで調査があまりされてない。だから、あの金属鎧の魔物が場所に縛られているのか情報がないが……レリア、何か心当たりでもあるのか?」

 レリアの様子に問いかけるセイ。
 じっと見つめる姿勢に、彼女が何かを知っていそうな、もの言わぬ語りのように思えた。

「いや、そういう訳ではないが……何故か心がざわつくんだ。回避するんじゃなくてこの目で確かめたいという気持ちが湧き上がってくる」

 言葉にしながら自分がどうしてそんな気持ちになっているか解らないという感じに首を傾げるレリア。

「理由は解らないが……行かなければいけない、そんな気がする」

「……行かなければいけない、か」

 状況はまったくもってよろしくないというのに、何を確かめたいというのだろうか、と他の者なら言うだろう。

 しかしセイは、ライと一緒に理不尽に何度も巻き込まれたことがある。彼がそうだったように、この世界では導かれるように心動かされるということが珍しくない。
 彼女の気持ちもそういう類のものなのかもしれない。

 食料も心もとないこの状況ではあるが、行かなければそれはまた別の面倒になるのだろう。

 運命という言葉でそういったことを片付けたくなるが、その言葉がセイは好きではなかった。

 転生者としてこの世界にやってきて、一介の人として生きるべく努力をしてきたというのに、何かから逃れたいわけではないが、決定事項として押し付けられている感じがして抗いたくなるのだ。

 もっとも、前世でも運命とか関係なしに、自分で何かを選択してきたかどうかと尋ねられると苦笑いしそうではあるのだが。

「レリア、危険だろうけど、行くか?」

「……セイ、すまないが付き合ってくれるか」

「もちろんだ、ここに来て降りるとかは言わないさ」

 レリアの微笑みにセイは見とれた。こんな状況でも彼女は輝いていると彼は感じた。
 何かを成し遂げるものの輝き、そんな気がする。

「ありがとう、それでついでなんだが……」

 彼女は短剣を取り出すと、自分の髪をばっさりと切って見せた。

「レリア!」

 彼女の行動に慌てるセイ。急に何をするんだと問い詰めてくる彼にレリアは穏やかな表情で続ける。

「もしもの時は遺髪として持って行って欲しい」

 決意の表情でセイを見る。

「頼まれてくれないか。まともなお礼も出来そうにないが……セイ、お前なら戻れそうな気がするからな。そうだ、このマジックバッグもやろう。これなら価値あるだろう。……駄目か? そ、そ、それとも私の身体をお礼に欲するか? その正直、水浴びも出来てないし鎧も脱げないこの状況下での……その……いや、お前が望むのならなるべく希望に沿うようにするつもりだが……」

 あれこれと考える呟くレリア。
 あたふたしながら依頼に対するお礼を必死に探る彼女。

「……」

 セイは彼女の頬に手を当てる。

「セイ? ……どうし……た……んんっ」

 ふと添えられた手に戸惑うレリアにセイは近付き、唇を重ねた。レリアは目を丸くして驚いたものの、拒否はしないで目を閉じて彼を受け入れた。

「そんな願い、聞いてやるかっ。俺はお前と一緒にこの大深林を抜けてみせる。その報酬として身を清めたお前をきちんと抱く、いいな」

「……きゅ、急にどうした、セイ」

 口付けの余韻にぼーっとしながらもレリアは目の前の男の変化に驚く。

「本当にいい女だよ。ここまで来てわざわざお礼とか精一杯考えて、健気で可愛くて、でも強い……俺には到底無理な話だ」

「そ、そんなことは……」

「ともかく、向かおう。冒険者としてここは引き下がれないし、お前があの鎧の場所に運命を感じるのなら付き合おう。でも死ぬことは認めないし俺だって死ぬつもりはない。いいな」

 セイの言葉にレリアは頷くしかなかった。


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