19 / 39
第19話
しおりを挟むセイの提案で早めの休憩を適当な場所で取る。
木陰、というかまあ背の高い木が生えているところなので、そこまで考える必要はないがそれでも虫などが居そうな場所は避けて足を止める。
「ふぅ……」
気持ちがはやって、ペースを乱しがちだったレリアは一息ついていた。
「……レリア、もし用を足しに行くなら目の届く範囲でして欲しい」
「はっ?」
休憩で水分補給しながら真面目に切り出すセイ。
レリアは目を丸くしてセイを見る。
凄く真剣な表情と口調で何てことを言ってくるんだ、この男はと軽蔑するが、セイはいたって真面目に続けた。
「セーフエリアの遺跡から離れた以上、安心できる場所は基本的にないと思って間違いない。もっともそのセーフエリアの遺跡でも交代で休んでいたように油断は出来ない」
「それは解るが……」
「恥ずかしがって距離を取って危ない事態になるのを避けるためだと思って頼む」
「……」
真面目な話をしているのだが、どうしてもレリアはセイの言葉に頷きがたい。
真面目な顔をして話しているだけにかえって胡散臭く感じてしまうのだ。
「し、下心はないのだろうな。そ、その男はそういう場面を見て興奮するものも居ると聞いたことがあるが……」
「下心というかスケベ心はある。そして恥ずかしがる姿も非常に良いと思っている」
セイは正直に答える。普段ならまず言わないような正直さだが、必要なところは晒し出す。相手はドン引きするだろうけど。
「っこ、このっ……」
「軽蔑するだろうが、それでも、少しでも可能性を高くしたい、生き残るために」
「理由は解るが、くうっ……わ、私の無防備なところを狙うつもりじゃあるまいな」
排泄時は何かと無防備になる。排泄に集中するために咄嗟の事態への反応が遅れることだってある。だから半分は言い分も解るのだが……セイだって男なのだ。そして自分は女なのだ。
「……いや、それは流石に……しない、と思う」
セイの視線が逸れる。即答せずに躊躇ったのがまた何というかセイもしっかり男なんだとレリアは思った。
「何で即答じゃないんだ……まったく、これだから男という奴は……」
そういいながら、自分がしっかりと女として欲望の対象として見られていたことに何処か安堵していた。
ここに飛ばされてからの数日間、良くも悪くも紳士だったから。まあ鎧を脱がしたときに照れたりもあったので、彼が抑えていたということなのだろうが……。
「何が起こるか解らないから……レリア」
下心があるのも確かだが、防止策があるならレリアを危険な目に遭わせないためにも、軽蔑されても構わなかった。
「……」
セイの言葉にレリアは顔を赤らめて視線を逸らすと、そのまま立ち上がって茂みの中に入っていった。
水音が少し離れた場所からやがてセイの耳に届いた。
***
「くっ……改めて意識させられると、ものすごく辱めを受けた気になる」
服装の乱れを整えながらレリアが茂みから戻ってくる。
彼の指示に従って用を済ませたが、非常に屈辱的な気分だった。顔も熱いし、赤くなっていること間違いないだろう。
「す、すまない」
セイも気まずそうな表情をしている。それだけでなく何処か落ち着きがないようにも見える。
音を聞きながら色々なことを考えて興奮したのかもしれない。状況が状況でなかったら飛び掛ってくるかもしれない、などとレリアは考えながら彼の傍へと戻った。
「謝るな。必要だと思ったのならもっと堂々としろ、と言っても無理だろうが……私にこれだけ恥を掻かせるんだ。下心だけでないと表向きにもっと取り繕え、まったく」
セイの動揺する姿を見ながらレリアが怒る。視線を向けると彼は股の辺りを手で隠していた。
「……っ」
「……」
「そういうところだぞ!」
レリアはセイの行動に思わず怒鳴り、はっとなって口を押さえる。
今のところ話し声で魔物が寄ってきたことはないが、辺りに響くほどの声だ。何らかの反応があるかもしれない。
「移動しよう」
休息場所を定めたばかりだというのにこんな事態になるとは思わなかった。
セイが間違った提案をしてきたとは思わなかったが、互いに色々溜まっているようで変な反応を引き出すのに十分な刺激を与えてしまったようだ。
「あ、ああ……」
そう言いながらセイが立ち上がり、辺りを見回す。途中、レリアがしゃがんだ茂みの付近で視線が止まる。
雫が草に乗って粒になってたり、周囲に比べて水気が多くなっている地面だったりがレリアの方からも見て取れる。
「……お前という奴は……本当に」
「い、移動しようか」
「まったく……」
今夜の野営にいささか不安を覚えるレリアであった。
***
その後、野営までは問題なく二人は大深林を進んでいった。
見られた見たは何とか収まって、元のペースで移動をすることが出来た。
問題は今度は大きいほうを互いにするということになったということだった。
「……」
「……」
二人とも用を足した後気まずそうにしている。
「すまない。何というか……うん」
セイも近くで用を足す恥ずかしさに、自分の提案の不味さに気付いたようだ。ただ、必要なことだけに撤回も出来ないので、しばらくは互いに悶えながら用を足すことになりそうである。男ということで、小の方はそれほど羞恥を感じなかったのだが……さすがに大だと色々と考えてしまう。
「……耐えろ。私も改めて口にされると恥ずかしくて死んでしまいたくなるから、黙ってろ」
「解った……」
近くで人が居る中、踏ん張るというのはなかなか辛いものがある。二人とも、ならお互い様的な感情処理も出来るのだが、周辺警戒をもう一人が行わないといけないのでどうしても順番に、互いに互いの踏ん張りを耳にすることになる。
興奮する人も居るだろうが、顔を合わせたときの気まずさが勝った。何より自分の踏ん張りも晒しているだけに、緊張して時間が掛かったのも余計に気まずかった。
「……男女パーティの難しさ、こういうところもあるんだな……」
野営の為に木の枝を集めながら一人呟くセイ。
安全と危険。安全な用足しを考慮してたら、パーティメンバーが興奮して襲ってきた、という話を聞いたことがある。
年頃の男女がお泊りで何日も過ごすのだ。間違いの一つや二つ起こっても仕方ないとは思うのだが、襲われた方はたまったものではない。
何より、踏ん張りの無防備な瞬間を直接ではないにしろ近くで居られることの恥ずかしさ。男のセイでさえ、ちょっと……と思うのだ。
レリアの恥ずかしさはもっとだろう。
騎士として戦いに赴くことになれば、こういう恥ずかしさは捨てなければならない時も来るだろう。だが彼女はまだそういう事態に直面していないのだろう。
「……逆に聞かれることに快感を感じて目覚めるのが居るとかも聞いたことがあるが……ちょっと解るかもしれない」
セイが用を足して帰った時に互いに顔を赤くして視線を逸らした。
用足しの踏ん張り、排泄音を異性に聞かれてしまったという事実……戸惑う異性の表情。露出狂のおじさんの気分の一端に触れた気がした。
自身の恥ずかしさと、異性の恥ずかしがる顔、両方が何かを刺激するのだ。
「気をつけないと……」
二人ばらばらでこの大深林を突破できるとは思えない。
変な暴走で仲違いすることは避けなければ、とセイは自分に言い聞かせた。
43
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる