14 / 39
第14話
しおりを挟む翌朝、二人は言葉なく朝食を取る。
「レリア」
食事を終えてからセイがレリアに話しかけてくる。
「何だ、謝罪の言葉なら受け付けんぞ」
昨日の夜の遣り取りでの怒りが抜けないのか、刺々しい感じで返事をするレリア。
「違う、そうじゃない……。尋ねたいことがあるんだ」
セイは、レリアの怒りを気にせずに切り出した。怒っていることは解っているが、それは一旦置いて聞きたいことがあると言われてレリアは面食らう。
「なんだ……」
その態度に毒気を抜かれて、怒りを納めてセイの言葉を待った。
昨日から考えていたことなんだが、と彼が切り出してきた。
指を鳴らす行為での火付けの火力がわずかだが高くなっているということは話したが、そういった変化がレリアにも起こっていないか、ということが主な話だった。
少し剣を振ってみて欲しいと言われて、レリアは一通り剣を振ってみせる。
ここに飛ばされてきて、緊張が続いていた分疲労で少し鈍い気もするし、それほどでもない気もする。
「どんな感じだ? 剣が軽く感じるとかそういうのはないか?」
「……言われればそんな気がするかもしれないが、気のせいと言われれば、そうかもしれないと思える程度で違和感は特にない」
ぶれもなく、思ったところに思った速度で普通に剣は振れている……気がする、とレリアは感じいてる。
「そうか……。そうなると影響は限定的なのか……もしくは君の鎧の効果で阻害されている可能性もあるし、もしかすると個人差があるかもしれない」
セイが考えていたことを口にする。彼もあまり憶測だけで物を言いたくなかったがパートナーを傷つけるだけの沈黙を止めたようだ。
「今から話すことはかならずしも正解とはいえないが、都合が悪くて隠しているわけじゃないから……話すよ」
「ふむ、解った」
「ここに来てずっと魔素が濃いという話をしていたと思うが、考えるにその魔素が原因じゃないかということが起こっている。濃密な魔素によって人の魔力か何かが強化されているかもしれないんだ」
やたら火付けの火力がどうとか言っていたことと話が結びつく。なるほどここに来てからの違和感をずっと彼は考えていたのかとレリアは納得する。
「ということでレリア脱いでくれ」
納得したところに爆弾が投げ込まれる。
セイはいたって真面目な顔だった。
「はっ……お、お前いきなり何を言い出すんだっ。わ、私にいきなり脱げなどと……その……」
脈絡なく脱衣を迫られて戸惑うレリア。失礼な物言いながらそこは咎めず戸惑う辺り彼女は押しに弱いのかもしれない。
が、それで次期女王が務まるのかとも思うところである。
「…………あ、いやその……そういうことじゃなくて」
「ほほう、そういうこととはどういうことだ。隠さずにしっかりと説明してもらえるんだろうな」
自分の言葉の受け取られ方に気付いたセイが動揺すると、急にレリアが切り返して迫ってきた。
「何もかも脱いで裸になって欲しいとかではなくて……その鎧を……色々な効果が付与されている鎧を外して、この大深林の魔素を感じて欲しい……そういうことなんだ」
「ほほう……なるほどなるほど。全部は脱がなくていい。鎧を脱がせておいて、無防備になった私に襲い掛かって残りは自分で脱がそうというのだな」
セイが慌てているのに楽しくなったのか、とんでもないことを口にするレリア。
「違うから」
即、否定するセイ。
「違うのか!」
あまりに早い否定にレリアが怒鳴る。
「……襲って欲しいのか? レリア」
あまりの勢いに思わずそう尋ねてしまうセイ。その言葉にレリアは自分の言葉を省みて顔を赤くする。
「そ、そそんなことはないぞ。ただ、やはりこの鎧を外すとなると少し恥ずかしいな……」
「駄目か? 駄目なら別に構わないが……」
別に構わないといいつつセイはレリアに試みに付き合って欲しいという雰囲気を醸し出している。そんなセイの様子にレリアは思いきって彼に付き合うことにした。やはり押しに弱い次期女王候補。
もし武官派の将軍が居たなら、流されてはいけませんぞ、と諌めてくるだろう。
「解った……お前の提案を受け入れてやるから、さっさと済ませるとしよう」
二人きりという異常事態に何かがおかしくなっているのかもしれない、とどこかで思いながらもレリアはセイの提案に乗って彼に付き合うことにした。
42
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる