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第13話
しおりを挟む朝とは方角を変えて、二人で大深林を探索してみたものの、特に成果はなかった。ただ徒労を抱えて遺跡に戻る。
「……何もなかったな」
「……そうだな」
一日中歩いただけあって二人とも疲れていた。
特にレリアは、水場で魔物の気配に気付けなかったことを気にしていたようで、常に気を張って周囲を警戒してた為に余計に気疲れしていた。
そのまま倒れ込みたいところだが、まだ食事も取っていないので、気力を振るって準備をする。
昼間と同じように、小枝や枯れ葉を使って火を熾し暖を取る。その際に指を鳴らして無詠唱の着火魔法を使うセイ。
やはり納得いかないのか、首を傾げる。
「……」
また火の点き方が変だとか気にしているのだろうか、気にしても仕方ないと思うのだが、とレリアは横目でセイのことを見ながら自分の分の食事の準備をする。
「今日は私から休んで構わないか?」
携帯食料と水を取り出しながらレリアがそう切り出す。
「構わない」
短く答えるセイ。まだ、火の点き方に納得がいかないのだろうか、考え込んでいる。
が、レリアと同じように、荷物から携帯食料と水を取り出した。
「……やはり、違う気がするな」
「……」
考え事をしながら食事をするセイに少し苛立ちを感じ始めるレリア。
魔法のことは得意ではないが、思わせぶりにずっと考え込まれていると周りの雰囲気もひっぱられて悪くなってしまう気がする。
相談されても彼の期待に応えられるような言葉を口に出来ないとは思うのだが……それでも、である。
ちょっとくらいこちらを気遣って欲しい、と言いたくなるが口にはしない。昨日は紳士だと思っていたセイが少し憎らしくも思えてくる。
この大深林に二人きり。
このままだと二人ともここを出られることなく死ぬかもしれないというのに、確信がないと言って懸念しているらしいことを口にしない。
互いに協力してここから脱出しようと握手したのが遥か昔に思える。
ぱちぱちと木の爆ぜる音だけが元気がいい。
二人の間にだんだんと不穏な空気が流れ始めていた。
***
「どうしてもっと早く起こしてくれなかった」
夜中になって目を覚ましたレリアが抗議の声を上げた。セイは、レリアの抗議に申し訳なさそうな顔をする。
「君が疲れていたようだったから」
「……それはどういたしまして」
礼を言いながら苛立つレリア。言葉が足りない、もっと私達は話し合わなければならないのではないか。
「だが、私とて騎士の端くれ。一方的な気遣いは不愉快だ」
「すまない」
「そしてその謝意のない謝罪も止めろ。余計に不愉快だ」
「……そう感じたなら申し訳ない。少々考え事をしていたもので」
ぺこりと頭を下げるセイ。それに対して余計に腹を立てるレリア。
「お前は口を開けば考え事、考え事、考え事っ。そればかりではないか。確かに私は魔物の潜んでいる沼の危険性も見抜けない間抜けで頼りにならないだろう。それでも、今この大深林に二人きりなのだぞ。もう少し話してもいいだろうっ」
レリアは怒り心頭といった感じでセイに詰め寄ると、彼の胸ぐらを掴む。セイはそんな彼女行の動に驚きながらも目を逸らす。
「……くっ。もういい、さっさと休めっ」
「……すまない」
「…………」
また謝罪だ。そういう言葉が欲しいわけじゃない。レリアは怒りを表して沈黙する。
セイはそれ以上は言葉を掛けられず、睡眠を取ることにした。
レリアは眠りに就いたセイを見守りながら、これからのことを考えていた。こんな状態ではいけないと思いつつもつい言葉を荒げてしまったことを省みつつも、結局何も話してくれないセイにまた怒りを覚えていた。
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