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第12話
しおりを挟むさっそく、二人は一緒になって大深林の探索を始めることにした。
セイが、鉈を取り出して、邪魔になりそうな草木をざっくりと薙ぎながら進んでいる。
「かなり魔素が濃いが……平気なのか?」
やや顔色を悪くしながらセイが訊ねる。
「ああ、そこまで濃いとは感じないのだが……この装備が良いのかもしれないな」
そういって自分の鎧一式を指し示すレリア。疲労軽減とか含めて色々な付与がされているようだ。
「なるほど……そういうことか」
対して一般冒険者であるセイにはそこまでの装備は持ち合わせていない。特別な効果はないが、丈夫で動きやすいという方向での性能重視の装備だ。特にセイは安全重視であまり討伐は引き受けてないだけに、楽に動けて薬草採取が出来るようなものにしている。
ただ、この濃密な魔素に対する感想が感覚的に違いがあるように思えるのはセイの気のせいか。
魔法耐性の強化だけでは説明がつかない何かがあるような気がするが、今のセイには言葉に出来なかった。
「……んっ……」
厚手の皮手袋で草を避ける。後からついてくるレリアの邪魔にならないようにしっかりと切り払ってから目的の方向に進んでいく。
と、ふと手でレリアを制してから歩みを止めて、辺りを注意深く見回すセイ。
「どうした?」
ゆっくりとなるべく物音を立てないように歩いてセイの横に並ぶレリア。
セイは先の水場らしきところを指差した。
「自然に湧き出た水場の可能性もあるが……嫌な予感がする。レリアから見てどう感じる?」
セイの表情は真剣そのものだったが、レリアはぴんと来ない。
彼女の目には何の変哲もない水場に見える。飲み水には向かなそうな濁った水場であるが……あるいは誰かが利用した直後なのか、それならば周りを警戒するべきか。
「いや、特におかしなところは感じられないが」
「魔素が一際強い気がする」
そう言ってセイは近くの木の枝をその水場に向かって投げた。
ぽちゃり、と水音がする。
だが、ただそれだけで特に変化はないように思えた。
「気のせいじゃないか?」
レリアが大丈夫そうだと思ったところ、水場が一瞬盛り上がり、そしてすぐに元に戻る。
「スワンプマッドドールか何かだな……」
はっきりとした姿はなかったがあきらかに水ではない何かがそこに居るようだった。
「……」
不用意に近付くと沼地に引き込まれそのまま命を落としかねない魔物の名前をセイは口にしていた。
「油断しなければなんてことはないが、うっかりすると窒息させられてそのまま引きずり込まれて取り込まれる」
泥人形だけあって動きが素早くなく乾燥に弱いため、水場から離れて襲ってくることはそうそうない。
だから、注意していれば問題はないのだが、設置型の罠みたいなものなので、身構えずに彼らの領域に踏み込んだ場合とても危険なのだ。
「この辺りの水場は奴らのテリトリーかもしれない。気をつけて進もう」
「……そうだな」
レリアは危険を察知できなかった。油断していたわけではないが、色々な場所に出向く冒険者とはやはり注意の向け方が違うようだ。
セイの力を当てにするのは駄目だが、素直に彼の力を認めるべきだと思いながら迂回して先に進んだ。
その後はめぼしいものはなく一旦引き返すことになった。
途中、セイがレリアに疲れてないかと尋ねてくる。
レリアは素直に警戒に神経を使ってしまって疲労が溜まってきた気がすると答えるとセイはそうか、と若干考えるそぶりを見せた。
何か気になることがあるのかと思ったものの、レリアは特に尋ねることなく遺跡へと戻ってきた。
***
遺跡に戻って火を熾しなおして昼食を取る。
「……」
小枝を組んで枯れ葉や枯れ草を盛って、それに向かってセイが指を鳴らして火をつける。
無詠唱の特殊魔法。
ファイヤースターターに毛が生えた程度の火の魔法だが、こういう場では非常に便利だ。
ぱっと火が点いてぱちぱちと木の爆ぜる音を奏で始めた。
セイは、火が点いた後も何度か首を捻りながら、指を鳴らしていた。
「どうした?」
何かの合図なのかと不審がるレリア。
こんな大深林で仲間と待ち合わせて自分をかどわかすとかは考えにくいのだが……。
そもそもあの遺跡のあの石碑みたいなものが動いたこと自体がありえないことなのだから、そこから想像を拡げていくのは無理があるというものだ。
「気のせいかもしれないが……」
まだ確信は持てないが火の点き方が違うとセイが答える。
「火の点き方が違う? 何かおかしいのか、それが。場所や着火物の違いによって違いなんて当たり前に出るものじゃないのか?」
「……そうだな」
セイはレリアの言葉に同意するものの、思うところが違うのか思索の海に沈む。
確信が持てないと前置きをした上での話といい何かと思わせぶりなセイの態度が気になったが、それを咎めて険悪な仲になるのも不味いと判断してレリアはそれ以上の追及をしなかった。
もさもさと炙った干し肉を齧りながら、パンを水で流し込む。
首を捻るセイの横で、レリアは黙々と食事を済ませた。
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