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第08話
しおりを挟む「ここは……」
ただただ広い空間というかダンジョン途中の広場。
ダンジョンの壁をぶち抜いたような何の変哲もない広場な階層。あまりに広くて地下ということ考えると柱がないことが若干不安になるくらい見渡す限り広場だった。急に天井が崩れてくるんじゃないかという不安を感じさせる。
レリアは今までより少し高めの天井を見上げた。何もないためマップも省略して記載されており実際に見ると広さに圧倒される。
特に、これが地下に広がっているということが彼女に驚きをもたらした。
何か発光体があるのか、地下にあって、天井から光で照らされて、それなりに明るく視界も良好で、このダンジョンにおいて、あきらかに異質な場所であった。
「何か、あるのだろうか? ただ目的もなくこのような空間が広がっているとは思えないが」
傍らの騎士に訊ねるレリア。
「いえ……それが、冒険者ギルドの方でも何度も調査しているようなのですが、特に何も見つかっていないようで、依然として謎のままとのことです。姫様の安全を考えるとここで立ち止まるよりも駆け抜けるほうが良いかと思われますが……」
騎士は異様な印象を階層から受けるのか、早めに抜けることを提案する。
「唯一の手がかりがこの石碑のようなもの、か……」
マップにも記載されたこの広大な空間にぽつんと存在する石碑っぽいもの。
レリアはその石碑に興味があるようで手を伸ばしている。
「姫様、そのように不用意に触られますと何が起こるか解りません。ただちに触るのをお控えくださいませ」
「大丈夫だ。石碑だろうし触ったところで特におかしな事が起こるはずも……おや?」
レリアが石碑を触ったときに明確な変化が起こった。石碑の表面に光が走り、文字が刻まれていく。
見たこともない文字が浮かび上がり何かが起動したような音が辺りに響き振動が起こる。
レリアに随行した騎士たちは、遺跡ダンジョンの覚醒に動揺した。
地震などめったにないこの国で、ダンジョンの床という大きなものが揺れるなどとは、それこそ天地がひっくり返るような驚きの出来事なのだ。
「ううむ……これは……」
何かしらの音楽が流れているが、まったく聞き覚えない不思議な律動。状況が把握できないまま事態が動き出してた。
「姫様!」
地震めいた鳴動に動揺しながらも何とか護衛対象を護ろうとする騎士だったが、その思いは残念ながら叶わなかった。
ダンジョンの天井の光が弱まって、辺りが暗くなる。
かと思うとレリアを中心に無数の糸のような光の線が広がり、消えていく。
多くの線は途中で延びるのを止めてしまったが、一本だけ伸び続けて一人の冒険者の上の円と結びつく。
かと思うとレリアとその冒険者、二人の足元に魔法陣が広がりを見せて、両者が光に包まれる。
ぐぉんっと一際大きく遺跡ダンジョンが鳴動して、動きを止める。
二人の居たはずの場所の光が治まると、二人は消えていた。
「レリア様っ!」
護衛騎士の叫びが広場に響き渡ったが、返事をするべき主はすでにここには居なかった。
***
同時間軸:セイ
「そういえばさ、ここにある石碑なんだけど……何か見覚えある気がするんだよなぁ……」
騎士団の後から、冒険者パーティが広場に入ってくる。その中には、ライのパーティの姿もあり、当然ながらライのパーティの一員としてこのダンジョンに潜っているセイも、同じように広場へと足を踏み入れていた。
何かがあるとしたら、ここの場所だと思っていたセイは引っ掛かっていたことを思い出してた。
「ここの石碑? 何かあったっけ?」
ライは何度かここを訪れているが、もっぱら興味は魔物対峙の方で、遺跡に対してはそれほど興味を示さなかった為にあまり記憶にない。
「なんか四角い石碑があった気がするけど……古代の遺跡っぽい何かで見覚えがありそうなものじゃないけど」
リーシャも思い出してみるが、何か類似のモノが思いつくような気がしない。
「……いや、多分、言っても解らない物だと思う。何となく似たような物、思い出したけど、故郷の物だ」
何故そんなことを思いつかなかったのか、いや、今思いついたのか……。
アナログテスターに類似したあの石碑は……某家庭用ゲーム機メーカーが古に発売していたもの。あれも、まあ普通にテスターみたいなものなのでどっちか解らないものだが……。
どちらにせよ、この遺跡に関わった人物に転生者が居たということなのだろうかと思う。
「故郷の?」
リーシャが不思議そうな顔でセイの顔を見る。彼女も石碑っぽいものについて思い出してみていたが何かに似ているなんて思いもよらないことだった。
セイの故郷は色々な変わった物があるのだろうか。
「ああ、遥か遠くの故郷の昔の物だ……」
「へえ……」
実のところ、ライはセイの故郷が何処なのか知らない。ただ遠いところ、としか聞いていなかったので、どの辺りかすらわからない。
まあ訳ありの冒険者にはそういうところを深くは触れないのが常識で、ライもそれに習っている。
遥か遠く、に込められた意味を知らないが、もう戻れないということだけはなんとなく彼にも解った。
「……何だありゃ?」
感傷に浸っていたはずのセイが声を上げる。彼に倣って同じようにダンジョンの天井を見上げると騎士団の居る辺りの中心付近から光の線が全方向に伸びていた。
「あの石碑があるところみたいだが……この音……プロポーズ大作戦じゃないか? それからすると、やはりこの遺跡……ってこっちに線が延びてくる」
セイにはこの現象に心当たりがあるようで、苦々しい顔を見せていたが、天井の光があきらかに彼めがけて線が延びているのを見て焦り出した。
「あの線がどうしたんだセイ」
「……俺かよ! ここは見合い会場何かってことなのか」
吐き捨てるような言葉の共に彼の足元に魔法陣が広がる。それと共に彼の身体が光に包まれる。
魔力を酷使しているためなのか、遺跡ダンジョンが呻き声を上げるように鳴動し始める。
地震に類似したその鳴動に多くの冒険者が動揺するなら、セイは魔法陣の光に包まれながら溜息を吐いていた。
「やっぱり、ライの直感が働いた時は大変な目にしか遭っていないな……」
ふわりと身体が持ち上がる。独特の浮遊感に眉を顰めながら大人しく身を委ねるセイ。
光が強くなり、まぶしくて目を開けてられない。
「……セイ!」
ライの叫び声が聞こえた気がした。けれど、何か言ったであろう言葉は届かず、セイは何処かへ消えていった。
光が治まった後にはそこに居たはずの一人の冒険者は居なくなっていた。
迷宮の鳴動はそれに呼応するように止まり、何事もなかったのように静けさを取り戻していた。
「セイが……消えた?」
リーシャの呟きにライが頷く。
「転送されたみたいだね……何処へかはまったく検討もつかないや」
セイの居た場所をじっとライは見つめていた。
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