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第06話
しおりを挟む「ここが、ディッテニィダンジョン……」
護衛を伴いながら、ダンジョン前の入り口部分を見て廻る女性。
このダンジョン攻略の主役、レリア・カルネージュ、その人である。姫騎士として騎士団の一翼を担っているが今の彼女は鎧ではなく楽な格好をしていた。
白のゆったりとしたワンピースを彼女は纏っていた。
シンプルながらも王族らしい刺繍が施されており、彼女の自身の素材の良さもあいまって華やかに見える。
「ふふっ……」
ふんわりとスカートを翻し、魔力を帯びた柱の上を見やる。手を添えてその魔力をより感じる。だが、それ以上のことは解らない。
風がそっと彼女の頬を撫でた。
「運命の迷宮……」
古代遺跡の佇みは神秘的ではあるものの、特に目立つような特徴もない平凡なダンジョン。聞かされた通りだと思いながらもこの遺跡が残っていながら平凡とは失礼な話だとも思う。おそらくは中身のダンジョン部分の評価なのであろうが、それでもこの石柱の立ち並ぶ様は古代ロマンを刺激する。
そんな思いを抱きならが辺りを散策するレリア。
石畳の間からは雑草が生えてきていて、その伸びた雑草が時折足を撫でる。くすぐったさに目を細めながらも、注意深く雑草を観察する。
怪しげな雑草に肌を傷つけられてはたまらないと考えているようだが、そういった類の草はこの辺りには生えていないようで胸を撫で下ろす。
とん、とんと踊るように背の高い雑草を避けながら歩みを進める。
そんなレリアに対して護衛騎士たちは緊張した面持ちで周囲を警戒しながら、彼女に付き従う。
まだダンジョンに入っていない段階であるし、騎士団を引き連れているだけに魔物も近寄っては来ないと思われるが、害をなすのが必ずしも魔物と限らないのが人の世というものである。
「……」
あるいは不審な者が近付かないかと周囲に目を光らせる護衛騎士たち。
レリアもそんな騎士達の苦労を知っているだけに、駆け出したりはしないでゆったりとした歩みで遺跡を巡っている。
この辺りは特に不審なところはなかったが、近くにはギルド派遣の冒険者のキャンプも存在している。
ギルド管轄のダンジョンということで横槍が入ってきた、と感じている騎士達。何より金のために何でもするような冒険者たちだ。
この国の将来を左右することになるかもしれないこの任務をしっかり全うしなければならないと気を引き締める。
「こんなに綺麗なところがダンジョンだなんて、世の中は不思議に満ちてますね」
くるくると踊るように辺りを見回すレリア。ふわりふわりと風を含み広がる白いスカート。
騎士として戦いに赴くときとは違う、柔らかな表情ではしゃぐレリアの姿に護衛騎士たちの心が癒される。
我らが主たる姫騎士を何としても護り抜くと心に誓う騎士たち。
と同時にそのおみ足が見えるほどくるくる廻るのは控えて欲しいと視線を逸らす騎士たちであった。
***
ノイズの多い先見に頭を捻りながらもレリアは多くの騎士と共にダンジョンに潜る。
ギルド勢力との打ち合わせも終わり、いよいよとなった。
「騎士たちよ。我と共に栄光を!」
この任務に随行することを栄誉と称え、騎士たちを鼓舞するレリア。
姫騎士としての実力を示しつつ、隊長としてもしっかりと学んでいることを示しながら先陣を切る。
とはいえ新人向けダンジョン。ここまで気負うこともないというのが多くの見方であったが、先見の言を知る者はひそかに我こそ王配になろうと野望を燃やしながら歩みを進めていた。
普段は静かなダンジョンがにわかに騒がしくなる。
一体ここで何が待つというのだろうかと誰もが思いながらも、命令に従って着々と進んでいく。
「私達はこちらへ進みます」
ダンジョン内部。入り口の広間から続く通路を歩き、分岐するたびにレリアは指を指しながら進む。
護衛騎士は彼女の指差す方向に注意を払うが特に怪しいものはない。
近くから、遠くから、ガシャガシャと騎士の鎧の音が聞こえるだけで、魔物はすぐに駆逐されて居なくなっている。
幾つかに分かれた道であるが、行き止まりは少なくて、ダンジョンの階層を下る階段には気負うことなく進んでいけば容易に辿り着ける。
ギルド提供のマップを手にしつつも、レリアはこの階層は特に深く考えずにこっちに行きたいと指を指して攻略を進めていた。
時折現れる魔物も騎士たちの敵ではなかったし、危険度としては高くないだろう。
新人冒険者向けと評されるダンジョンだけあって、護衛騎士の相手にならない魔物など出るはずもない。
連携の取れた動きで手際よくダンジョンの魔物をレリアの手を煩わせることもなく排除していった。
「……ふぅ」
気を張っている護衛騎士の一人が息を付く。
彼は先見の言について知ることなく、姫騎士随行の護衛騎士としてダンジョンに潜っているので、何故こんなギルド管轄で初心者向けのダンジョンに主たるレリアが来るのかさっぱり解らなかった。
実績つくりでもなく、ただただ大挙して安全に進めるように……にしては大げさすぎる。
何人かの護衛騎士は普段と違う顔つきで、何かを企んでいるように見えて注意を払うべきだと考えている。
いざとなれば、この身を挺して姫騎士を護る所存ではあるのだが、目的がなんなのかということがずっと気になっている。
「一体ここに何があるというのか」
姫騎士様は『運命の迷宮』とおっしゃっておられたが……運命とはまた意味深で何処か逆らいがたい響きを感じる。
大いなる力を前に我等が主の助けになることが出来ようか、否か。
「こちらへ進みましょう」
そんなひそかな護衛騎士の苦悩を知ってか知らずか、迷いのない笑顔でレリアは行き先を騎士達に示すのであった。
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