姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう

文字の大きさ
上 下
1 / 39

第01話

しおりを挟む


 ゴーン、ゴーンと教会の鐘の音が青空に響く。昼時の鐘だろうかと鐘楼へと視線を向けるのは黒目、黒髪の整った顔立ちの青年冒険者。
 くたびれた装備はベテランというべきか、貧乏のために新しくあつらえないというべきか。

「転生して三年……ざまあもなければ成り上がりもない」

 そんな平凡な人生……本当に平凡かは正直微妙だが、ともかく目覚しい変化はない。
 積極的に動かなければこんなものだということをセイは実感していた。
 転生前とそれほど変わらない。冒険心もなく臆病で、平凡で、それほど変化ない日々に埋没することを選択し続けるだけ。

 今日は、簡単な薬草取りの仕事を請け負ってそれをこなしている。
 彼にとっては日常で、危険があまりない仕事である。
 薬草袋には依頼通りの薬草が詰まっていた。

 駆け出しの冒険者がこなすような安い依頼だが構わないし気にしない。
 仕事自体は重要なものではあるが、ギルド協会に身を置くようになって三年も経った奴がこなす仕事ではないと揶揄されることも多い。
 けれど他に比べて安全である、それが彼にとっては重視するべき点なので、周りの冷やかしは気にならない。

「昼飯代くらいにはなるか……」

 薬草摘みの仕事はそんなに人気がない。重要ではあるが、基本常設依頼で、単純に報酬が安いというのが上げられる。
 セイが口にしたように、種類にもよるが近郊で採取が可能な物は買い取り価格が低く、昼飯代くらいの安さになるものも少なくない。
 それも当然で、近郊の森だと魔物との遭遇の確率は極めて低く、農家の子供の小遣い稼ぎみたいなものと言われているくらいなのだ。

 言われているだけで、魔物が徘徊する森に子供を向かわせる親はいないのだが、ともかくお手軽でお気軽な仕事と思われている。

 それでもセイが積極的にこの仕事をこなす理由は、彼がパーティを組むのが苦手だからという他ならない。

 苦手というだけでまったく組まないということはないのだが……。
 男だらけのパーティに臨時で入ったこともある。
 華がなく汗臭い、体育会系のノリが強いところが多いが混成パーティーほど、気を使わなくてもいいので何度か迷宮攻略に随行させて貰ったこともあった。

 こういう冒険も悪くないと思っていたら……興奮したパーティメンバーに襲われそうになった。今でも時々思い出すくらい、嫌な思い出だ。

 転生前の世界では……成人した日本人女性が海外で成人前に見られることがある、と聞いたことがある。
 セイも生まれ変わったとはいえ素体が元の身体へと寄せていったのだろう、この世界においては割合と華奢で可愛く幼いと思われがちな身体となった。
 もっとも男ではあるし、そんなに低身長でもないのだが……。

 ダンジョンの催淫の罠だか何だかに掛かったパーティメンバーに『俺、前からお前のことが……』から始まる告白をされることになってしまって、逃げた、逃げ出した。
 結局、そのパーティとはそのまま縁を切ることになった……今思い出しても悲しい記憶だ。

 そういう思いをしたくないと、女っ気がないパーティに、女性メンバーを一緒に参加させたらどうなるか? 答えは簡単だ。お察しの通りである。
 そうでないケースもなくはないだろうが、オタクサークルの姫のような扱いを受けたりとか、逆に……男達のいいようにされたりとか、ともかく良い話を聞いたことがない。

 元からの混合パーティだと、リーダーのハーレムだったりで、新参が入ったところで添え物扱いだったりで碌な事にならなかった。

 じゃあ、信頼できる仲間を一から集めればいいじゃないか……とも思うのだが、今所属しているギルド協会でパーティに入らずか、入れずか、解らないが、ともかくあぶれているソロは大抵訳ありの者しか居なくて、信頼を育むにはいたらない。

 元日本人の異世界人ということは公言していないものの、正直、非常識枠の一人としてセイも見られているようだ。この世界の常識的な習慣、慣例を知らない、辺境の偏教育者という扱いを受けているみたいだった。

 なんとか三年、生き延びたが、確かに慣例とか習慣とかで、ここでの常識とは違うことをしてしまって奇異の目で見られたことも珍しくない。
 更にはこの世界では珍しい見た目、黒髪黒目で整った容姿が目立つ……幼く可愛い枠に収まることも多いのだが……。
 件のパーティでは『艶やかな黒髪はぁはぁっ』とか言われた嫌な記憶があるが今はおいておこう。

 そういうこともあってなかなかパーティに入れて貰うにも難しいものがあるのだ。
 結果として、セイはソロでの活動がとても多く長くなってしまっていた。

 危機管理、荷物管理の問題で、遠征にもなかなか行けないし、迷宮は臨時に加わることはあっても長期攻略組には遠慮したい。
 ソロだと野営の見張りも自分一人。当然ながらろくに休憩も取れないので、長期間の依頼には向かずに、近場の安易な依頼を地道にこなすほかなくなるのだ。

 そんなこんなで今日も今日とて薬草を納品するセイである。

「ありがとうございます。いつも丁寧な仕事で薬師の方々から評判ですよ」

 そういって依頼掲示板より多めの報酬を受け取るセイ。

 この世界に来たときに、ストレージと呼ばれる異空保管庫のギフトスキルを貰ったセイ。
 他にも用途が解らないスキルが幾つか貰ったが,使い方があまり解っていないのだが、スキルの情報がない分、おそらく珍しいスキルだろうと思われるのだが……。
 それはともかくとして、である。
 ストレージも珍しいスキルらしくて、彼としては目立ちたくないのでこっそりとしか使っていない。
 スキル持ちの荷物運搬人として貴族に使い潰されることを危惧してのことである。

 そういった彼の事情はさておき、そのストレージスキルのおかげで荷物を痛めることなく保持できるので、状態の良い新鮮な薬草をセイは納品している。
 そのため、依頼主の評判が良く追加報酬が貰えているのだ。

 さらにそれにくわえて、薬師の人たちに、どんな感じの状態の薬草を、どういう風に採集すれば良いか、教えを乞うてあらかじめ予習というか準備をしていたことも功を奏したようだ。

 そういった点で仕事に対して真面目なのは前世の影響なのかもしれないが、こうして評価され報酬にも反映されているのは心地よかった。

 ギルド協会で精算して、報酬を受け取る。
 これから、この後には特に予定を入れていない、自由時間だ。

 何をするでもないが、とりあえず腹を満たそうと食事処に足を向けるとすでに多くの冒険者や街の人達が思い思いの時間を過ごしていた。

「さて……どうするか」

 セイは、食事処のテラス席に座る。無論、一人だ……慰めの言葉は要らない。
 空は抜けるような青さで見ていて気持ち良い。
 さっそく日替わり定食を注文してからこれからの予定をどうすべきか考える、
 考えるが思いつかず空を見上げていると、今日はもうこのまま予定も入れずにただぶらぶらとするのでもいいか、などと思い始める。

「お兄さん、注文の品、置いとくね」

 朗らかな声が響く。髪をポニーテールに纏めている少女が給仕としてセイのテーブルに来ていた。
 空を見上げている様子が不審に見えたのか、ぱっと定食を置いて逃げるように立ち去る。

 忙しいし、訳ありっぽい冒険者に絡まれて怖い思いをしたくないだろうし、そういったそっけない振る舞いが正解のように思えてくる。

 荒事を生業とするものが多くなると治安は悪くなる、そういうものだ。
 冒険者同士の小競り合いや、難癖をつけられたり、無茶な要求をされたりと、揉め事は珍しくない。

「ありがとう」

 去っていく背中にそう声を掛ける。昼時の忙しく騒がしい時間だ、その声が届いたかとどうか解らないが仕方ない。

 気を取り直して、運ばれてきた料理に目を向ける。
 本日の日替わり定食は肉野菜炒め定食。材料をたまたま安く仕入れることが出来たのか、日替わりというわりに日によって変わらずに、ここのところこの定食ばかりが日替わり定食として出てきている気がする。
 まあ飽きない味なので問題ないだろう、と今のところ思っているが……。

 自分以外の転生者が存在している、いたおかげなのか、あるいはこの世界の人たちが努力してなのか、知らないが、しっかりとした味付けの肉野菜炒め定食が提供されている。
 そのため連続で日替わりとして出てきているものの、セイは不満を覚えずに食事を終えた。

 ちなみに、肉野菜炒めの野菜だが、元の世界と似たような野菜が多い。
 味もだいたい想像通りにものではあるのだが、品種改良とかの面で大きな違いがあって、灰汁や苦味が強い。故にしっかりと処理しないと食べるときにしんどいものが多い。
 野営などで自炊をした時、その違いを知らずに失敗することが多かった。

「……ふうっ満足満足」

 ぺろりと定食を平らげて席を立つセイ。
 食事処を後にして街をうろつく。

「そろそろ装備を新調するべきかなぁ……」
 今使っている剣も、鎧などの防具類も、ギルドに併設されている武具屋で買ったものだ。
 安物ではないが、中古品で、冒険者になって三年。
 冒険するにしろ、さらなる安全確保にしろ、今装備している物よりも良い物が欲しくなるというものだ。

 そう思って試しに店を覗いてみるものの、やはり高い。買えない金額ではないが、あれこれ考えると保留したくなる。
 今の装備に不満があるわけではないのだが、命を預けるものだし、長く使うものだ。疲弊している可能性だってある。

 ここらで一丁奮発して……いや、止めよう。

 いつ何時、何が起こるか解らない。ソロゆえの後のなさ危うさが、消費を躊躇わせる。
 冒険で大怪我をしたら……働けなくなったら……不安はいくらでもある。
 魔法の存在する世界だし、四肢の欠損もある程度なら取り戻し回復できる。
 もっともそんな奇跡は安売りはされていないため、貯蓄が重要となる。
 そういった事情で、いざという時への備えを考えると財布の紐は自然と固くなってしまうのだ。

「そろそろ……本気でパーティでも組まないと駄目か」

 空は青く、心は曇り。今日もセイはそんな調子だった。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...