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エピローグ〜約束の場所で〜
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みことが生まれて三年後、ちとせは二人目を出産した。
今度は男の子なので「たける」と名付けた。
さすがに二人の子供を抱えての店の手伝いはきつくなってきたのではるかさんは島の大学に通う女の子をアルバイトに雇った。
彼女は「さんらいず」の近所のアパートに住んでいるそうで、今どきの子には珍しく真面目で勤勉な子らしく、みことやたけるの面倒もよく見てくれているらしい。
そして僕は週末にお義父さんの農場を手伝っている。
今日も朝から農作業をしていた。
畑につづく農道を一台の車が砂ぼこりを立てながら走ってきた、ちとせの車だ。
よく見ると助手席の窓からみことが手を振っていた。
「おとーさーん、おじーちゃーん、お弁当持ってきたよー」
みことがお弁当の入ったバスケットを重そうに抱えて走ってくる。
「けんごくん、みこと達が来たし昼飯にしようか」
「はい」
畑の一角に作ったベンチに僕たちは座った、僕たち家族は時々こうやって青空の下で食事をする、少しでも自然と触れ合う時間をとりたいからだ。
「遅くなってごめんね、お店が立て込んでて」
「いいよ、たけるは?」
「お客さんたちが離してくれないからお母さんに預けてきちゃった」
たけるもまた、ちとせやみこと同様にお客さんたちのアイドルとなっているようだ。
お弁当を囲んで楽しく話していると突然黒い影が横切り、
「わっ!」
と、みことが声を上げた。
トンビがお弁当のおかずを攫って行ったのだ。
「大丈夫?怪我してない?」
「大丈夫だけど、唐揚げもってかれちゃった…」
みことは泣きそうな顔をしていた。
見上げると唐揚げのはいっていたアルミカップがキラキラと光りながら落ちてきた。
「お母さんの作った唐揚げが美味しそうだから鳥さんも食べたかったんじゃない?」
そう言うとみことは
「うん、そうだよね、おいしいもんね」
と笑った。
以前ちとせとデート中に同じことがあったのを思い出して、僕とちとせは顔を見合わせて微笑んだ。
夕方家へ帰ると駐車場でみことが遊んでいた。
その姿を見て僕はあの時のちとせの姿が重なって見えた。
店の裏でたけるをあやしていたちとせが不思議そうな顔をして見つめてきた。
「どうしたの?」
「今みことが座ってる場所、君と初めて会った時に同じように座ってた…」
ちとせはハッとした顔をしたあと微笑んでこう言った。
「そうね、あの時からの約束もあなたは全部果たしてくれた、だからあらためて約束して」
「なにを?」
「この先もずっと一緒にいてくれるって」
そう言ってちとせは笑顔で小指を差し出してきた。
ちぃちゃんと僕 <完>
今度は男の子なので「たける」と名付けた。
さすがに二人の子供を抱えての店の手伝いはきつくなってきたのではるかさんは島の大学に通う女の子をアルバイトに雇った。
彼女は「さんらいず」の近所のアパートに住んでいるそうで、今どきの子には珍しく真面目で勤勉な子らしく、みことやたけるの面倒もよく見てくれているらしい。
そして僕は週末にお義父さんの農場を手伝っている。
今日も朝から農作業をしていた。
畑につづく農道を一台の車が砂ぼこりを立てながら走ってきた、ちとせの車だ。
よく見ると助手席の窓からみことが手を振っていた。
「おとーさーん、おじーちゃーん、お弁当持ってきたよー」
みことがお弁当の入ったバスケットを重そうに抱えて走ってくる。
「けんごくん、みこと達が来たし昼飯にしようか」
「はい」
畑の一角に作ったベンチに僕たちは座った、僕たち家族は時々こうやって青空の下で食事をする、少しでも自然と触れ合う時間をとりたいからだ。
「遅くなってごめんね、お店が立て込んでて」
「いいよ、たけるは?」
「お客さんたちが離してくれないからお母さんに預けてきちゃった」
たけるもまた、ちとせやみこと同様にお客さんたちのアイドルとなっているようだ。
お弁当を囲んで楽しく話していると突然黒い影が横切り、
「わっ!」
と、みことが声を上げた。
トンビがお弁当のおかずを攫って行ったのだ。
「大丈夫?怪我してない?」
「大丈夫だけど、唐揚げもってかれちゃった…」
みことは泣きそうな顔をしていた。
見上げると唐揚げのはいっていたアルミカップがキラキラと光りながら落ちてきた。
「お母さんの作った唐揚げが美味しそうだから鳥さんも食べたかったんじゃない?」
そう言うとみことは
「うん、そうだよね、おいしいもんね」
と笑った。
以前ちとせとデート中に同じことがあったのを思い出して、僕とちとせは顔を見合わせて微笑んだ。
夕方家へ帰ると駐車場でみことが遊んでいた。
その姿を見て僕はあの時のちとせの姿が重なって見えた。
店の裏でたけるをあやしていたちとせが不思議そうな顔をして見つめてきた。
「どうしたの?」
「今みことが座ってる場所、君と初めて会った時に同じように座ってた…」
ちとせはハッとした顔をしたあと微笑んでこう言った。
「そうね、あの時からの約束もあなたは全部果たしてくれた、だからあらためて約束して」
「なにを?」
「この先もずっと一緒にいてくれるって」
そう言ってちとせは笑顔で小指を差し出してきた。
ちぃちゃんと僕 <完>
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