35 / 36
ちとせ、21歳<4>
しおりを挟む
ちとせの出産予定日が近づいてきて僕を含めてまわりの人たちがそわそわし始めていた。
ちとせ本人は大きくなったお腹に苦労しながら今日も「さんらいず」でお客さんの相手をしている。
「無理しなくっていいのに、ゆっくり休んでなよ」
「うん、でもじっとしてるのも逆に辛いし気晴らしになるからね」
そう言ってちとせは笑っていた。
僕もいつ産まれるか分からないのに仕事を休むわけにもいかないので普段通りの生活を送っていた。
そして予定日を1週間過ぎたある日、仕事中に電話がかかってきて事務所に呼び出された。
お義母さんからだった。
「けんごくん、陣痛がきていよいよ生まれるみたい、今から病院へ連れていくから」
「わかりました、すぐに向かいます」
そう言って電話を切った僕は上司に早退を告げて職場を離れた。
出がけにカワムラさんが、
「けんごくん気をつけてな、慌てて事故でも起こしたら笑えないぜ、無事に生まれるの祈ってるよ」
そう言って送り出してくれた。
バスが来るまでの時間がものすごく長く感じた…
やがてバスがやってきた、一旦家に帰って車に乗り換える。
そして僕は島で一番大きな病院へ向かった。
病院へ着くとはるかさんとたけしさんも農作業を途中で切り上げて来てくれていた。
「遅くなってすみません、まだ生まれてないですか」
「まだね、看護師さんに言って分娩室に入ってあげて」
僕は通りがかった看護師さんに声をかけて分娩室に入れてもらった。
中に入るとちとせが苦しそうな顔をしていた、近寄って手を握ると安心したような表情で言った、
「けんごさん、間に合ってよかった」
「ちとせ、がんばるんだよ…」
僕はちとせの手を握って無事に生まれるのを祈りつづけていた。
どのくらい時間が経ったのか分からないけど突然泣き声が聞こえて僕はハッと顔を上げた。
「生まれました!おめでとうございます!」
看護師さんが声をかけてくれた。
「女の子です!」
僕はホッとしてちとせの顔を見ると疲れ果てた顔をしていた。
看護師さんに促されて一旦分娩室を出た僕はご両親に伝えた。
「無事に生まれました、女の子です」
はるかさんは嬉しさのあまり涙を浮かべていた。
たけしさんは、はるかさんの肩を抱いてうなずきながら「よかった…」と繰り返している。
そして看護師さんに声をかけられて新生児室へ赤ちゃんを見に行った。
「ちとせの生まれた時にそっくりだわ」
開口一番にはるかさんがそう言って笑うとたけしさんも「ほんとだ」と言ってみんなで笑った。
そしてたけしさんが「けんごくんありがとう、孫の顔が見れて俺は最高に嬉しいよ」と言ってくれた。
そしてちとせが病室に移ったことを看護師さんが知らせに来てくれ、僕たちはちとせの病室へ行った。
ベッドの上でちとせは疲れ果てたような、それでいてホッとしたような表情をしていた。
「けんごさん…」
「ちとせ、今は休んで」
「うん…」
僕はちとせを抱きしめてそう言った。
僕は会社に無事に生まれた報告と休暇の申請をするために電話すると、たまたまヤマネさんが電話にでてくれて「おめでとう、今は奥さんのそばにいてあげて」と言ってくれた。
次の日からちとせの同級生たちが赤ちゃんを見に来たのを皮切りに、「はるかぜ光画部」のみんなが続々と来てくれた。
1週間ほどしてちとせは退院してきた。
子供の名前は「みこと」と名付けた、この島には神話の伝承が数多くあり、その登場人物から取った名前だ。
ちとせと初めて行った「アイランドフェスタ」の会場でも神話をテーマにした映像作品の展示があり、そこからヒントを得た。
こうしてみことを加えた三人での生活が始まった。
日中ちとせはみことを連れて「さんらいず」を手伝っている。
みことはお客さんたちにもかわいがられているそうだ。
島の自然に触れ、ちとせ同様に元気でまっすぐな子に育ってほしい、そう願うばかりだ。
ちとせ、21歳 <了>
ちとせ本人は大きくなったお腹に苦労しながら今日も「さんらいず」でお客さんの相手をしている。
「無理しなくっていいのに、ゆっくり休んでなよ」
「うん、でもじっとしてるのも逆に辛いし気晴らしになるからね」
そう言ってちとせは笑っていた。
僕もいつ産まれるか分からないのに仕事を休むわけにもいかないので普段通りの生活を送っていた。
そして予定日を1週間過ぎたある日、仕事中に電話がかかってきて事務所に呼び出された。
お義母さんからだった。
「けんごくん、陣痛がきていよいよ生まれるみたい、今から病院へ連れていくから」
「わかりました、すぐに向かいます」
そう言って電話を切った僕は上司に早退を告げて職場を離れた。
出がけにカワムラさんが、
「けんごくん気をつけてな、慌てて事故でも起こしたら笑えないぜ、無事に生まれるの祈ってるよ」
そう言って送り出してくれた。
バスが来るまでの時間がものすごく長く感じた…
やがてバスがやってきた、一旦家に帰って車に乗り換える。
そして僕は島で一番大きな病院へ向かった。
病院へ着くとはるかさんとたけしさんも農作業を途中で切り上げて来てくれていた。
「遅くなってすみません、まだ生まれてないですか」
「まだね、看護師さんに言って分娩室に入ってあげて」
僕は通りがかった看護師さんに声をかけて分娩室に入れてもらった。
中に入るとちとせが苦しそうな顔をしていた、近寄って手を握ると安心したような表情で言った、
「けんごさん、間に合ってよかった」
「ちとせ、がんばるんだよ…」
僕はちとせの手を握って無事に生まれるのを祈りつづけていた。
どのくらい時間が経ったのか分からないけど突然泣き声が聞こえて僕はハッと顔を上げた。
「生まれました!おめでとうございます!」
看護師さんが声をかけてくれた。
「女の子です!」
僕はホッとしてちとせの顔を見ると疲れ果てた顔をしていた。
看護師さんに促されて一旦分娩室を出た僕はご両親に伝えた。
「無事に生まれました、女の子です」
はるかさんは嬉しさのあまり涙を浮かべていた。
たけしさんは、はるかさんの肩を抱いてうなずきながら「よかった…」と繰り返している。
そして看護師さんに声をかけられて新生児室へ赤ちゃんを見に行った。
「ちとせの生まれた時にそっくりだわ」
開口一番にはるかさんがそう言って笑うとたけしさんも「ほんとだ」と言ってみんなで笑った。
そしてたけしさんが「けんごくんありがとう、孫の顔が見れて俺は最高に嬉しいよ」と言ってくれた。
そしてちとせが病室に移ったことを看護師さんが知らせに来てくれ、僕たちはちとせの病室へ行った。
ベッドの上でちとせは疲れ果てたような、それでいてホッとしたような表情をしていた。
「けんごさん…」
「ちとせ、今は休んで」
「うん…」
僕はちとせを抱きしめてそう言った。
僕は会社に無事に生まれた報告と休暇の申請をするために電話すると、たまたまヤマネさんが電話にでてくれて「おめでとう、今は奥さんのそばにいてあげて」と言ってくれた。
次の日からちとせの同級生たちが赤ちゃんを見に来たのを皮切りに、「はるかぜ光画部」のみんなが続々と来てくれた。
1週間ほどしてちとせは退院してきた。
子供の名前は「みこと」と名付けた、この島には神話の伝承が数多くあり、その登場人物から取った名前だ。
ちとせと初めて行った「アイランドフェスタ」の会場でも神話をテーマにした映像作品の展示があり、そこからヒントを得た。
こうしてみことを加えた三人での生活が始まった。
日中ちとせはみことを連れて「さんらいず」を手伝っている。
みことはお客さんたちにもかわいがられているそうだ。
島の自然に触れ、ちとせ同様に元気でまっすぐな子に育ってほしい、そう願うばかりだ。
ちとせ、21歳 <了>
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
毒と花言葉
佑佳
恋愛
オレは先輩の秘密を知ってしまった――
オープンスクールのポスターに映っていた女子生徒を追って私立の高校に入学した瀬尾丈(せおたける)。
彼女――高城鈴蘭(たかしろすずらん)は、三年生に進級していた。
丈はなんとかコンタクトをとろうと一人奮闘し始める。
そんな折に、高城先輩との間を邪魔しに入ってきた男子生徒から、彼女に関する黒い事実を知らされて……。
ノーと言えない高城先輩の毒消しとなりたい丈は、泥沼の中から彼女を救い出すことができるのか。

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる