ちぃちゃんと僕

みやぢ

文字の大きさ
上 下
34 / 36

ちとせ、21歳<3>

しおりを挟む
ちとせの妊娠が判ってからしばらくして、成人式の案内が届いた。

予定日まではまだまだ日があるし、まだその頃にはそれほどお腹は大きくなってはいないだろうと思っていた。

高校進学で一度島を離れたちとせはもちろん行きたがった。

「何着て行こうかな、さすがに振袖は着られないし…」
「そうだよね、ちとせの振袖姿ちょっと見たかったけどね」
「あら、着られなくしたの誰かしら?」

そんなやりとりをしつつ、結局スーツを一着買うことにした。

休みの日に一緒に婦人服店へ行きいろいろ見て今よりお腹が大きくなっても大丈夫なものを選んだ。

「なんかOLさんみたいね」
「よく似合ってるよ、可愛いじゃない」

ちとせはまんざらではない様子だ。

「ねぇけんごさん、今度これ着て街へ行かない?写真撮ってよ」
「いいね、行こうか」

ちとせにそう言われて次の休みに街に出ることにした。

レトロなビルが立ち並ぶ一角でちとせをモデルに写真を撮り、途中「はるかぜ」へ寄ってマスターとようこさんにも見てもらった。

「ちとせちゃん可愛いねぇ」

二人にそう言われてちとせは満足げだった。

そして成人式の日がやってきた。
会場の市民ホールまで送っていくと晴れ着姿の新成人たちがたくさんいた。

ちとせはさっそく中学の同級生の輪に加わった。

同級生たちは久しぶりに見る大人びたちとせの姿に驚き、ちとせが結婚したこと、そしてお腹に子供がいることを聞いてさらに驚いた様子だった。
でも同時に祝福もしてくれたらしい。

式のあいだ僕は駐車場に停めた車の中でちとせとの今までのことを思い返していた。

まだ幼かったちとせが僕に抱いていた気持ちに応えられたのだろうか…これから僕たちはどう生きていけばいいのか、まだまだ手探りの状態だ、でもお義父さんが言ったように正解はない、選んだこと全てを受け入れていくしかないのだ。

やがて式が終わってみんなが出てきた、ちとせは仲のよかった同級生何人かとにこやかに話している。

ちとせは僕がいるのに気が付いて車へ駆け寄ってきた。

「けんごさん、みんなとお茶飲みにいくから連れてってくれる?」
「いいよ」

ちとせの中学の同級生の女の子二人を乗せてちとせが行きたいというカフェへ向かった。

ちとせの同級生たちは僕に興味深々でいろんなことを聞かれて返答に困ることもあった。

そして口を揃えて「わたしもちとせみたいに素敵な出会いがしたいなぁー」と言って羨ましがっていた。

そして二人を家まで送っていったあとちとせが、
「もう少し二人きりでいたい」
と言ったので海辺の公園へ行くことにした。

毎年この時期は冷え込みがきつく、島は寒風吹き荒ぶのだが今年は珍しく穏やかなお天気だった。

「あまり冷やすとお腹の子に響くよ」
「うん、わかってる」

ちとせは少し考えて口を開いた。

「けんごさんがいてくれてよかった、わたしのすべてを受け入れてくれる素敵な旦那さまだもの」

そう言ってちとせは抱きついてきた。

「子供が生まれるの楽しみね」
「そうだね、どんな子が生まれるか…」

こうしてちとせの成人式は無事に終わった、あとはお腹の子が元気に生まれてくるのを祈るばかりだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シチュボの台本詰め合わせ(女性用)

勇射 支夢
恋愛
書いた台本を適当に置いておきます。 フリーなので好きにお使いください。

大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています

真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

執着の軌跡

トミー
恋愛
内気で友達がいない黒川なつめは 白川まいと出会い、 二人は瞬く間に親友になった。 しかし、なつめはまいに対しての 感情が友情ではないことに 気づき始める。 ある日、先輩に告白されたとなつめに 打ち明けるまい。 なつめは、この話題を 早く終わらしたいと思い 「好きなら付き合えばいいんじゃない」 と思ってもいないことを口にしてしまう。すると、まいは 「気持ちを確かめたいからなつめの胸を 見せて欲しい」 と頼んできて‥‥ 切なくて儚いGL小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...