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ちとせ、21歳<3>
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ちとせの妊娠が判ってからしばらくして、成人式の案内が届いた。
予定日まではまだまだ日があるし、まだその頃にはそれほどお腹は大きくなってはいないだろうと思っていた。
高校進学で一度島を離れたちとせはもちろん行きたがった。
「何着て行こうかな、さすがに振袖は着られないし…」
「そうだよね、ちとせの振袖姿ちょっと見たかったけどね」
「あら、着られなくしたの誰かしら?」
そんなやりとりをしつつ、結局スーツを一着買うことにした。
休みの日に一緒に婦人服店へ行きいろいろ見て今よりお腹が大きくなっても大丈夫なものを選んだ。
「なんかOLさんみたいね」
「よく似合ってるよ、可愛いじゃない」
ちとせはまんざらではない様子だ。
「ねぇけんごさん、今度これ着て街へ行かない?写真撮ってよ」
「いいね、行こうか」
ちとせにそう言われて次の休みに街に出ることにした。
レトロなビルが立ち並ぶ一角でちとせをモデルに写真を撮り、途中「はるかぜ」へ寄ってマスターとようこさんにも見てもらった。
「ちとせちゃん可愛いねぇ」
二人にそう言われてちとせは満足げだった。
そして成人式の日がやってきた。
会場の市民ホールまで送っていくと晴れ着姿の新成人たちがたくさんいた。
ちとせはさっそく中学の同級生の輪に加わった。
同級生たちは久しぶりに見る大人びたちとせの姿に驚き、ちとせが結婚したこと、そしてお腹に子供がいることを聞いてさらに驚いた様子だった。
でも同時に祝福もしてくれたらしい。
式のあいだ僕は駐車場に停めた車の中でちとせとの今までのことを思い返していた。
まだ幼かったちとせが僕に抱いていた気持ちに応えられたのだろうか…これから僕たちはどう生きていけばいいのか、まだまだ手探りの状態だ、でもお義父さんが言ったように正解はない、選んだこと全てを受け入れていくしかないのだ。
やがて式が終わってみんなが出てきた、ちとせは仲のよかった同級生何人かとにこやかに話している。
ちとせは僕がいるのに気が付いて車へ駆け寄ってきた。
「けんごさん、みんなとお茶飲みにいくから連れてってくれる?」
「いいよ」
ちとせの中学の同級生の女の子二人を乗せてちとせが行きたいというカフェへ向かった。
ちとせの同級生たちは僕に興味深々でいろんなことを聞かれて返答に困ることもあった。
そして口を揃えて「わたしもちとせみたいに素敵な出会いがしたいなぁー」と言って羨ましがっていた。
そして二人を家まで送っていったあとちとせが、
「もう少し二人きりでいたい」
と言ったので海辺の公園へ行くことにした。
毎年この時期は冷え込みがきつく、島は寒風吹き荒ぶのだが今年は珍しく穏やかなお天気だった。
「あまり冷やすとお腹の子に響くよ」
「うん、わかってる」
ちとせは少し考えて口を開いた。
「けんごさんがいてくれてよかった、わたしのすべてを受け入れてくれる素敵な旦那さまだもの」
そう言ってちとせは抱きついてきた。
「子供が生まれるの楽しみね」
「そうだね、どんな子が生まれるか…」
こうしてちとせの成人式は無事に終わった、あとはお腹の子が元気に生まれてくるのを祈るばかりだ。
予定日まではまだまだ日があるし、まだその頃にはそれほどお腹は大きくなってはいないだろうと思っていた。
高校進学で一度島を離れたちとせはもちろん行きたがった。
「何着て行こうかな、さすがに振袖は着られないし…」
「そうだよね、ちとせの振袖姿ちょっと見たかったけどね」
「あら、着られなくしたの誰かしら?」
そんなやりとりをしつつ、結局スーツを一着買うことにした。
休みの日に一緒に婦人服店へ行きいろいろ見て今よりお腹が大きくなっても大丈夫なものを選んだ。
「なんかOLさんみたいね」
「よく似合ってるよ、可愛いじゃない」
ちとせはまんざらではない様子だ。
「ねぇけんごさん、今度これ着て街へ行かない?写真撮ってよ」
「いいね、行こうか」
ちとせにそう言われて次の休みに街に出ることにした。
レトロなビルが立ち並ぶ一角でちとせをモデルに写真を撮り、途中「はるかぜ」へ寄ってマスターとようこさんにも見てもらった。
「ちとせちゃん可愛いねぇ」
二人にそう言われてちとせは満足げだった。
そして成人式の日がやってきた。
会場の市民ホールまで送っていくと晴れ着姿の新成人たちがたくさんいた。
ちとせはさっそく中学の同級生の輪に加わった。
同級生たちは久しぶりに見る大人びたちとせの姿に驚き、ちとせが結婚したこと、そしてお腹に子供がいることを聞いてさらに驚いた様子だった。
でも同時に祝福もしてくれたらしい。
式のあいだ僕は駐車場に停めた車の中でちとせとの今までのことを思い返していた。
まだ幼かったちとせが僕に抱いていた気持ちに応えられたのだろうか…これから僕たちはどう生きていけばいいのか、まだまだ手探りの状態だ、でもお義父さんが言ったように正解はない、選んだこと全てを受け入れていくしかないのだ。
やがて式が終わってみんなが出てきた、ちとせは仲のよかった同級生何人かとにこやかに話している。
ちとせは僕がいるのに気が付いて車へ駆け寄ってきた。
「けんごさん、みんなとお茶飲みにいくから連れてってくれる?」
「いいよ」
ちとせの中学の同級生の女の子二人を乗せてちとせが行きたいというカフェへ向かった。
ちとせの同級生たちは僕に興味深々でいろんなことを聞かれて返答に困ることもあった。
そして口を揃えて「わたしもちとせみたいに素敵な出会いがしたいなぁー」と言って羨ましがっていた。
そして二人を家まで送っていったあとちとせが、
「もう少し二人きりでいたい」
と言ったので海辺の公園へ行くことにした。
毎年この時期は冷え込みがきつく、島は寒風吹き荒ぶのだが今年は珍しく穏やかなお天気だった。
「あまり冷やすとお腹の子に響くよ」
「うん、わかってる」
ちとせは少し考えて口を開いた。
「けんごさんがいてくれてよかった、わたしのすべてを受け入れてくれる素敵な旦那さまだもの」
そう言ってちとせは抱きついてきた。
「子供が生まれるの楽しみね」
「そうだね、どんな子が生まれるか…」
こうしてちとせの成人式は無事に終わった、あとはお腹の子が元気に生まれてくるのを祈るばかりだ。
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