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ちとせ、19歳<3>
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年が明けいよいよちとせの卒業が迫ってきた。
正月三ヶ日をちとせの実家で過ごしていた僕はちとせにある提案をした。
「天城島へ引っ越さないか?」
「どういうこと?」
「いろいろ考えたんだけど、これから僕たちが結婚して子供を育てるのにこの島はいい場所だと思うんだ」
「けんごさんのお仕事はどうするの?」
「高速バスを使えば支障ないよ、時間も今とそんなに変わらないし、交通費は会社から出るからね」
「うん、それは嬉しいけど…」
橋が開通してやがて10年になろうとしている、その間天城島は劇的に発展していた。
大きなショッピングモールができ、島を貫く国道沿いには全国チェーンの大きなお店が立ち並ぶようになって本土にいるのと変わらない生活が送れるようになってきていた。
それでいて今までの島の自然そのままの部分もまだたくさん残っていて、天真爛漫なちとせを育てた環境はまだ残ってると僕は思う。
「あとは住む場所さえ見つければ問題はないと思うんだ」
「そうね、けんごさんがそういうならわたしは反対しないよ」
賃貸住宅の相場を調べてみたが、橋が開通して以降多少は上がったらしいがそれでも僕の住んでいる朝日市に比べれば格安と言ってよかった。
そしてその話をたけしさんにすると、
「いいじゃない、住むところならいくらでもあるよ」と言われた。
話をよく聞くと「さんらいず」のお店がある一角はもともとたけしさんのお祖父さんが所有していた土地でその後たけしさんが相続したそうで、店舗付き住宅を建てて貸し出し、そのうちの一軒で「さんらいず」を始めたそうだ。
「任せてる不動産屋に聞いてみるけど、例の現像所だったところが確か空いてるはずだよ」
こうして最後の問題は意外な形で決着した。
そして3月、ちとせの高校の卒業式に僕はご両親と一緒に参列した。
年が明けて卒業式までのあいだ、ちとせはほぼフルタイムに近い形で「はるかぜ」で働いていた。
少しでも両親や僕に負担をかけたくない、彼女なりに気を使ったのだろう。
卒業証書を手に、満面の笑みで校舎からちとせが出てきた。
「ちとせ、卒業おめでとう」
「うん、ありがと」
少ししてりょうたろうくんも出てきた。
「りょうたろうくん、卒業おめでとう」
「けんごさん来てたんですね、ありがとうございます」
「4月から大学がんばってね」
「はい!」
こうしてちとせは無事に高校を卒業し、僕たちは晴れて入籍した。
結婚式はちとせの希望で6月に行うことにした、ジューンブライドというのもあるが、進学、就職した同級生たちの生活が落ち着いてからの方がいいと考えたのだ。
そして島への移住の準備も進んでいた。
アイランドフェスタの際の仮設の現像所だった場所、その後カフェが入居していたが、数年前に閉店してその後は空き物件になっていたそうだ。
たけしさんの同級生が営む不動産屋に委託していたのだけど、僕たちが住むことになったので住居として改装してもらうことになった。
改装費は僕が負担したのだが、どう考えても相場よりかなり安かった。
たけしさんの幼馴染だという不動産屋さんは「たけしの娘婿だからね、多少の無理は聞いてあげるよ」と笑っていた。
改装工事は結婚式の直前に終わる予定とのことだった。
正月三ヶ日をちとせの実家で過ごしていた僕はちとせにある提案をした。
「天城島へ引っ越さないか?」
「どういうこと?」
「いろいろ考えたんだけど、これから僕たちが結婚して子供を育てるのにこの島はいい場所だと思うんだ」
「けんごさんのお仕事はどうするの?」
「高速バスを使えば支障ないよ、時間も今とそんなに変わらないし、交通費は会社から出るからね」
「うん、それは嬉しいけど…」
橋が開通してやがて10年になろうとしている、その間天城島は劇的に発展していた。
大きなショッピングモールができ、島を貫く国道沿いには全国チェーンの大きなお店が立ち並ぶようになって本土にいるのと変わらない生活が送れるようになってきていた。
それでいて今までの島の自然そのままの部分もまだたくさん残っていて、天真爛漫なちとせを育てた環境はまだ残ってると僕は思う。
「あとは住む場所さえ見つければ問題はないと思うんだ」
「そうね、けんごさんがそういうならわたしは反対しないよ」
賃貸住宅の相場を調べてみたが、橋が開通して以降多少は上がったらしいがそれでも僕の住んでいる朝日市に比べれば格安と言ってよかった。
そしてその話をたけしさんにすると、
「いいじゃない、住むところならいくらでもあるよ」と言われた。
話をよく聞くと「さんらいず」のお店がある一角はもともとたけしさんのお祖父さんが所有していた土地でその後たけしさんが相続したそうで、店舗付き住宅を建てて貸し出し、そのうちの一軒で「さんらいず」を始めたそうだ。
「任せてる不動産屋に聞いてみるけど、例の現像所だったところが確か空いてるはずだよ」
こうして最後の問題は意外な形で決着した。
そして3月、ちとせの高校の卒業式に僕はご両親と一緒に参列した。
年が明けて卒業式までのあいだ、ちとせはほぼフルタイムに近い形で「はるかぜ」で働いていた。
少しでも両親や僕に負担をかけたくない、彼女なりに気を使ったのだろう。
卒業証書を手に、満面の笑みで校舎からちとせが出てきた。
「ちとせ、卒業おめでとう」
「うん、ありがと」
少ししてりょうたろうくんも出てきた。
「りょうたろうくん、卒業おめでとう」
「けんごさん来てたんですね、ありがとうございます」
「4月から大学がんばってね」
「はい!」
こうしてちとせは無事に高校を卒業し、僕たちは晴れて入籍した。
結婚式はちとせの希望で6月に行うことにした、ジューンブライドというのもあるが、進学、就職した同級生たちの生活が落ち着いてからの方がいいと考えたのだ。
そして島への移住の準備も進んでいた。
アイランドフェスタの際の仮設の現像所だった場所、その後カフェが入居していたが、数年前に閉店してその後は空き物件になっていたそうだ。
たけしさんの同級生が営む不動産屋に委託していたのだけど、僕たちが住むことになったので住居として改装してもらうことになった。
改装費は僕が負担したのだが、どう考えても相場よりかなり安かった。
たけしさんの幼馴染だという不動産屋さんは「たけしの娘婿だからね、多少の無理は聞いてあげるよ」と笑っていた。
改装工事は結婚式の直前に終わる予定とのことだった。
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