ちぃちゃんと僕

みやぢ

文字の大きさ
上 下
24 / 36

ちとせ、17歳<3>

しおりを挟む
そして、ちとせの高校の入学式の日がやってきた。

少し早めにはるかさんに家まできてもらって三人で一緒に学校に向かった。

中学の時と違って今回はちとせも緊張しているようだった。

「緊張してる?」
「うん、少しね」
「全く新しい環境になるから大変だけどちとせなら大丈夫だよ」
「そうかな…」

表向きには僕は従兄ということにしておくことにした、親戚の家から通っていることにしておけば余計な詮索もされにくいと考えてのことだった。

そして入学式が始まり、緊張した面持ちでちとせも式に臨んだ。

高校生ともなると入学式が終わってもいろいろあるので僕とはるかさんは先に帰った。

船の出る時間まで港の待合所ではるかさんと話していた。

「あの人強がっちゃって今日も予定ないなら一緒に行こうって言ったのに無理に予定入れたみたいでねぇ…」

「そうなんですね、ちとせもお父さんにも見てほしかったでしょうしね」

「やっぱりひとり娘がいなくなると寂しいものね…」

僕はこれ以上言葉を繋げなかった。

そうだ、二人にとって大事な宝物とも言える娘さんを取り上げてしまったのだから…

ちとせと同じくらいご両親も大事にしなきゃいけない、僕はそう思った。

出港の時間が来たので桟橋まではるかさんを見送りに行った。

やがてちとせが学校から帰ってきた、顔を見れば楽しかったのは大体わかる。

「おかえり、学校どうだった?」
「うん、さっそく何人か仲良くなったよ」
「そう、よかったね」

今朝の緊張した顔が嘘のようにご機嫌だった。

その夜は少し豪華な晩ごはんを作ってお祝いした。



本格的に授業が始まって、家でも熱心に勉強するちとせの姿を見るようになった、もともと地頭は良い子で飲み込みも早いので中学校でも成績は良かったらしい。


学校が始まってしばらく経ったころ、久しぶりに「はるかぜ」に二人で行った。

マスターとようこさんがちとせにささやかな入学祝いのプレゼントを用意してくれていた。

「わーっ!うれしい‼︎ありがとうございます」

ちとせは大喜びしていた。

嬉しそうなちとせを見ながらようこさんが「子供の成長っていいものね、わたしも一人ぐらい産んどけばよかったかな」
と呟いた。

「そうだ、けんごくん、わたし来月からしばらくヨーロッパ行くけどなにか欲しいものある?」

「ヨーロッパへ行くんですか?」

「旦那のところへね、一人で寂しがってるから」

ようこさんのご主人はヨーロッパに駐在していて日本に帰って来れるのは数年に一度くらいらしく、時々ようこさんが向こうへ2、3ヶ月行くのだそうだ。

「とりあえずロンドンまで行ってその時点で何処にいるかよね、周辺にいてくれればいいけど…」

あちこちの国を転々としているそうで行ってみないとどこにいるかわからないそうだ。

「その間お店のことも気になるのよね、短期間のバイトでも雇おうかしら」

その時、隣で聞いていたちとせが口を開いた。

「あの、わたしその期間ここで放課後にバイト…したいです」

「無理しなくっていいのよ、今のは単なる愚痴だから」

「いえ、これからこっちで生活するのに少しでもお金を稼げたらなと思ってたんです、それにわたし、実家がお店してるので接客もできます」

「わかったわ、イチノセさんと相談してみる」

こうしてちとせはようこさんが不在のあいだ「はるかぜ」で放課後アルバイトすることになった。

もともと実家の「さんらいず」で手伝いをしていたので、飲食店のことはある程度わかっていて慣れるのも早かったらしく、ちとせは瞬く間に常連客の人気者になっていった。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シチュボの台本詰め合わせ(女性用)

勇射 支夢
恋愛
書いた台本を適当に置いておきます。 フリーなので好きにお使いください。

大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています

真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...