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ちとせ、17歳<3>
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そして、ちとせの高校の入学式の日がやってきた。
少し早めにはるかさんに家まできてもらって三人で一緒に学校に向かった。
中学の時と違って今回はちとせも緊張しているようだった。
「緊張してる?」
「うん、少しね」
「全く新しい環境になるから大変だけどちとせなら大丈夫だよ」
「そうかな…」
表向きには僕は従兄ということにしておくことにした、親戚の家から通っていることにしておけば余計な詮索もされにくいと考えてのことだった。
そして入学式が始まり、緊張した面持ちでちとせも式に臨んだ。
高校生ともなると入学式が終わってもいろいろあるので僕とはるかさんは先に帰った。
船の出る時間まで港の待合所ではるかさんと話していた。
「あの人強がっちゃって今日も予定ないなら一緒に行こうって言ったのに無理に予定入れたみたいでねぇ…」
「そうなんですね、ちとせもお父さんにも見てほしかったでしょうしね」
「やっぱりひとり娘がいなくなると寂しいものね…」
僕はこれ以上言葉を繋げなかった。
そうだ、二人にとって大事な宝物とも言える娘さんを取り上げてしまったのだから…
ちとせと同じくらいご両親も大事にしなきゃいけない、僕はそう思った。
出港の時間が来たので桟橋まではるかさんを見送りに行った。
やがてちとせが学校から帰ってきた、顔を見れば楽しかったのは大体わかる。
「おかえり、学校どうだった?」
「うん、さっそく何人か仲良くなったよ」
「そう、よかったね」
今朝の緊張した顔が嘘のようにご機嫌だった。
その夜は少し豪華な晩ごはんを作ってお祝いした。
本格的に授業が始まって、家でも熱心に勉強するちとせの姿を見るようになった、もともと地頭は良い子で飲み込みも早いので中学校でも成績は良かったらしい。
学校が始まってしばらく経ったころ、久しぶりに「はるかぜ」に二人で行った。
マスターとようこさんがちとせにささやかな入学祝いのプレゼントを用意してくれていた。
「わーっ!うれしい‼︎ありがとうございます」
ちとせは大喜びしていた。
嬉しそうなちとせを見ながらようこさんが「子供の成長っていいものね、わたしも一人ぐらい産んどけばよかったかな」
と呟いた。
「そうだ、けんごくん、わたし来月からしばらくヨーロッパ行くけどなにか欲しいものある?」
「ヨーロッパへ行くんですか?」
「旦那のところへね、一人で寂しがってるから」
ようこさんのご主人はヨーロッパに駐在していて日本に帰って来れるのは数年に一度くらいらしく、時々ようこさんが向こうへ2、3ヶ月行くのだそうだ。
「とりあえずロンドンまで行ってその時点で何処にいるかよね、周辺にいてくれればいいけど…」
あちこちの国を転々としているそうで行ってみないとどこにいるかわからないそうだ。
「その間お店のことも気になるのよね、短期間のバイトでも雇おうかしら」
その時、隣で聞いていたちとせが口を開いた。
「あの、わたしその期間ここで放課後にバイト…したいです」
「無理しなくっていいのよ、今のは単なる愚痴だから」
「いえ、これからこっちで生活するのに少しでもお金を稼げたらなと思ってたんです、それにわたし、実家がお店してるので接客もできます」
「わかったわ、イチノセさんと相談してみる」
こうしてちとせはようこさんが不在のあいだ「はるかぜ」で放課後アルバイトすることになった。
もともと実家の「さんらいず」で手伝いをしていたので、飲食店のことはある程度わかっていて慣れるのも早かったらしく、ちとせは瞬く間に常連客の人気者になっていった。
少し早めにはるかさんに家まできてもらって三人で一緒に学校に向かった。
中学の時と違って今回はちとせも緊張しているようだった。
「緊張してる?」
「うん、少しね」
「全く新しい環境になるから大変だけどちとせなら大丈夫だよ」
「そうかな…」
表向きには僕は従兄ということにしておくことにした、親戚の家から通っていることにしておけば余計な詮索もされにくいと考えてのことだった。
そして入学式が始まり、緊張した面持ちでちとせも式に臨んだ。
高校生ともなると入学式が終わってもいろいろあるので僕とはるかさんは先に帰った。
船の出る時間まで港の待合所ではるかさんと話していた。
「あの人強がっちゃって今日も予定ないなら一緒に行こうって言ったのに無理に予定入れたみたいでねぇ…」
「そうなんですね、ちとせもお父さんにも見てほしかったでしょうしね」
「やっぱりひとり娘がいなくなると寂しいものね…」
僕はこれ以上言葉を繋げなかった。
そうだ、二人にとって大事な宝物とも言える娘さんを取り上げてしまったのだから…
ちとせと同じくらいご両親も大事にしなきゃいけない、僕はそう思った。
出港の時間が来たので桟橋まではるかさんを見送りに行った。
やがてちとせが学校から帰ってきた、顔を見れば楽しかったのは大体わかる。
「おかえり、学校どうだった?」
「うん、さっそく何人か仲良くなったよ」
「そう、よかったね」
今朝の緊張した顔が嘘のようにご機嫌だった。
その夜は少し豪華な晩ごはんを作ってお祝いした。
本格的に授業が始まって、家でも熱心に勉強するちとせの姿を見るようになった、もともと地頭は良い子で飲み込みも早いので中学校でも成績は良かったらしい。
学校が始まってしばらく経ったころ、久しぶりに「はるかぜ」に二人で行った。
マスターとようこさんがちとせにささやかな入学祝いのプレゼントを用意してくれていた。
「わーっ!うれしい‼︎ありがとうございます」
ちとせは大喜びしていた。
嬉しそうなちとせを見ながらようこさんが「子供の成長っていいものね、わたしも一人ぐらい産んどけばよかったかな」
と呟いた。
「そうだ、けんごくん、わたし来月からしばらくヨーロッパ行くけどなにか欲しいものある?」
「ヨーロッパへ行くんですか?」
「旦那のところへね、一人で寂しがってるから」
ようこさんのご主人はヨーロッパに駐在していて日本に帰って来れるのは数年に一度くらいらしく、時々ようこさんが向こうへ2、3ヶ月行くのだそうだ。
「とりあえずロンドンまで行ってその時点で何処にいるかよね、周辺にいてくれればいいけど…」
あちこちの国を転々としているそうで行ってみないとどこにいるかわからないそうだ。
「その間お店のことも気になるのよね、短期間のバイトでも雇おうかしら」
その時、隣で聞いていたちとせが口を開いた。
「あの、わたしその期間ここで放課後にバイト…したいです」
「無理しなくっていいのよ、今のは単なる愚痴だから」
「いえ、これからこっちで生活するのに少しでもお金を稼げたらなと思ってたんです、それにわたし、実家がお店してるので接客もできます」
「わかったわ、イチノセさんと相談してみる」
こうしてちとせはようこさんが不在のあいだ「はるかぜ」で放課後アルバイトすることになった。
もともと実家の「さんらいず」で手伝いをしていたので、飲食店のことはある程度わかっていて慣れるのも早かったらしく、ちとせは瞬く間に常連客の人気者になっていった。
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