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ちとせ、17歳<2>
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年度末が迫ったある日、僕は人事担当のヤマネさんに呼び出されて事務所に顔を出した。
応接室に案内されて向き合って座るとヤマネさんが切り出した。
「けんごくん、新年度から正社員に昇格だよ、おめでとう」
「えっ⁈ほんとうですか?」
「あぁ、専務に推薦出したら一発でOKだったよ」
「ありがとうございます」
「むしろ専務になんでもっと早く出さないんだって怒られたよ」
「そうなんですか?」
「実はきみのことで専務に怒られるのは二回目なんだよ」
「?」
「一回目はきみが卒業するときにアルバイトを辞めるって言った時だ、せっかくの有望な人材をなんで引き留めなかったんだってね」
「そんなことがあったんですね」
「どうもあの頃きみのことはふみかさんを通じて専務に筒抜けだったらしい」
ふみかさんは専務の娘で僕と同い年だった。
当時年末の店頭販売に僕と同じくアルバイトで駆り出されていた、何度か一緒にランチに行った程度だが、どうも好意を寄せられていたらしい。
大学を卒業して今は「ヨコザワ文具店」の店舗で働いている。
だけど専務にそんなに高く評価されていたとは知らなかった。
そしてヤマネさんから今後の給与体系の説明を受けた、今までよりずいぶん多くなりそうだ。
正直ちとせと二人で暮らすうえで今までの収入ではけっこうキツそうだったのでほんとうに助かる。
はるかさんからちとせの分の生活費をもらっているのだけど、それには極力手を付けずにちとせのために残しておきたかった。
「そういえばけんごくん、結婚の予定は?」
ヤマネさんからそう聞かれてびっくりしたが包み隠さず答えることにした。
今一緒に暮らしていて彼女が卒業したら結婚する予定だということを伝えるとヤマネさんは少し驚いた様子だったけど納得したようだった。
「そうだったんだね、楽しみにしてるよ」
ヤマネさんはまだ先の話だと言いながら休暇や祝い金のことを教えてくれた。
その帰り道、電車を降りると土砂降りの雨だった…
「雨降るなんて聞いてないぞ…」
駅の軒下でどうしようか思案していると
「けんごさーん!」
ちとせが傘を持って迎えにきてくれていた。
「傘持っていってなかったから困るだろうなと思って…」
「待っててくれたんだ、ありがとう」
「えへへ…」
ちとせは照れたように笑った。
応接室に案内されて向き合って座るとヤマネさんが切り出した。
「けんごくん、新年度から正社員に昇格だよ、おめでとう」
「えっ⁈ほんとうですか?」
「あぁ、専務に推薦出したら一発でOKだったよ」
「ありがとうございます」
「むしろ専務になんでもっと早く出さないんだって怒られたよ」
「そうなんですか?」
「実はきみのことで専務に怒られるのは二回目なんだよ」
「?」
「一回目はきみが卒業するときにアルバイトを辞めるって言った時だ、せっかくの有望な人材をなんで引き留めなかったんだってね」
「そんなことがあったんですね」
「どうもあの頃きみのことはふみかさんを通じて専務に筒抜けだったらしい」
ふみかさんは専務の娘で僕と同い年だった。
当時年末の店頭販売に僕と同じくアルバイトで駆り出されていた、何度か一緒にランチに行った程度だが、どうも好意を寄せられていたらしい。
大学を卒業して今は「ヨコザワ文具店」の店舗で働いている。
だけど専務にそんなに高く評価されていたとは知らなかった。
そしてヤマネさんから今後の給与体系の説明を受けた、今までよりずいぶん多くなりそうだ。
正直ちとせと二人で暮らすうえで今までの収入ではけっこうキツそうだったのでほんとうに助かる。
はるかさんからちとせの分の生活費をもらっているのだけど、それには極力手を付けずにちとせのために残しておきたかった。
「そういえばけんごくん、結婚の予定は?」
ヤマネさんからそう聞かれてびっくりしたが包み隠さず答えることにした。
今一緒に暮らしていて彼女が卒業したら結婚する予定だということを伝えるとヤマネさんは少し驚いた様子だったけど納得したようだった。
「そうだったんだね、楽しみにしてるよ」
ヤマネさんはまだ先の話だと言いながら休暇や祝い金のことを教えてくれた。
その帰り道、電車を降りると土砂降りの雨だった…
「雨降るなんて聞いてないぞ…」
駅の軒下でどうしようか思案していると
「けんごさーん!」
ちとせが傘を持って迎えにきてくれていた。
「傘持っていってなかったから困るだろうなと思って…」
「待っててくれたんだ、ありがとう」
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ちとせは照れたように笑った。
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