ちぃちゃんと僕

みやぢ

文字の大きさ
上 下
23 / 36

ちとせ、17歳<2>

しおりを挟む
年度末が迫ったある日、僕は人事担当のヤマネさんに呼び出されて事務所に顔を出した。

応接室に案内されて向き合って座るとヤマネさんが切り出した。

「けんごくん、新年度から正社員に昇格だよ、おめでとう」
「えっ⁈ほんとうですか?」
「あぁ、専務に推薦出したら一発でOKだったよ」
「ありがとうございます」
「むしろ専務になんでもっと早く出さないんだって怒られたよ」
「そうなんですか?」
「実はきみのことで専務に怒られるのは二回目なんだよ」
「?」
「一回目はきみが卒業するときにアルバイトを辞めるって言った時だ、せっかくの有望な人材をなんで引き留めなかったんだってね」
「そんなことがあったんですね」
「どうもあの頃きみのことはふみかさんを通じて専務に筒抜けだったらしい」

ふみかさんは専務の娘で僕と同い年だった。

当時年末の店頭販売に僕と同じくアルバイトで駆り出されていた、何度か一緒にランチに行った程度だが、どうも好意を寄せられていたらしい。

大学を卒業して今は「ヨコザワ文具店」の店舗で働いている。

だけど専務にそんなに高く評価されていたとは知らなかった。

そしてヤマネさんから今後の給与体系の説明を受けた、今までよりずいぶん多くなりそうだ。

正直ちとせと二人で暮らすうえで今までの収入ではけっこうキツそうだったのでほんとうに助かる。

はるかさんからちとせの分の生活費をもらっているのだけど、それには極力手を付けずにちとせのために残しておきたかった。

「そういえばけんごくん、結婚の予定は?」

ヤマネさんからそう聞かれてびっくりしたが包み隠さず答えることにした。

今一緒に暮らしていて彼女が卒業したら結婚する予定だということを伝えるとヤマネさんは少し驚いた様子だったけど納得したようだった。

「そうだったんだね、楽しみにしてるよ」

ヤマネさんはまだ先の話だと言いながら休暇や祝い金のことを教えてくれた。

その帰り道、電車を降りると土砂降りの雨だった…

「雨降るなんて聞いてないぞ…」
駅の軒下でどうしようか思案していると
「けんごさーん!」
ちとせが傘を持って迎えにきてくれていた。

「傘持っていってなかったから困るだろうなと思って…」
「待っててくれたんだ、ありがとう」
「えへへ…」

ちとせは照れたように笑った。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒と花言葉

佑佳
恋愛
 オレは先輩の秘密を知ってしまった――  オープンスクールのポスターに映っていた女子生徒を追って私立の高校に入学した瀬尾丈(せおたける)。  彼女――高城鈴蘭(たかしろすずらん)は、三年生に進級していた。  丈はなんとかコンタクトをとろうと一人奮闘し始める。  そんな折に、高城先輩との間を邪魔しに入ってきた男子生徒から、彼女に関する黒い事実を知らされて……。  ノーと言えない高城先輩の毒消しとなりたい丈は、泥沼の中から彼女を救い出すことができるのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

シチュボの台本詰め合わせ(女性用)

勇射 支夢
恋愛
書いた台本を適当に置いておきます。 フリーなので好きにお使いください。

処理中です...