17 / 36
ちとせ、15歳<1>
しおりを挟む
官公庁の御用納めが終わると、僕の勤める「ヨコザワ文具店」では忘年会を兼ねた慰労会が開かれる。
ホテルの宴会場を借り切って各店舗から集まる盛大な宴会だ。
今年も僕は参加した。
「ここ、空いてるかしら?」
声を掛けられて見上げるとウエノさんだった。
「空いてますよ、どうぞ」
ウエノさんは筆記用具メーカーから出向してきているベテランだ。
「ヨコザワ文具店」ではかなり高級な万年筆やボールペンを取り扱っているのだが、どんなに古い物でもウエノさんは替え芯や替インクを把握しているので重宝されている。
みんなで賑やかに盛り上がっているとウエノさんが切り出した。
「けんごくん、あなた写真好きだって言ってたよね」
「えぇまぁ」
「うちの息子中二なんだけど、兄貴からお古のカメラもらって写真にハマっちゃって、高校行ったら写真部入るんだって」
僕と全く同じだ…
僕が中学2年の時、伯父から少し古いコンパクトカメラをもらった。
それから僕はそのカメラを持ち歩いてお小遣いをやりくりしてフイルムを買って撮り歩いていた。
いわば僕の写真の原点と言えた。
「そうなんですか」
「写真ってお金かかるんでしょ」
「まぁそれなりに…」
写真は機材も高価だがフイルムも必要だしそれ以外にもこまごまとお金はかかる、そのために僕はここで高校三年間アルバイトしていたのだ。
「今度よかったら息子に写真教えてあげてもらえるかしら?」
「もちろん、いつでもオッケーですよ」
と言ったあとに僕はふと思いついた。
「一度僕の入ってる写真サークルの展示見にきませんか?高校生のメンバーもいるからいい刺激になると思いますよ」
「そういうのがあるのね、知らなかったわ」
「予定がわかったらお知らせしますよ」
「そうね、ありがとう」
ウエノさんは笑顔で言った。
「そう言えば、けんごくん彼女いたっけ?」
突然、ウエノさんが話題を変えた。
「えぇまぁいますよ、いちおう…」
「どんな子?」
ウエノさんは興味津々に身を乗り出した。
「アルバイト先で知り合って、息子さんと同じで今中学二年生です…」
「ずいぶん若い子ね、まぁでも大人になると10歳くらいの歳の差は誤差の範囲だものねぇ」
そう言ってウエノさんは大笑いした。
「うちだって旦那とはひとまわり違うのよ」
「そうなんですか?」
ウエノさんのご主人はバツイチで、最初の結婚の時、相手方の親戚筋の干渉が酷くてすぐに離婚してしまったそうだ。
田舎の古いしきたりがどうのと何かにつけて干渉されることにうんざりしてしまったらしい。
その後今の奥さん、20歳になったばかりのウエノさんと知り合って結婚したそうだ。
「そのくらい歳が離れてた方がなにかと喧嘩にならなくていいわよ」
「そんなものですか?」
「そういうものよ、うちの旦那は基本優しいからね」
「優しい…ですか」
「そうね、でもけんごくんも優しいじゃない、それに小さい子の扱いも上手だしね。」
「そうですか?」
「いつだったか店頭で迷子の子保護したとき、小さい子の目線までしゃがんで話聞いてたよね、あれ見て思ったの」
確かにそんなことがあった、3歳くらいの男の子がお店に迷い込んで来たのを保護した、すぐに商店街のインフォメーションで放送してもらってお母さんに引き渡せたのだった。
子供の目線まで下がるというのは中学生の頃好きだった俳優さんが出ていたドラマで主人公の熱血教師が子供と話をする時しゃがんで聞くシーンがあった。
雑誌のインタビューでその俳優さんいわく「上から見下ろすのではなくしゃがんで目線を合わせることで子供は安心してくれる」というものだった
それを読んで以降僕も実践するようになった。
「だからけんごくんの彼女もそういうのにひかれたんじゃない?」
「そういうものですかね」
「安心感を得られる相手って大事よ、優しさだけでも強さだけでもそれは成立しないのよ」
僕とちぃちゃんもそういう感じでいられるのだろうか…今の僕には全く想像がつかないでいた。
ホテルの宴会場を借り切って各店舗から集まる盛大な宴会だ。
今年も僕は参加した。
「ここ、空いてるかしら?」
声を掛けられて見上げるとウエノさんだった。
「空いてますよ、どうぞ」
ウエノさんは筆記用具メーカーから出向してきているベテランだ。
「ヨコザワ文具店」ではかなり高級な万年筆やボールペンを取り扱っているのだが、どんなに古い物でもウエノさんは替え芯や替インクを把握しているので重宝されている。
みんなで賑やかに盛り上がっているとウエノさんが切り出した。
「けんごくん、あなた写真好きだって言ってたよね」
「えぇまぁ」
「うちの息子中二なんだけど、兄貴からお古のカメラもらって写真にハマっちゃって、高校行ったら写真部入るんだって」
僕と全く同じだ…
僕が中学2年の時、伯父から少し古いコンパクトカメラをもらった。
それから僕はそのカメラを持ち歩いてお小遣いをやりくりしてフイルムを買って撮り歩いていた。
いわば僕の写真の原点と言えた。
「そうなんですか」
「写真ってお金かかるんでしょ」
「まぁそれなりに…」
写真は機材も高価だがフイルムも必要だしそれ以外にもこまごまとお金はかかる、そのために僕はここで高校三年間アルバイトしていたのだ。
「今度よかったら息子に写真教えてあげてもらえるかしら?」
「もちろん、いつでもオッケーですよ」
と言ったあとに僕はふと思いついた。
「一度僕の入ってる写真サークルの展示見にきませんか?高校生のメンバーもいるからいい刺激になると思いますよ」
「そういうのがあるのね、知らなかったわ」
「予定がわかったらお知らせしますよ」
「そうね、ありがとう」
ウエノさんは笑顔で言った。
「そう言えば、けんごくん彼女いたっけ?」
突然、ウエノさんが話題を変えた。
「えぇまぁいますよ、いちおう…」
「どんな子?」
ウエノさんは興味津々に身を乗り出した。
「アルバイト先で知り合って、息子さんと同じで今中学二年生です…」
「ずいぶん若い子ね、まぁでも大人になると10歳くらいの歳の差は誤差の範囲だものねぇ」
そう言ってウエノさんは大笑いした。
「うちだって旦那とはひとまわり違うのよ」
「そうなんですか?」
ウエノさんのご主人はバツイチで、最初の結婚の時、相手方の親戚筋の干渉が酷くてすぐに離婚してしまったそうだ。
田舎の古いしきたりがどうのと何かにつけて干渉されることにうんざりしてしまったらしい。
その後今の奥さん、20歳になったばかりのウエノさんと知り合って結婚したそうだ。
「そのくらい歳が離れてた方がなにかと喧嘩にならなくていいわよ」
「そんなものですか?」
「そういうものよ、うちの旦那は基本優しいからね」
「優しい…ですか」
「そうね、でもけんごくんも優しいじゃない、それに小さい子の扱いも上手だしね。」
「そうですか?」
「いつだったか店頭で迷子の子保護したとき、小さい子の目線までしゃがんで話聞いてたよね、あれ見て思ったの」
確かにそんなことがあった、3歳くらいの男の子がお店に迷い込んで来たのを保護した、すぐに商店街のインフォメーションで放送してもらってお母さんに引き渡せたのだった。
子供の目線まで下がるというのは中学生の頃好きだった俳優さんが出ていたドラマで主人公の熱血教師が子供と話をする時しゃがんで聞くシーンがあった。
雑誌のインタビューでその俳優さんいわく「上から見下ろすのではなくしゃがんで目線を合わせることで子供は安心してくれる」というものだった
それを読んで以降僕も実践するようになった。
「だからけんごくんの彼女もそういうのにひかれたんじゃない?」
「そういうものですかね」
「安心感を得られる相手って大事よ、優しさだけでも強さだけでもそれは成立しないのよ」
僕とちぃちゃんもそういう感じでいられるのだろうか…今の僕には全く想像がつかないでいた。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
毒と花言葉
佑佳
恋愛
オレは先輩の秘密を知ってしまった――
オープンスクールのポスターに映っていた女子生徒を追って私立の高校に入学した瀬尾丈(せおたける)。
彼女――高城鈴蘭(たかしろすずらん)は、三年生に進級していた。
丈はなんとかコンタクトをとろうと一人奮闘し始める。
そんな折に、高城先輩との間を邪魔しに入ってきた男子生徒から、彼女に関する黒い事実を知らされて……。
ノーと言えない高城先輩の毒消しとなりたい丈は、泥沼の中から彼女を救い出すことができるのか。

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる