12 / 36
ちとせ、13歳<1>
しおりを挟む
この春、ちとせちゃんは6年生に進級した。
あいかわらず元気いっぱいだ。
地元でも遊び相手はたくさんできたみたいだけど、僕といる時間が一番楽しいらしい。
僕の休みの日に自分でバスと連絡船を乗り継いで、僕の家まで遊びに来るようになった。
お弁当もお母さんに手伝ってもらいながら自分で作れるようになったそうだ。
今日も二人で天城島が見渡せる公園へ遊びに来ている。
小高い丘の上のベンチでお弁当を広げていると微かな風切り音と同時に黒い影が二人の間を横切った、
「えっ?」
二人して驚きの声を上げていた、トンビがお弁当のおかずを攫っていったのだ。
「わーびっくりした…」
「大丈夫?怪我してない?」
「うん、大丈夫だけど…唐揚げ持ってかれちゃったね」
「あーあ…」
見上げると唐揚げを入れていたアルミカップがキラキラと光りながら落ちていった。
「きっと鳥さんもちぃちゃんのお弁当美味しそうだから食べたかったんだよ」
そう言って二人で笑った。
「はるかぜ光画部」に入ってから僕はちぃちゃんと会ったときに積極的に彼女の写真を撮っている。
写真展の作品作りというのもあるが、ご両親がちぃちゃんが生まれたばかりの頃にお店を始めたので小さい頃の写真がほとんどないそうだ。
だからせめて二人でいる時の記録を残しておきたかった。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なに?」
「今のわたし、きれいに撮れてる?」
「もちろんだよ」
「うれしいな」
二人でいる時間がとても大切に感じられる。
年末になり、僕は例の実演販売に駆り出されていた。
商店街に面した店頭で長机を並べてそこで実際に簡易印刷機でハガキを印刷してみせるのだ。
時間帯によっては黒山の人だかりになる。
わりと手軽な価格なので毎年結構な台数が売れるのだ。
準社員で働くようになってこの時期だけ倉庫勤務から外れるのだけど、特別に手当が出るようにしてくれている。
正社員と比べて賞与の少ない僕にはありがたかった。
クリスマス辺りは忙しくてちぃちゃんとはなかなか会えないのだがもう少し頑張ればお正月の休みだ。
最近は実家に寄るのもそこそこに天城島へ渡ってちぃちゃんの家で過ごすことが多く、初詣も島内の大きな神社へ一緒に行っている。
拝殿の前で二人で手を合わせてお参りした。
「なにお願いしたの?」
「内緒」
「ずるいなぁー」
何気ないやりとりでも幸せを感じる。
その時ちぃちゃんが唐突に言い出した。
「中学生になるの楽しみだなぁ、お兄ちゃん入学式に来てね!」
そういえばもうこの春には彼女は中学生だ。
「お兄ちゃんに制服姿見て欲しいから」
「わかったよ」
「絶対来てね!約束だよ!」
そう言って彼女は小指を差し出した。
僕は同じように指切りしたあの夏の終わりを思い出していた。
あいかわらず元気いっぱいだ。
地元でも遊び相手はたくさんできたみたいだけど、僕といる時間が一番楽しいらしい。
僕の休みの日に自分でバスと連絡船を乗り継いで、僕の家まで遊びに来るようになった。
お弁当もお母さんに手伝ってもらいながら自分で作れるようになったそうだ。
今日も二人で天城島が見渡せる公園へ遊びに来ている。
小高い丘の上のベンチでお弁当を広げていると微かな風切り音と同時に黒い影が二人の間を横切った、
「えっ?」
二人して驚きの声を上げていた、トンビがお弁当のおかずを攫っていったのだ。
「わーびっくりした…」
「大丈夫?怪我してない?」
「うん、大丈夫だけど…唐揚げ持ってかれちゃったね」
「あーあ…」
見上げると唐揚げを入れていたアルミカップがキラキラと光りながら落ちていった。
「きっと鳥さんもちぃちゃんのお弁当美味しそうだから食べたかったんだよ」
そう言って二人で笑った。
「はるかぜ光画部」に入ってから僕はちぃちゃんと会ったときに積極的に彼女の写真を撮っている。
写真展の作品作りというのもあるが、ご両親がちぃちゃんが生まれたばかりの頃にお店を始めたので小さい頃の写真がほとんどないそうだ。
だからせめて二人でいる時の記録を残しておきたかった。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なに?」
「今のわたし、きれいに撮れてる?」
「もちろんだよ」
「うれしいな」
二人でいる時間がとても大切に感じられる。
年末になり、僕は例の実演販売に駆り出されていた。
商店街に面した店頭で長机を並べてそこで実際に簡易印刷機でハガキを印刷してみせるのだ。
時間帯によっては黒山の人だかりになる。
わりと手軽な価格なので毎年結構な台数が売れるのだ。
準社員で働くようになってこの時期だけ倉庫勤務から外れるのだけど、特別に手当が出るようにしてくれている。
正社員と比べて賞与の少ない僕にはありがたかった。
クリスマス辺りは忙しくてちぃちゃんとはなかなか会えないのだがもう少し頑張ればお正月の休みだ。
最近は実家に寄るのもそこそこに天城島へ渡ってちぃちゃんの家で過ごすことが多く、初詣も島内の大きな神社へ一緒に行っている。
拝殿の前で二人で手を合わせてお参りした。
「なにお願いしたの?」
「内緒」
「ずるいなぁー」
何気ないやりとりでも幸せを感じる。
その時ちぃちゃんが唐突に言い出した。
「中学生になるの楽しみだなぁ、お兄ちゃん入学式に来てね!」
そういえばもうこの春には彼女は中学生だ。
「お兄ちゃんに制服姿見て欲しいから」
「わかったよ」
「絶対来てね!約束だよ!」
そう言って彼女は小指を差し出した。
僕は同じように指切りしたあの夏の終わりを思い出していた。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI


極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる