ちぃちゃんと僕

みやぢ

文字の大きさ
上 下
10 / 36

ちとせ、11歳<3>

しおりを挟む
そして「はるかぜ光画部」の撮影会の日がやってきた。

お店に集合して、みんなで街の光景を撮り歩いて行くのがこのサークルのスタイルらしい。

お互いに撮り合いっこしたりしてみんな和気あいあいで歩いていく。

みんなで賑やかにお昼ご飯を食べたり、素敵なカフェで休憩がてらお喋りしたりと楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。

そして最後は居酒屋で打ち上げというのがいつもの流れらしい。

いちおう僕もお酒が飲める歳になっているけれど今回は初めてでさすがに疲れたので帰らせてもらうことにした。

帰り際にようこさんが今回の撮影会の写真展の展示に誘ってくれた。

みんな優しくしてくれるし、楽しい集まりだなと思った。

それから僕は時々「はるかぜ」へ行ってようこさんやメンバーのみんなからいろいろな事を教わった。

仕事にも慣れ、「はるかぜ光画部」の活動も続いていたが、ちぃちゃんとも定期的に会っている。

やがて出会って二年目の夏がやってきた。

5年生になったちぃちゃん、相変わらず天真爛漫だけど少しずつ大人への階段を登っている。

成長期に入ったみたいで最近会うたびに背が伸びているような気がする。

身体つきもだんだん変わってきて、少しふっくらしてきた感じだ。

ひとりでバスも乗れるようになって行動範囲も広がったらしい。

そんなある日、ちぃちゃんが
「島の外へ遊びに行きたい」
と言い出した。

僕の住んでいる街の雰囲気を味わいたいというのだ。

これは僕一人では決められないのではるかさんに相談してみたが、

「いいんじゃないの?」

それがはるかさんの答えだった。

とりあえず連絡船に乗るまでは自力でできそうだということだ。

そして当日、港で待っていた僕の心配をよそにちぃちゃんは満面の笑みで船から降りてきた。

「お兄ちゃん、来たよー!」
「よかった、ちゃんと来れたね」
「ひとりでお船乗るのはじめてだったけどおじさんがていねいに教えてくれたの」

僕たちは船着き場から駅まで手を繋いで歩き出した。

電車で隣町まで行こうとするとちぃちゃんが言った。
「わたし電車に乗るのはじめて…」
たしかに島に鉄道は無い…券売機で切符を買って改札を通ろうとすると、
「お兄ちゃんこれどうやるの?」
当たり前だが自動改札機も初めてだ。

「ここに切符を入れるんだよ」
「うん、やってみる」

恐る恐る切符を入れると勢いよく切符が吸い込まれた。
「わっ!吸い込まれた!」
ちぃちゃんは驚いて声をあげた。
「大丈夫だよ、ほらあそこに切符が出てきただろ、忘れずに取ってね」
こうしてちぃちゃんは初めて電車に乗ることができた。

隣町の駅で降りて繁華街へ行ってみる。
「すごいねー、人がいっぱいだ!」
ちぃちゃんは興奮気味だ。

見るものすべてが初めての彼女にとっては情報量が多すぎるようだ。

大きなデパートの屋上のレストランでお昼ごはんを食べ、商店街を歩いた。

少し疲れたと言うので公園のベンチで休むことにした。
やがてちぃちゃんは僕の肩にもたれ掛かってうとうとしはじめた。

はじめて二人でアイランドパークへ行った時バスで起きなくて抱きかかえて帰ったなぁ…身体が大きくなってるから流石にもう無理かもな。
ちぃちゃんの寝顔を眺めながらそんなことを考えていた。


ちとせ、11歳  <了>






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

シチュボの台本詰め合わせ(女性用)

勇射 支夢
恋愛
書いた台本を適当に置いておきます。 フリーなので好きにお使いください。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

処理中です...