ちぃちゃんと僕

みやぢ

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ちとせ、11歳<1>

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天城島から帰ってきた次の日、僕は自動車教習所へ申し込みの手続きに行った。

入校日は一週間後に決まった。

そのあと実家のある隣町へ行き、高校時代アルバイトしていた文房具店「ヨコザワ文具店」の事務所へ行った。

写真部は普段の活動にも何かとお金が掛かったので高校三年間ずっとここで働いていた。
近郊にいくつか店舗をかまえる大きな文房具店で、事務用品の卸しもしているので自前の倉庫を持っている、そこでピッキング…いわゆる商品の出庫のアルバイトをしていた。

卒業を控えてアルバイトを辞める時、人事担当のヤマネさんから、
「困ったことがあったらいつでもおいでよ」
と言ってくれていたのを思い出したからだ。

事務所へ行くとヤマネさんが迎えてくれた。

「やぁ久しぶり、元気そうだね」

僕はヤマネさんにこれまでの出来事を話した。

「いろいろ大変だったんだね」
「そうなんですよ」
「けんごくんだったらウチは大歓迎だよ
、教習所との兼ね合いも考慮してあげるからぜひ来て欲しいな」
「それに年末のアレ、また手伝って欲しいな、きみの実演評判良かったからねぇ」

年末のアレとはあるメーカーから出ているハガキ用の簡易印刷機の実演販売だった。
年賀状の需要を当て込んで商店街にある店舗で年末に店頭で実演販売をするのだが、高校三年間ずっとその店頭販売に駆り出されていた。

おかげで実演の要領も上手くなったというわけだ。

そして高校時代働いた「ヨコザワ文具店」の倉庫でまた働くことになった。
ただ違うのは今度はアルバイトではなく準社員という形で雇ってもらえることになった。
アルバイトと違い社会保険の類いが適用されるので安心だ。

午前中教習所へ通って午後からの勤務という形で数ヶ月を掛けて自動車免許を手にした。

教習所を卒業してフルタイムの勤務になってしばらくして倉庫担当の社員の一人
カワムラさんから声をかけられた。
「けんごくん車の免許取ったんだって?」
「はい、やっと取れました」
「車欲しくない?」
「そりゃあ欲しいですけどまだお金が…」
「俺、今度子供が産まれるんで大きい車に乗り換えるから今乗ってる古い軽自動車で良かったら安く譲ってあげるよ」
願ってもない話に僕は身を乗り出した。
「お願いします!」

数日後カワムラさんに車を見せてもらいに行った。

型は少し古いが丁寧に乗られている感じがした。
カワムラさんからびっくりするような値段が提示され、僕は思わず声をあげた。
「えぇー!そんなのでいいんですか?」
「どうせ下取りに出しても値段付かないし、大事にしてくれるならそれでいいよ」

そう言ってカワムラさんは笑った。

新しい車を買ったお店でついでに名義変更の手続きをしてもらって、ついに車は僕の手元に来た。

幸いなことに僕のアパートは一台分の駐車場が付いている、今までは原付バイクを置いていただけだがようやく車を置くことができた。

職場には乗って行けないので仕事が終わってから家の周辺を走らせて練習するのが日課になった。

はやくちぃちゃんを乗せてドライブしたいなぁ…夢はふくらむばかりだった。

天城島から帰ってきて半年あまりが過ぎた。

その間ちぃちゃんとのやりとりはもちろん途絶えてはいなかった。

週に何度か電話で話をしたり、休みの日に会いに行っていた。

そして春休みのある日、僕は車で島へ渡る決心がついた。
新しく架かった橋で渡ると早いのだが、高速道路扱いなので料金が結構高い。
今まで運航されていたフェリーも存続する方向で話が進んでいるらしく、フェリーの方が格安で島へ渡れるのでまだまだ人気があった。

フェリー乗り場へ行くと係の人が丁寧に教えてくれた。

料金を支払って乗船券をダッシュボードに置いて係の人の誘導に従って船が着くまで駐車場で待機する。

やがてフェリーが入港してきていよいよ乗船だ、僕は緊張してゆっくり車を進ませた。

30分ほどで対岸の港に着いた。

あとは勝手知った島の道だ。

「さんらいず」に着いて僕はホッとして息を吐いた。

ちぃちゃんは驚いた表情で車を眺めていた。

「お兄ちゃん、これに乗ってきたの?」
「もちろんだよ」
「すごーい!わたしも乗りたい!」

もちろんそのつもりだ。

僕たちは「天城フォトサービス」のある街の方へ車を走らせる。

ちぃちゃんは満足気な表情をしていた。





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