ちぃちゃんと僕

みやぢ

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ちとせ、9歳<4>

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学校が夏休みに入った頃から、アイランドパークの来場者もうなぎのぼりに増え、観光バスでやってくる団体客も増えていった。

夏休みの大学生が三人アルバイトに参加して、彼らを教えながらなので皆てんてこ舞いしていた。

そして夏休みが終わる頃、アイランドフェスタは閉幕を迎えた。

現場での最終日、現像所に挨拶するためにみんなで立ち寄った。

マナベさんとタカハシさん、そして営業所の所長たちも来ていた。

挨拶を終えてワゴン車に乗り込み、キノさんが車を出そうとしたとき
誰かが車の前に立ちはだかった。

ちとせちゃんだった。

「あぶないよ、車動くから」

ちとせちゃんは仁王立ちで動こうとしなかった。

「けんちゃんの彼女だろ、なんとかしてよ!」
キノさんが言った。

僕は車から降りてちとせちゃんの前に片膝をついた。

「…ちゃいやだ…行っちゃいやだ…」
涙を溜めた目で僕を見ながらくり返しそうつぶやいていた。

「すみません、先に帰っててもらえますか?僕はあとからバスで帰りますから」

キノさんにそう告げて泣きじゃくるちとせちゃんをお店の方へ連れて行った。

彼女には今日で終わりということは知らせてなかったのに、何かを感じ取ったのだろう…

僕はお店の中へちとせちゃんと一緒に入った。

「あら、けんごくんどうしたの?」
「実は…」

ここでの仕事が終わったこと、ちとせちゃんの行動を話した。

「あなたとお別れしたくなかったのねぇ…」

ちとせちゃんは黙ってうなずいた。

「ちとせちゃん、絶対また来るから約束しよう」
「ほんとに?」
「いい子にしててね、約束だ」
そう言って僕は小指を差し出して指切りした。

「無理言ってごめんなさいね」
「大丈夫です、そんなに遠くないですから…」

結局その日はちとせちゃんのお母さん、はるかさんにお店を閉めた後、車で寮まで送ってもらった。

翌日、事務所の近所の旅館で盛大に打ち上げの宴会が行われた。
事務所と現像所の関係者、そして僕たちもみんな参加して盛り上がった。

そしてその次の日、住み込みのメンバーは三々五々地元へ帰って行った。

僕はバイクに積める分だけの必要な荷物を残して宅配便で家に送ってから事務所に挨拶に寄った。
事務所の人たちは目を潤ませて見送ってくれた。

帰り道、「さんらいず」に寄ってちとせちゃんにもう一度会ってから帰ろうと思った。

お店ではるかさんを交えて話をしていると、
「急いで帰らなくていいなら今晩泊まっていってもいいわよ」
と、言ってくれた。

特に急ぐ用事はない、荷物が着くのは明後日だからそれまでに帰ればいい。

夕方たけるさんが帰ってきてから晩ごはんを食べながらいろいろな話をした。

「じゃあけんごくん、お布団敷いてるからここで休んでね」
そう言って6畳ほどの部屋に案内してくれた。

しばらく考えごとをしていると部屋の扉が開いてパジャマ姿のちとせちゃんが入ってきた。

「お兄ちゃん、いっしょに寝ていい?」
「いいけど…」
「やったー」

もう夜遅いので小さな声で話しているといつのまにかちとせちゃんは寝息を立てていた。

そのしあわせそうな顔を見ながら僕も眠りに落ちていった。

翌朝、朝ごはんをごちそうになり、ちとせちゃんたちに見送られて僕は出発した。

帰ったらいちばんに教習所の申し込みをして、あとはアルバイト探さないとな…

急に現実に引き戻された気がした。



ちとせ、9歳 <了>



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