6 / 36
ちとせ、9歳<4>
しおりを挟む
学校が夏休みに入った頃から、アイランドパークの来場者もうなぎのぼりに増え、観光バスでやってくる団体客も増えていった。
夏休みの大学生が三人アルバイトに参加して、彼らを教えながらなので皆てんてこ舞いしていた。
そして夏休みが終わる頃、アイランドフェスタは閉幕を迎えた。
現場での最終日、現像所に挨拶するためにみんなで立ち寄った。
マナベさんとタカハシさん、そして営業所の所長たちも来ていた。
挨拶を終えてワゴン車に乗り込み、キノさんが車を出そうとしたとき
誰かが車の前に立ちはだかった。
ちとせちゃんだった。
「あぶないよ、車動くから」
ちとせちゃんは仁王立ちで動こうとしなかった。
「けんちゃんの彼女だろ、なんとかしてよ!」
キノさんが言った。
僕は車から降りてちとせちゃんの前に片膝をついた。
「…ちゃいやだ…行っちゃいやだ…」
涙を溜めた目で僕を見ながらくり返しそうつぶやいていた。
「すみません、先に帰っててもらえますか?僕はあとからバスで帰りますから」
キノさんにそう告げて泣きじゃくるちとせちゃんをお店の方へ連れて行った。
彼女には今日で終わりということは知らせてなかったのに、何かを感じ取ったのだろう…
僕はお店の中へちとせちゃんと一緒に入った。
「あら、けんごくんどうしたの?」
「実は…」
ここでの仕事が終わったこと、ちとせちゃんの行動を話した。
「あなたとお別れしたくなかったのねぇ…」
ちとせちゃんは黙ってうなずいた。
「ちとせちゃん、絶対また来るから約束しよう」
「ほんとに?」
「いい子にしててね、約束だ」
そう言って僕は小指を差し出して指切りした。
「無理言ってごめんなさいね」
「大丈夫です、そんなに遠くないですから…」
結局その日はちとせちゃんのお母さん、はるかさんにお店を閉めた後、車で寮まで送ってもらった。
翌日、事務所の近所の旅館で盛大に打ち上げの宴会が行われた。
事務所と現像所の関係者、そして僕たちもみんな参加して盛り上がった。
そしてその次の日、住み込みのメンバーは三々五々地元へ帰って行った。
僕はバイクに積める分だけの必要な荷物を残して宅配便で家に送ってから事務所に挨拶に寄った。
事務所の人たちは目を潤ませて見送ってくれた。
帰り道、「さんらいず」に寄ってちとせちゃんにもう一度会ってから帰ろうと思った。
お店ではるかさんを交えて話をしていると、
「急いで帰らなくていいなら今晩泊まっていってもいいわよ」
と、言ってくれた。
特に急ぐ用事はない、荷物が着くのは明後日だからそれまでに帰ればいい。
夕方たけるさんが帰ってきてから晩ごはんを食べながらいろいろな話をした。
「じゃあけんごくん、お布団敷いてるからここで休んでね」
そう言って6畳ほどの部屋に案内してくれた。
しばらく考えごとをしていると部屋の扉が開いてパジャマ姿のちとせちゃんが入ってきた。
「お兄ちゃん、いっしょに寝ていい?」
「いいけど…」
「やったー」
もう夜遅いので小さな声で話しているといつのまにかちとせちゃんは寝息を立てていた。
そのしあわせそうな顔を見ながら僕も眠りに落ちていった。
翌朝、朝ごはんをごちそうになり、ちとせちゃんたちに見送られて僕は出発した。
帰ったらいちばんに教習所の申し込みをして、あとはアルバイト探さないとな…
急に現実に引き戻された気がした。
ちとせ、9歳 <了>
夏休みの大学生が三人アルバイトに参加して、彼らを教えながらなので皆てんてこ舞いしていた。
そして夏休みが終わる頃、アイランドフェスタは閉幕を迎えた。
現場での最終日、現像所に挨拶するためにみんなで立ち寄った。
マナベさんとタカハシさん、そして営業所の所長たちも来ていた。
挨拶を終えてワゴン車に乗り込み、キノさんが車を出そうとしたとき
誰かが車の前に立ちはだかった。
ちとせちゃんだった。
「あぶないよ、車動くから」
ちとせちゃんは仁王立ちで動こうとしなかった。
「けんちゃんの彼女だろ、なんとかしてよ!」
キノさんが言った。
僕は車から降りてちとせちゃんの前に片膝をついた。
「…ちゃいやだ…行っちゃいやだ…」
涙を溜めた目で僕を見ながらくり返しそうつぶやいていた。
「すみません、先に帰っててもらえますか?僕はあとからバスで帰りますから」
キノさんにそう告げて泣きじゃくるちとせちゃんをお店の方へ連れて行った。
彼女には今日で終わりということは知らせてなかったのに、何かを感じ取ったのだろう…
僕はお店の中へちとせちゃんと一緒に入った。
「あら、けんごくんどうしたの?」
「実は…」
ここでの仕事が終わったこと、ちとせちゃんの行動を話した。
「あなたとお別れしたくなかったのねぇ…」
ちとせちゃんは黙ってうなずいた。
「ちとせちゃん、絶対また来るから約束しよう」
「ほんとに?」
「いい子にしててね、約束だ」
そう言って僕は小指を差し出して指切りした。
「無理言ってごめんなさいね」
「大丈夫です、そんなに遠くないですから…」
結局その日はちとせちゃんのお母さん、はるかさんにお店を閉めた後、車で寮まで送ってもらった。
翌日、事務所の近所の旅館で盛大に打ち上げの宴会が行われた。
事務所と現像所の関係者、そして僕たちもみんな参加して盛り上がった。
そしてその次の日、住み込みのメンバーは三々五々地元へ帰って行った。
僕はバイクに積める分だけの必要な荷物を残して宅配便で家に送ってから事務所に挨拶に寄った。
事務所の人たちは目を潤ませて見送ってくれた。
帰り道、「さんらいず」に寄ってちとせちゃんにもう一度会ってから帰ろうと思った。
お店ではるかさんを交えて話をしていると、
「急いで帰らなくていいなら今晩泊まっていってもいいわよ」
と、言ってくれた。
特に急ぐ用事はない、荷物が着くのは明後日だからそれまでに帰ればいい。
夕方たけるさんが帰ってきてから晩ごはんを食べながらいろいろな話をした。
「じゃあけんごくん、お布団敷いてるからここで休んでね」
そう言って6畳ほどの部屋に案内してくれた。
しばらく考えごとをしていると部屋の扉が開いてパジャマ姿のちとせちゃんが入ってきた。
「お兄ちゃん、いっしょに寝ていい?」
「いいけど…」
「やったー」
もう夜遅いので小さな声で話しているといつのまにかちとせちゃんは寝息を立てていた。
そのしあわせそうな顔を見ながら僕も眠りに落ちていった。
翌朝、朝ごはんをごちそうになり、ちとせちゃんたちに見送られて僕は出発した。
帰ったらいちばんに教習所の申し込みをして、あとはアルバイト探さないとな…
急に現実に引き戻された気がした。
ちとせ、9歳 <了>
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
毒と花言葉
佑佳
恋愛
オレは先輩の秘密を知ってしまった――
オープンスクールのポスターに映っていた女子生徒を追って私立の高校に入学した瀬尾丈(せおたける)。
彼女――高城鈴蘭(たかしろすずらん)は、三年生に進級していた。
丈はなんとかコンタクトをとろうと一人奮闘し始める。
そんな折に、高城先輩との間を邪魔しに入ってきた男子生徒から、彼女に関する黒い事実を知らされて……。
ノーと言えない高城先輩の毒消しとなりたい丈は、泥沼の中から彼女を救い出すことができるのか。

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる