ちぃちゃんと僕

みやぢ

文字の大きさ
上 下
5 / 36

ちとせ、9歳<3>

しおりを挟む
やがて最初のお給料日がやってきた。
仕事帰りに事務所へ顔を出すと事務員さんが封筒を渡してくれた。
現金の入った封筒とは別の封筒が添えられていた。

「これは?」
「あぁ、アイランドパークの関係者向けの招待券です、うちの割り当ての分が届いたのでお休みの日にでも行ってみてくださいね」

招待券!これ使ってちとせちゃんを連れて行ってあげられる…

次の日現像所の待ち時間に「さんらいず」に顔を出してちとせちゃんのお母さんに招待券の話をした。

「ありがたいんだけどお店の事があるし…けんごくん、よかったらお休みの日にちとせを連れて行ってくれないかしら」
「いいですよ、ちとせちゃんの喜ぶ顔が見れますね」

もうすぐちとせちゃんの学校が夏休みに入るので僕の休みにあわせて行こうということになった。

もちろんちとせちゃんは大喜びした。

指折り数えて待ってようやくその日がやってきた。

朝から「さんらいず」までバイクで行き、近くのバスターミナルから会場までの直通バスが出ているのでそれを使って行くつもりだ。

お店の裏の駐車場にバイクを停めて、勝手口の呼び鈴を鳴らす、お母さんが出てきた。

「おはようございます、すぐちとせ呼びますね」

しばらくしてちとせちゃんが出てきた。

「おはよーお兄ちゃん、今日はよろしくね」

ちとせちゃんは可愛いワンピースを着ていた。

「ちとせちゃんよく似合ってるよ」
「えへへっ」

照れた顔もまた可愛い…

「じゃあよろしくおねがいします、これ使ってね」

そう言ってはるかさんから手渡された封筒にはお金がいくらか入れてあった。

「さんらいず」からバスターミナルまでは歩いて5分ほどだ。

そこからバスで10分ほどで会場のゲート前に着いた。

路線バスの着く場所と仕事場の観光バスの駐車場は少し離れているので仕事関係の人と出会うことはなかった。

入り口で入場の手続きを済ませ、会場に入った。

「さあ、ちとせちゃん、どこから行こう?」
「なんか興奮しすぎて何がなんだかわかんない…」

とりあえず僕たちは島の歴史にまつわる展示を見に行くことにした、島に伝わるさまざまな伝説を映像化した展示で見ごたえがあった。

お昼ご飯を食べたあと、ちとせちゃんが「観覧車に乗りたい」と言い出した。

けっこう大きな観覧車で新しく架かった橋や対岸の朝日市まで見渡せる。

「わー!すごーい‼︎」
「あそこがお兄ちゃんの住んでる朝日市だねー」
ちとせちゃんは大興奮だ。

それからいろいろ見て回って夕方になったので帰ることにした。

帰りの直通バスが待機していたので乗り込んだ、出発まではまだ時間があるようだ。

「ちょっと眠くなっちゃった…」
と、ちとせちゃんが言い出した。
「向こうに着いたら起こしてあげるから少し寝てていいよ」
彼女は僕の肩にもたれかかってうとうとしはじめた。

やがてバスが動き出した。

バスターミナルに着いたので起こそうと肩を揺するが起きる気配がない…

他のお客さんはみんな降りてしまった。
仕方ないので僕はちとせちゃんを抱きかかえて降りようとした。

「あらら、お嬢ちゃん寝ちゃったんだ…大変だね」
バスのドライバーさんが笑った。
「すみません、楽しくてはしゃぎ過ぎたみたいで…」
「お兄さん、あわてなくていいから、ゆっくり足元に気をつけて降りてね」
「ありがとうございます」

ちとせちゃんを抱きかかえたまま「さんらいず」まで歩いて帰った。

「おかえりなさい、あら?ちとせ寝ちゃったのね」
「ちょっとはしゃぎすぎたみたいで…」
「重たかったでしょう、せっかくのお休みに無理言ってごめんなさいね」

お店の小上がり席にちとせちゃんを寝かせ、お母さんが毛布を持ってきたのでかけてあげた。
しばらくお母さんと話をしてそろそろ帰ろうかと思ったら、

「せっかくだから晩ごはん食べて帰りなさいよ、ちとせも喜ぶわ」

断る理由もないのでお言葉に甘えることにした。

しばらくしてお父さん、たけしさんが帰ってきた。
お母さんが僕のことを紹介してくれた。

「すまないね、俺もはるかもなかなかちとせを構ってやれなくてね、フェスタ終わるまではいるんだろう?」
「一応その予定です」
「どこから来てるんだい?」
「対岸の朝日市からです」
「なんだ近いじゃない、終わってからも時々ちとせと遊んでやってくれないか?」
「いいですよ」
「よろしく頼むよ」

そのあと目を覚ましたちとせちゃんを交えてみんなで晩ごはんにした。

どうやらお父さんにも気に入られたみたいだ。

こうして僕とちとせちゃんは仲良くなり、ご両親からも信頼を得ることとなった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒と花言葉

佑佳
恋愛
 オレは先輩の秘密を知ってしまった――  オープンスクールのポスターに映っていた女子生徒を追って私立の高校に入学した瀬尾丈(せおたける)。  彼女――高城鈴蘭(たかしろすずらん)は、三年生に進級していた。  丈はなんとかコンタクトをとろうと一人奮闘し始める。  そんな折に、高城先輩との間を邪魔しに入ってきた男子生徒から、彼女に関する黒い事実を知らされて……。  ノーと言えない高城先輩の毒消しとなりたい丈は、泥沼の中から彼女を救い出すことができるのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

シチュボの台本詰め合わせ(女性用)

勇射 支夢
恋愛
書いた台本を適当に置いておきます。 フリーなので好きにお使いください。

処理中です...