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ちとせ、9歳<3>
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やがて最初のお給料日がやってきた。
仕事帰りに事務所へ顔を出すと事務員さんが封筒を渡してくれた。
現金の入った封筒とは別の封筒が添えられていた。
「これは?」
「あぁ、アイランドパークの関係者向けの招待券です、うちの割り当ての分が届いたのでお休みの日にでも行ってみてくださいね」
招待券!これ使ってちとせちゃんを連れて行ってあげられる…
次の日現像所の待ち時間に「さんらいず」に顔を出してちとせちゃんのお母さんに招待券の話をした。
「ありがたいんだけどお店の事があるし…けんごくん、よかったらお休みの日にちとせを連れて行ってくれないかしら」
「いいですよ、ちとせちゃんの喜ぶ顔が見れますね」
もうすぐちとせちゃんの学校が夏休みに入るので僕の休みにあわせて行こうということになった。
もちろんちとせちゃんは大喜びした。
指折り数えて待ってようやくその日がやってきた。
朝から「さんらいず」までバイクで行き、近くのバスターミナルから会場までの直通バスが出ているのでそれを使って行くつもりだ。
お店の裏の駐車場にバイクを停めて、勝手口の呼び鈴を鳴らす、お母さんが出てきた。
「おはようございます、すぐちとせ呼びますね」
しばらくしてちとせちゃんが出てきた。
「おはよーお兄ちゃん、今日はよろしくね」
ちとせちゃんは可愛いワンピースを着ていた。
「ちとせちゃんよく似合ってるよ」
「えへへっ」
照れた顔もまた可愛い…
「じゃあよろしくおねがいします、これ使ってね」
そう言ってはるかさんから手渡された封筒にはお金がいくらか入れてあった。
「さんらいず」からバスターミナルまでは歩いて5分ほどだ。
そこからバスで10分ほどで会場のゲート前に着いた。
路線バスの着く場所と仕事場の観光バスの駐車場は少し離れているので仕事関係の人と出会うことはなかった。
入り口で入場の手続きを済ませ、会場に入った。
「さあ、ちとせちゃん、どこから行こう?」
「なんか興奮しすぎて何がなんだかわかんない…」
とりあえず僕たちは島の歴史にまつわる展示を見に行くことにした、島に伝わるさまざまな伝説を映像化した展示で見ごたえがあった。
お昼ご飯を食べたあと、ちとせちゃんが「観覧車に乗りたい」と言い出した。
けっこう大きな観覧車で新しく架かった橋や対岸の朝日市まで見渡せる。
「わー!すごーい‼︎」
「あそこがお兄ちゃんの住んでる朝日市だねー」
ちとせちゃんは大興奮だ。
それからいろいろ見て回って夕方になったので帰ることにした。
帰りの直通バスが待機していたので乗り込んだ、出発まではまだ時間があるようだ。
「ちょっと眠くなっちゃった…」
と、ちとせちゃんが言い出した。
「向こうに着いたら起こしてあげるから少し寝てていいよ」
彼女は僕の肩にもたれかかってうとうとしはじめた。
やがてバスが動き出した。
バスターミナルに着いたので起こそうと肩を揺するが起きる気配がない…
他のお客さんはみんな降りてしまった。
仕方ないので僕はちとせちゃんを抱きかかえて降りようとした。
「あらら、お嬢ちゃん寝ちゃったんだ…大変だね」
バスのドライバーさんが笑った。
「すみません、楽しくてはしゃぎ過ぎたみたいで…」
「お兄さん、あわてなくていいから、ゆっくり足元に気をつけて降りてね」
「ありがとうございます」
ちとせちゃんを抱きかかえたまま「さんらいず」まで歩いて帰った。
「おかえりなさい、あら?ちとせ寝ちゃったのね」
「ちょっとはしゃぎすぎたみたいで…」
「重たかったでしょう、せっかくのお休みに無理言ってごめんなさいね」
お店の小上がり席にちとせちゃんを寝かせ、お母さんが毛布を持ってきたのでかけてあげた。
しばらくお母さんと話をしてそろそろ帰ろうかと思ったら、
「せっかくだから晩ごはん食べて帰りなさいよ、ちとせも喜ぶわ」
断る理由もないのでお言葉に甘えることにした。
しばらくしてお父さん、たけしさんが帰ってきた。
お母さんが僕のことを紹介してくれた。
「すまないね、俺もはるかもなかなかちとせを構ってやれなくてね、フェスタ終わるまではいるんだろう?」
「一応その予定です」
「どこから来てるんだい?」
「対岸の朝日市からです」
「なんだ近いじゃない、終わってからも時々ちとせと遊んでやってくれないか?」
「いいですよ」
「よろしく頼むよ」
そのあと目を覚ましたちとせちゃんを交えてみんなで晩ごはんにした。
どうやらお父さんにも気に入られたみたいだ。
こうして僕とちとせちゃんは仲良くなり、ご両親からも信頼を得ることとなった。
仕事帰りに事務所へ顔を出すと事務員さんが封筒を渡してくれた。
現金の入った封筒とは別の封筒が添えられていた。
「これは?」
「あぁ、アイランドパークの関係者向けの招待券です、うちの割り当ての分が届いたのでお休みの日にでも行ってみてくださいね」
招待券!これ使ってちとせちゃんを連れて行ってあげられる…
次の日現像所の待ち時間に「さんらいず」に顔を出してちとせちゃんのお母さんに招待券の話をした。
「ありがたいんだけどお店の事があるし…けんごくん、よかったらお休みの日にちとせを連れて行ってくれないかしら」
「いいですよ、ちとせちゃんの喜ぶ顔が見れますね」
もうすぐちとせちゃんの学校が夏休みに入るので僕の休みにあわせて行こうということになった。
もちろんちとせちゃんは大喜びした。
指折り数えて待ってようやくその日がやってきた。
朝から「さんらいず」までバイクで行き、近くのバスターミナルから会場までの直通バスが出ているのでそれを使って行くつもりだ。
お店の裏の駐車場にバイクを停めて、勝手口の呼び鈴を鳴らす、お母さんが出てきた。
「おはようございます、すぐちとせ呼びますね」
しばらくしてちとせちゃんが出てきた。
「おはよーお兄ちゃん、今日はよろしくね」
ちとせちゃんは可愛いワンピースを着ていた。
「ちとせちゃんよく似合ってるよ」
「えへへっ」
照れた顔もまた可愛い…
「じゃあよろしくおねがいします、これ使ってね」
そう言ってはるかさんから手渡された封筒にはお金がいくらか入れてあった。
「さんらいず」からバスターミナルまでは歩いて5分ほどだ。
そこからバスで10分ほどで会場のゲート前に着いた。
路線バスの着く場所と仕事場の観光バスの駐車場は少し離れているので仕事関係の人と出会うことはなかった。
入り口で入場の手続きを済ませ、会場に入った。
「さあ、ちとせちゃん、どこから行こう?」
「なんか興奮しすぎて何がなんだかわかんない…」
とりあえず僕たちは島の歴史にまつわる展示を見に行くことにした、島に伝わるさまざまな伝説を映像化した展示で見ごたえがあった。
お昼ご飯を食べたあと、ちとせちゃんが「観覧車に乗りたい」と言い出した。
けっこう大きな観覧車で新しく架かった橋や対岸の朝日市まで見渡せる。
「わー!すごーい‼︎」
「あそこがお兄ちゃんの住んでる朝日市だねー」
ちとせちゃんは大興奮だ。
それからいろいろ見て回って夕方になったので帰ることにした。
帰りの直通バスが待機していたので乗り込んだ、出発まではまだ時間があるようだ。
「ちょっと眠くなっちゃった…」
と、ちとせちゃんが言い出した。
「向こうに着いたら起こしてあげるから少し寝てていいよ」
彼女は僕の肩にもたれかかってうとうとしはじめた。
やがてバスが動き出した。
バスターミナルに着いたので起こそうと肩を揺するが起きる気配がない…
他のお客さんはみんな降りてしまった。
仕方ないので僕はちとせちゃんを抱きかかえて降りようとした。
「あらら、お嬢ちゃん寝ちゃったんだ…大変だね」
バスのドライバーさんが笑った。
「すみません、楽しくてはしゃぎ過ぎたみたいで…」
「お兄さん、あわてなくていいから、ゆっくり足元に気をつけて降りてね」
「ありがとうございます」
ちとせちゃんを抱きかかえたまま「さんらいず」まで歩いて帰った。
「おかえりなさい、あら?ちとせ寝ちゃったのね」
「ちょっとはしゃぎすぎたみたいで…」
「重たかったでしょう、せっかくのお休みに無理言ってごめんなさいね」
お店の小上がり席にちとせちゃんを寝かせ、お母さんが毛布を持ってきたのでかけてあげた。
しばらくお母さんと話をしてそろそろ帰ろうかと思ったら、
「せっかくだから晩ごはん食べて帰りなさいよ、ちとせも喜ぶわ」
断る理由もないのでお言葉に甘えることにした。
しばらくしてお父さん、たけしさんが帰ってきた。
お母さんが僕のことを紹介してくれた。
「すまないね、俺もはるかもなかなかちとせを構ってやれなくてね、フェスタ終わるまではいるんだろう?」
「一応その予定です」
「どこから来てるんだい?」
「対岸の朝日市からです」
「なんだ近いじゃない、終わってからも時々ちとせと遊んでやってくれないか?」
「いいですよ」
「よろしく頼むよ」
そのあと目を覚ましたちとせちゃんを交えてみんなで晩ごはんにした。
どうやらお父さんにも気に入られたみたいだ。
こうして僕とちとせちゃんは仲良くなり、ご両親からも信頼を得ることとなった。
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