ちぃちゃんと僕

みやぢ

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ちとせ、9歳<1>

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アイランドフェスタが始まった当初は団体客は少なく、それほど忙しくなかった。

手の空いている時間はロールプレイのおさらいをしたりした。

それでも時間が余って仕方がないので駐車場の隅の方で移動用に置いてある社用車のライトバンを使ってニシさんに車の運転を教えてもらっていた。

原付免許だけでは次の仕事も探しにくいのでこの仕事で稼いだお金で教習所へ通うつもりにしている。

しばらくして観光バスがゆっくりと駐車場へ入ってきた。

団体客が来るとバスの誘導と添乗員さんとの交渉をして、OKが出ればお客さんをひな壇に誘導して記念撮影だ。

撮影したフィルムはすぐさまカメラから抜き取られ現像所へ運ばれる。

会社が用意してくれた原付バイク、銀行の営業マンがよく乗ってるタイプで荷台にスチール製のボックスが付いているところまで同じだ。

ギア付きのバイクに乗れるのが僕とニシさんだけだったので現像所へ運ぶのも僕たちの仕事だった。

イベント開始当初は少し離れたメーカーの営業所へ運んでいた。
一月後くらいに会場の近くに仮設の現像所を作ってそこで対応することになるそうだ。

仕上がりを待つ間、簡単な応接室のようなところで待つ、写真材料メーカーらしく写真関係の雑誌がたくさん置いてあったのでいつも僕はそれを読みふけっていた。

仕上がったらすぐさま会場へ戻り、団体客がバスへ戻ってくるのを待つ、そして出来上がった記念写真を手売りするのだ。

会期当初は老人会などの団体ツアーが多く、
僕はお年寄りにすれば孫のように映るのか、やたらウケが良く帰り際におばあさんからお菓子などをもらうこともたびたびあった。

そして島の人々が待ちに待った橋の開通日、僕たちは仕事だったが、夜になってニシさんが車でハセガワさんも一緒に橋の渡り初めに連れて行ってくれた。

夜はライトアップされた大きくてきれいな橋だった。

対岸のファミレスで晩ご飯を食べ、楽しくおしゃべりして島へと戻った。

そして1ヶ月ほどが過ぎ、仮設の現像所が稼働し始めた。

移動の時間が短縮されるのでかなり余裕ができてありがたい。

本土の写真材料メーカーからマナベさんとタカハシさんという二人の男性が派遣されてきた。

マナベさんはカメラ好きということで僕とよくカメラ談義をしてくれ、いろいろと技術的なことも教えてくれた。

現像所は店舗付き住宅の一階部分を利用している、飲食店にも対応した造りで水まわりがしっかりしているからだそうだ。

写真の現像にはとにかく水を大量に使う、高校の写真部の部室もそういう理由からプールの観覧席の下にあった。

仮設の現像所が稼働し始めてしばらくした頃、現像所の裏手にある駐車場で女の子が一人で座っているのを見かけた。

「お兄ちゃんここで何してるの?」
「お仕事で来てるんだ」

彼女と初めて交わした言葉だった。




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