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ようこそロマン亭へ<3>
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駅前で待っていると少ししてまどかさんがやってきた。
「お待たせ、どこ行く?」
「『クスクシエ』にしようか、まどかさんあの店好きでしょ?」
「さすが翔ちゃん、わかってるね~わたしも行きたいとおもってたの」
『クスクシエ』は東南アジア風のしつらえでアジアを中心とした「無国籍料理」を売りにしたお洒落なお店でまどかさんのお気に入りだ。
オープンテラスに白熱電球で東南アジアのどこかの国の屋台で飲んでる気分になる。
「かんぱ~い、おつかれさまでしたー、ほんとありがとね、助かったわ」
そう言うとまどかさんはビールのジョッキを差し上げた。
他愛もない話をしているとふとまどかさんが言った。
「お父さんたち元気にしてるかな?」
言うまでもなく僕の両親の話である。
実は僕の親父は今中東の某国に赴任している、お袋もそれに同行して異国での暮らしを満喫しているらしい。
僕がロマン亭で働くようになってまもない頃、海外赴任の話が持ち上がった。
中東の某国の現地法人を立ち上げるのに役員として赴任するそうだ。
「翔太郎の就職も決まったし、常務…火野さん直々の頼みだから受けようと思う、お前も火野さんは知ってるだろ」
火野さんは親父の高校大学の先輩で仲が良くうちにもたまに遊びにきていた。
飄々とした人の良さそうなおじさんだったけど常務まで登り詰めるくらいだからかなりのやり手なのだろう。
「そこでだ、お前もひとり立ちしたし母さんも一緒に連れていこうと思う、役員待遇だからいろいろ夫婦でないといけないこともあるだろうしな」
いきなりたいそうな話になってきたな…
「まどかちゃんと助け合っていくんだぞ、この家の名義もお前に書き換えるよう手続きも進めてる」
こうして数ヶ月後親父たちは中東の某国へ旅立って行った。
「そうだね、正月にメール送ってくるくらいしか連絡ないものな」
「便りの無いのは元気なしるしって、お父さんらしいね」
「今度帰ってくるのはお前とまどかちゃんの結婚式だ、なんてふざけたこと言ってたな」
「結婚式か…ねぇ、今日の撮影どうだった?」
急にまどかさんが真顔になって言った。
「どうって、何がなんだかわからないうちに終わったよ、本物の結婚式もこんなのかな?」
「うふふ、わたしはね、ありすちゃんとあなたが並んでるの見てちょっと妬けたんだ、だから最後一緒に撮れて嬉しかった」
「あの最後の写真、親父に送りつけてやろうか」
「ダメよ、お父さん『なんで俺を呼ばないんだ』ってぜったい怒るよ」
そりゃそうだ…出発する直前までずっと言ってたものな。
「ねえ、翔ちゃん約束して」
「なにを?」
「ずっと一緒にいてくれるって」
「もちろんだよ」
満面の笑みでまどかさんが抱きついてきた。
大きな仕事を無事終えて緊張の糸が解けたのかまどかさんはいつもより酔っているようだ。
足もとがおぼつかなくなってきてるのもあってタクシーで家まで帰ることにした。
「さぁ、まどかさん着いたよ」
「もう歩けない…」
仕方ないので抱きかかえるようにして寝室まで連れて行った。
「寝る…」
まどかさんは着てる服を脱いでそこらじゅうに放り投げて下着姿になり、そのまま化粧も落とさずにベッドに横になってしまった。
気がつくともう寝息を立てている。
「仕方ないなぁ…風邪ひいちゃうぞ」
僕はまどかさんに毛布を掛けてシャワーを浴び、隣で横になった。
お酒が入ってるせいかなかなか寝付けなかった。
これからの2人のこと、そしてお店のこと、あれこれ考えているうちにやがて眠りに落ちていた。
「あのとき約束したんだ、どんなことがあってもずっと一緒にいるって、その約束だけは絶対に守りたい」
ようこそロマン亭へ <了>
「お待たせ、どこ行く?」
「『クスクシエ』にしようか、まどかさんあの店好きでしょ?」
「さすが翔ちゃん、わかってるね~わたしも行きたいとおもってたの」
『クスクシエ』は東南アジア風のしつらえでアジアを中心とした「無国籍料理」を売りにしたお洒落なお店でまどかさんのお気に入りだ。
オープンテラスに白熱電球で東南アジアのどこかの国の屋台で飲んでる気分になる。
「かんぱ~い、おつかれさまでしたー、ほんとありがとね、助かったわ」
そう言うとまどかさんはビールのジョッキを差し上げた。
他愛もない話をしているとふとまどかさんが言った。
「お父さんたち元気にしてるかな?」
言うまでもなく僕の両親の話である。
実は僕の親父は今中東の某国に赴任している、お袋もそれに同行して異国での暮らしを満喫しているらしい。
僕がロマン亭で働くようになってまもない頃、海外赴任の話が持ち上がった。
中東の某国の現地法人を立ち上げるのに役員として赴任するそうだ。
「翔太郎の就職も決まったし、常務…火野さん直々の頼みだから受けようと思う、お前も火野さんは知ってるだろ」
火野さんは親父の高校大学の先輩で仲が良くうちにもたまに遊びにきていた。
飄々とした人の良さそうなおじさんだったけど常務まで登り詰めるくらいだからかなりのやり手なのだろう。
「そこでだ、お前もひとり立ちしたし母さんも一緒に連れていこうと思う、役員待遇だからいろいろ夫婦でないといけないこともあるだろうしな」
いきなりたいそうな話になってきたな…
「まどかちゃんと助け合っていくんだぞ、この家の名義もお前に書き換えるよう手続きも進めてる」
こうして数ヶ月後親父たちは中東の某国へ旅立って行った。
「そうだね、正月にメール送ってくるくらいしか連絡ないものな」
「便りの無いのは元気なしるしって、お父さんらしいね」
「今度帰ってくるのはお前とまどかちゃんの結婚式だ、なんてふざけたこと言ってたな」
「結婚式か…ねぇ、今日の撮影どうだった?」
急にまどかさんが真顔になって言った。
「どうって、何がなんだかわからないうちに終わったよ、本物の結婚式もこんなのかな?」
「うふふ、わたしはね、ありすちゃんとあなたが並んでるの見てちょっと妬けたんだ、だから最後一緒に撮れて嬉しかった」
「あの最後の写真、親父に送りつけてやろうか」
「ダメよ、お父さん『なんで俺を呼ばないんだ』ってぜったい怒るよ」
そりゃそうだ…出発する直前までずっと言ってたものな。
「ねえ、翔ちゃん約束して」
「なにを?」
「ずっと一緒にいてくれるって」
「もちろんだよ」
満面の笑みでまどかさんが抱きついてきた。
大きな仕事を無事終えて緊張の糸が解けたのかまどかさんはいつもより酔っているようだ。
足もとがおぼつかなくなってきてるのもあってタクシーで家まで帰ることにした。
「さぁ、まどかさん着いたよ」
「もう歩けない…」
仕方ないので抱きかかえるようにして寝室まで連れて行った。
「寝る…」
まどかさんは着てる服を脱いでそこらじゅうに放り投げて下着姿になり、そのまま化粧も落とさずにベッドに横になってしまった。
気がつくともう寝息を立てている。
「仕方ないなぁ…風邪ひいちゃうぞ」
僕はまどかさんに毛布を掛けてシャワーを浴び、隣で横になった。
お酒が入ってるせいかなかなか寝付けなかった。
これからの2人のこと、そしてお店のこと、あれこれ考えているうちにやがて眠りに落ちていた。
「あのとき約束したんだ、どんなことがあってもずっと一緒にいるって、その約束だけは絶対に守りたい」
ようこそロマン亭へ <了>
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