駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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ヘーゲルツ王立学園

実地訓練4

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「殿下、いちにのさんで離します!いいですね」

殿下が頷くのがわかる。

「いきます!いち、にの、さん!!」

五つの首を同時に弾き飛ばしたのと同時に殿下を地面へおろし、次に向かってきたヒドラの首下の胴体との接合部分の少し上の方をめがけ剣を刺した。そのまま巨体を殿下の反対方向へ向かせるために足に風を重点的に纏わせ、残り僅かの木の側面を蹴り巨体を動かすのを助長させた。
すでに怒りが沸騰状態のヒドラは僕が肉厚な接合部分を刺したことと殿下から離されたことにますます怒ったのか滅茶苦茶に長い首を振り回す。
それでも何としてでも殿下のもとへは行かせまいとする僕に対しヒドラが紫色の炎を口から吐いた。

「なッ!」

咄嗟に身をかばう。だけどローブで守られているとはいえ一部が燃えている。
ヒドラって、魔獣って、火を吐くものなのか⁉魔法に耐性をもっているのは分かっていたがまさかこんなことができるとは。
どうする?剣で一人で倒すなんて無理かもしれない。というかなんでこうも殿下を追いかけるんだこのヒドラ。結局ヒドラに対して殿下が剣をふるうことになったじゃないか。僕を追いかけろよ。一気にカタをつけると決めたばかりなのにいきなりのイレギュラーに思考が追い付かない。
こんなんじゃあやみくもに体力を減らしていくばかりだ。こんなことになるならもっと厳しく訓練をすればよかった。今思ってもしょうがないことばかりが頭に浮かぶ。あぁもう!
何をどうすればいいのかわからない。

全く言葉を発さないのでわからないがそろそろ殿下も限界だろう。
そう思い、横目に彼の表情を見た。しかしそれは予想外のものだった。恐怖や疲れなんてない、まるで自らヒドラに喰われようとしているような表情。眼は虚ろで何もかも諦めたようななぜか既視感のある顔だ。
それを見たときなぜか思考がはじけた。
あぁ、こうすればいいんだ。

「殿下!もう少しだけ耐えてください。」

導き出した答えはそう、逃げる、だ。

ただ逃げるわけではない。
街の人にも殿下にも被害を与える可能性が低い他の案を思いついたのだ。それにただ単に冷静に考えて第4王子殿下を守りつつこのヒドラを狩るなんて危険すぎると判断したのだ。
僕には剣だけじゃない、風魔法がある。あの時、最初にヒドラと対面した時、僕は火魔法が効かないと聞いて僕の魔法も効かないと思ってしまった。だけどあの後リカーフが土の塊をヒドラの上に生成し、それでヒドラの動きを止めることができた。そのおかげで僕や先輩騎士たちは首をとることができた。
生成された火は自然発火した火とは質が異なり、あくまでまやかしのものだ。だから術者は自身が生み出した炎で火傷をすることがない。しかし風魔法ならどうだ。風魔法も土魔法と同じ物理、なのではないか?
だから一か八かに出る。
こちらに向かってくる首に応戦しながらも殿下のもとへいくヒドラの首に合わせて自分も殿下の方へ行く。さっきの行動が無駄だったことがわかる。殿下の前に立ち一度にたくさんの首がやってくるように強弱をつけて受け流す。
首の長さ、生え方、その配置、どれも計算しているわけでもないのにわかる。

今だ。

この魔法を生成するためには剣を奮う手を一度止めなければならない。殿下の側の僕には気も留めずに一気に殿下に食らいつこうとするヒドラを見ながら、魔法を組み立てる。大規模になるため手を胸の前で左手の人差し指を立てて、右手で掴み、右手人差し指の爪を左手人差し指の腹と合わせ集中する。

現れたのは辺りのものを巻き込みながらヒドラの足元から膨らんでいく旋風。
暗色の空へ向かって伸びた漏斗雲が特色で、ヒドラの巨体を渦巻く激しい破壊的な暴風。
それは勢いをつけてあらゆるものを裂き削りながら広がっていく。

神様から教わったものではない、自分で作った、僕だけの魔法。
この時僕は初めて何かを成した気がした。

無言で足元の殿下を抱き上げる。
もう外も暗い。無理に平原から出るのも危険だ。
何より僕の魔力は少なくとも朝までは続く巨大竜巻を作ったせいですっかり空っぽだし、腕がしびれて剣を思う存分振るえない。
せめて魔力が回復するまで少し離れて待機だ。この木がまばらに生えた場所から少し行ったところに小さな洞穴があったはずだ。疲れた頭で考える。
ヒドラの苦悶の声を聞きながら足をひきずるように歩く。まずい、魔力がすっからかんになったからか体が猛烈に気だるいし動きにくい。その時ちょうど殿下が僕の腕の中でもがき下り僕の体を抱き上げた。

「でんか…?」
「……すまなかった。」

慌てて降りようとする僕を止めて僕を見ながら言った。それ以上、殿下は何も話さなかったが僕の考えていることが分かったかのように洞穴に連れて行ってくれた。
連れてきてもらって何もしないのはあれだと残った頭の中の思考力が働き火をおこそうとする。しかし火のつけ方を思い出そうとしている僕を見て殿下が魔法でそばにあった枝木につけてくれた。辺りに枝を数本あった枝を集め重ねて火を大きくする。
二人で無言で焚火を囲む。


―――

日が変わるまであと7分。更新遅くなりすみません。
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