駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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ヘーゲルツ王立学園

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「シヅルせんせ~」
「ん~どうしたの?」
「やっぱこれ分かんない~!」


今僕はカーチェスの故郷、ラヒット村にいる。
この村は忙しかった騎士団候補生の頃と比べのどかだ。ここは小麦の生産地で、各家庭ではそれに加え穀物をちょっと育てたりしていて自給自足的な生活スタイルだ。
そんなところに花とジャガイモしか育てたことのない貧弱者がやってきて村の人達は歓迎してくれたけれど、やはり何も村に貢献しないのは駄目だ。
そう思って農作業を手伝おうと思ったが、どうやら僕をカーチェスの客人だと思っている人がいたりそもそも1から育て方を教わるのも申し訳ないと思った。
だからカーチェスの助言に従い、子供たちに簡単な勉強を教えることにしたのだ。


カーチェスが用意してくれた家は広くてちょうど部屋を持て余していたので、そこに子供たちを集めてやることにした。
ただでさえ怪しげな見た目をしている僕に子供達が近寄ってくるかと思っていた。だけどカーチェスが憧れの騎士だったことや子供達が意外と好奇心旺盛だったので、リーダー的存在であるキラ君が来てくれたのをきっかけにだんだんと来る子は多くなった。

勉強は主に小学生の算数でお金に関係するものなど実生活に役立つであろう事を教える。また、最近増えてきた女の子の要望でお菓子作りも始めた。
正直上手く行きすぎて不安だ。

それと、やっとリカーフと連絡を取れるようになった。今までアレフガートさんがどうなるか検討もつかなかったため、外部と連絡を取るのは禁止されていたのだ。
今も元気でやっていること、それと僕の心配ばかりが綴られていた。全くリカーフらしい。
正直許可がでるのはもっと先のことかと思っていたけれど、想像以上に早くて嬉しい。







そしてついに今日は学園へ行く日だ。

僕が学園で教えることになったのは生物・魔獣学だ。あの調査報告書で最も高く評価されたのが森の植物と魔獣の関連性に関するものだったためだ。
確かに何故あのような植生なのか興味はあったし、教えられる準備は整えられた。
だけど学校というところはどうも僕を緊張させる。あの頃とは、前の世界とは、状況が違うと分かっていても足がすくむ。
それでも僕をここまで行動させてくれた皆が用意してくれた場だ。なんとか教師のお着せを着て、村の門口へと歩く。

「シヅル!おはよう!」
「おはよう、ククリ君。」
「あれ?ねぇどっか行くの?」

この子はキラ君と仲が良くて、リリスちゃんという可愛らしい妹が生まれてお兄ちゃんになったばかりの子だ。
どうやらいつもと違うローブを羽織っているから不思議に思ったらしい。

「学園に勉強を教えに行くんだよ。」
「えーー!じゃあ俺らもうべんきょーできないのー?」
「そんなことないよ。教えるって言っても1週間に3日だけだし毎週末帰ってくるからね。」
「ふ~ん。じゃあなるべく早く帰ってきてよね!」
「ふふっ。うん。」
「なら良いよ!頑張ってね!」
「ありがとう。」

出会ってあまりたっていないというのに僕と離れるのを不服に思ってくれているようで、心が温かくなる。
意を決して足を動かす。そうだ、僕は先生になるんだからしっかりしなきゃ。

教師の寮に運ぶ重い荷物を持ち歩いていくと村の門口に白い大きな鳥と一緒に誰かが立っているのが見えた。
あの印象的な青い髪は…カーチェスだ。

「シヅル!!」
「カーチェス!なんでここに!」

「お前を送るために決まってんだろ。ほら、乗れ!」

僕が駆け寄っていくとそう言って僕を軽々と持ち上げ、鳥の上に乗せる。
まだ早い時間帯だったけれど朝早くから働き始める農家の皆さんはカーチェスだけでなく僕にもきちんと挨拶をしていってくれた。
それに笑顔で返すカーチェスを見てふと思った。この村から騎士になるために、カーチェスはどれ程血の滲むような努力をしてきたのだろう。きっと想像できないし、簡単にわかるものではない。
そう思っていると鳥が空へと舞い上がった。風が背中を押してくれているようで気持ちがいい。

「シヅル、教師のかっこ、似合ってんぞ。」
「そんなこと言ったらカーチェスだって。今までの黒の制服もかっこよかったけど、赤燐騎士団の赤も似合ってるよ。」

教師の制服は、ローブの中側は胸元を緩く緑のブローチで締めた白いワイシャツに黒いズボン。その上に羽織るのは大きめの金と漆黒の見事な刺繍が入ったローブだ。機能性的には神様から頂いた今まで使っていたローブの方が断然良いのだろうからと思い、それも替えのローブとして持っていくことにした。
カーチェスの制服を改めてみると、なんだか複雑な気持ちになる。半分僕のせいでせっかく築き上げてきた黒曜騎士団での立場がいっきに崩れたのだ。

「あぁ後、そうだ。シヅル、事前に学園の規則についての書類送ったろ。あれ、一個訂正があるんだ。」
「何?」
「……教師のみ、帯剣がになった。」

確か頭に詰め込んだ情報の中では教師も生徒も、警備員以外は帯剣が禁止されているはずだ。それが教師のみ任意って言うのは…。
ふと見たカーチェスの顔は険しい。やっぱり。
学園に危険があるという事。もしくは危険が忍び寄っているのだ。

「カーチェス。」
「あぁ。こんな時期にシヅルを学園に教師として入れるのはと思ったん「大丈夫だよ。任せて。必ず、生徒達を守ってみせるよ。」」
「ッ!シヅルは俺らのことを恨むべきだ。俺らの都合で振り回して、国益のために動いてもらって挙句の果てに命の危機にさらしてるんだぜ?それにもしこれでシヅルの身に何かあったら団長にぶっ殺されそうだぜ。」

どんどん暗い雰囲気になる空気を変えたくて遮った。それでも最初は深刻そうなカーチェスにしては珍しい暗い眼で、そして後にそれをごまかすようにアレフガートさんの話を出した。
カーチェスがこんなに思い悩む必要はないのに。
こんなの、誰かが謝らなきゃいけないことではないのに。

「あのね、カーチェス。今のこの状況じゃなくてもアレフガートさんのために僕は行動していたと思うし、子供たちの安全のために動きたい。だからね、僕はきっと同じ事をしていたよ。」
「そっか…。」

それに僕なんかが役立てるのは嬉しい。
大丈夫。僕には剣も風魔法もある。戦える。守れる。



学園に着く頃にはいつの間にか学園に行くことへの恐怖は消えていた。

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