駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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サヴァリッシュ王国

脱出1

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この屋敷に来てからアレフガートさんと僕は全くまともな会話ができない。アレフガートさんは僕を部屋に閉じ込め、食事さえ一緒に食べてくれない。
何もかも悪い方向にいってしまった。

こんなことになってしまった原因は一つ。
僕だ。
彼の相手にはもっと社交的で可愛らしくて愛に応えられる子がいい。
僕なんかじゃなくて、もっと良い子。

ずっと同じことが頭の中をループしていて何も考えられない。
頭に靄がかかっているような感じだ。



そんな時、ぼぅっと窓から外を眺めていると、一羽の白い鳥が窓枠にとまった。
あぁこんな鳥もいたな、鶯みたいでこの世界で騎士団候補生試験の時に魔鳥という鳥なのだと知った。

「シヅル!」

……?
どこからかアレフガートさんのでない懐かしい声が聞こえた。
いや、そんなはずはない。彼はこの場所を誰にも教えていないと言っていたし、第一僕に会いにくる人なんていないだろう。
しかしそう思って、もう一度脱力感に身を任せようとしたときまた聞こえた。

「だーかーらー、オレだよオレ!エディアス!エディアス・ノルク・ヴァラムフィールド!もしかして聞こえてない?」

エディアス・ノルク・ヴァラムフィールド。エディ?
僕が森の奥からでることになったきっかけをつくった人。
そういえば最近全く会えていなかったな。とっくに忘れ去られていたと思っていたのに。
それでも僕は覚えている。
このふとした瞬間にエディの幻聴を聞くということは相当頭がおかしくなっているのかもしれない。

「まさか忘れたのか?」

「え…。」
「おい、大丈夫か?クソっアレフガート兄上め」

まさか…。本当にしゃべってる?
でもどこから?もしやこの魔鳥から、か?

「エディ…?」
「よかった。聞こえてたか。あぁー、元気か?」

元気、か。わからない。怪我は完治したけれどアレフガートさんとはバラバラのままだ。
もう、修復なんてできない気がする。そして僕が消えない限り彼は幸せになれないだろう。

「……。」
「シヅル、時間がないから手短に言うぞ。オレは今、妻のつてを使ってお前を探し出した。それで囚われのシヅルを救いにきたってわけ。」
「…?」
「シヅル…。ふぅ…。何も考えなくていいから、とにかくじっとしとけ。
「えっ…うん…。」
「それじゃあ、今日の日がかわるときに来る。それまでにするべきことをしておけよ。」




夜、ぼうっとしてしまってするべきことなんて思いつかなかった。そうこうしていると、エディが白い鳥に乗ってやってきた。

窓を開けると足枷を外すための鍵を投げ入れられた。急いで外す。
手がもつれて上手くできなくてもどかしかった。
ようやく重い枷がはずれエディのいる白い背中に乗った。

「行くぞ。」


物凄いスピードで飛び出したと思ったがそれもすぐ慣れ、エディに聞きたかったことを聞いてみた。

「僕が倒れた後、皆はどうなったの?」
「どう…か。あの後、お前とアレフガート兄上がいなくなってから黒曜騎士団は混乱状態に陥った。魔獣の大量発生時期と重なったこととかのせいでな。それに政権交代の時期が近付いていることでアレフガート兄上の不在は大きかった。俺の奥さん、知ってるか?」

「うん。第三王女様でしょ。」
「おう。俺と結婚するせいで中立から第二王子派にされて、ますます争いは過激化した。そんなこんなで、兄上を政界に戻さなきゃいけなくて俺がこの役割についたんだ。
「ごめん、なんか。僕のせいだよね、アレフガートさんが政界に出ないのって」
「そんなことは…あるが、本来なら兄上の力がなくても解決できるはずだったんだ。予定がくるっちまってな。でも確かに俺らは政治的な問題とか、こっちの勝手な都合で半分強引に連れ出しちまったが、アレフガート兄上とシヅルを引き離した方が二人のためになると思ったんだ。だから、もしシヅルがやっぱり兄上の屋敷に戻りたいっていうんならまだ引き返せる。」

引き返す、つまりあの場所に戻るという事。
それをしたところで、どうにかなるのか。 いや、どうにもならない。

「ううん。戻らないよ。」
「そっか。」

僕もエディもしゃべらない。
そんな沈黙の中、2時間は飛んだのだろうか?ある森の中に降り立った。
そこには驚いたことに僕の見知った人達が集まっていた。黒曜騎士団のレナードさんにカーチェス、スカルゴさん、それにレナードさんの奥さんのエリ様。
エリ様は僕をすぐに抱きしめた。

「なんで、ここに…、」
「こんなにやつれて…」

最後まで言わないうちにエリ様に遮られる。エリ様だけでなく、ほかの人たちからも口々に声をかけられる。
それをなんとかエディが引きはがし、本題に入った。

「シヅル、いい?シヅルにはしばらく身を隠してもらう。」
「うん。」

カーチェスが僕の頭を撫でながら言う。

「だけどな、団長とよく接する俺らがお前の近くにいるとまずい。匂いで察知されて俺らが殺されて、シヅルは見つかって振り出しに戻っちまう。そこでだ。シヅルには」

その時突然、その場が光りキラキラとした靄が出来その中からある人が現れた。
この人は…いや、この方は、第二王子殿下だ。
皆がひざまずき始めた。
すぐさまレナードさんたちに従い、礼の姿勢をとる。

「そんなにかしこまるな。立て。」

そう一声かけられ、恐る恐る立ち上がる。すると殿下が僕の方を向いて頭を下げた。

「番殿、俺の勝手な都合に振り回してすまない。」
「い、えっそんな、ことないです。むしろ連れ出していただいてよかったというか…なんというか…」

どうすればいいかわからない。今僕が何を言うべきなのかわからない。

「すまない、余計なことを言うと混乱させてしまうようだな。」
「ならば殿下、なぜこちらに?いくら離れたとて見つかる可能性があるのだから少人数で動きましょうと決めたはずですが。」

僕が答える前にレナードさんが割って入ってくれた。正直言ってありがたい。

「あぁ計画変更だ。実は父上に見つかってしまってな、」
「なぜ…⁉」

カーチェスがどこか非難するような驚いた声で言った。

「それに関しても謝らねばならないが、原因は番殿のその賢すぎる頭にあると言っておこう。簡潔に言うと、あの討伐で番殿が記した調査報告書が高く評価されたんだ。それこそ、父上が目をかけるほど。」
「なるほど…。では計画変更とは」
「番殿を学園に入れる。学園は絶対不可侵領域だ。いくらあいつでも手は出せん。」

学園…?
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