駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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サヴァリッシュ王国

魔獣討伐4

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僕が頭を5つ切ればよい。
しかし如何せん頭は思ったように動いてくれない。

一気に僕にきてくれれば、危険だけど倒せる確率は上がるのに。
とりあえずヒドラの動きを止めたい。

そうだ!魔法なら!

「魔法は⁉」
「駄目だ!こいつ、火が効かねぇ!」

ヒドラの弱点である火が効かず、しかも怖がらない…?
一体どうすれば!
応戦しつつ考える。ヒドラが動き続けてヒドラの攻撃可能範囲が定まらなければ体力が削られていくだけだ。

その時突然ヒドラの胴体に大量の土のような塊が落ちてきた。避けることしかできなかったヒドラの尾が動けなくなる。ヒドラは突然体の自由が制限されたことに驚き、怒っているようだ。

「剣の扱いに長けていなくても、僕にも援護ならできる!先輩方、シヅル、本体へ土魔法で負担をかけます!長くはもちませんがそれでも!シヅル、合図を!」

これほどの土魔法が使える人、それはリカーフだ。
そうか。魔法の攻撃が効かずとも、物理的に押さえつけてしまえばいいのだ。

「わかった。一度で決めます!リカーフが魔法を放ったら二人一組で対応中の頭を切ってください!できるならば同時に!」
「お前!」

一気に残りの5つを相手しようとしていた僕に気付いた先輩騎士から声がかかる。

「大丈夫です!いけます!」

その騎士は躊躇いつつも僕を一瞥したが、ほかの足を負傷しているらしい騎士が加勢してこようとする。
これでは動きにくい。そう思い、つい叫ぶ。

「僕は、いけますっていいました!怪我人はいいから引っ込んでてください‼」

僕が言い放ったその時、一瞬すべての頭が少し騎士たちから離れた。今だ。

「リカーーフ!今!」
「うん!」

一瞬で胴体全体に土魔法による負荷がかかりヒドラの動きが鈍る。
その隙に全身の筋肉を最大限使い、身体をそらせ、回転しながら勢いに任せて首を断ち切る。一つ逃したけどこれで4つ。
僕が切ったのを契機に首が切り落とされていく。

これで最後の一つ。一番長いであろう首をもつ頭が向かってくる。
どうしよう。このままでは後ろの人達を巻き込む。正面から首を断つことはできない。
咄嗟に極限まで引き付けて空に舞う。よしっ!かかった!
急に方向転換した僕についてきて僕の真下から大きく口を開けて向かってくる。
そのまま僕はその口に身体ごと剣で突き刺した。大量の血飛沫が僕にかかる。全身に飛び散るそれに構わずとにかく夢中で剣を奮う。そしてとどめと言わんばかりに動きが止まったそれに対し、一振りで首を切る。

するとヒドラの動きが止まる。まだ切られた首が少しうごめいているが、首はすべて落とした。
これで…大丈夫、かな?

「倒した…。」
「あぁ」

騎士の人たちが、死骸を確認する。
そして、リカーフが僕に駆け寄ってきた。

「リカーフ…。ありがとう。リカーフの魔法がなかったら、もう駄目だった気がする」
「そんな…。僕も最初っからシヅルがいなきゃ駄目だった。」

そう言いあっていると、先輩騎士から言われる。

「お前ら!よくやったなぁ!」
「そうだぜ!お前らいなかったら全滅だった」
「そうだ!もっと恥じろ。後輩に助けられて」
「お前もだろ‼」

ヒドラを倒した後の全員はボロボロだったが、その場の雰囲気はとても良いものだった。負傷し下がっていた騎士までもやってきて騒ぎ出す。

「おい!増援が来たぞ!」
「やっとかよ…。遅すぎるっての…」

騎士の人が言うように馬に乗って駆けてきている。
その先頭にアレフガートさんが鬼気迫る顔で駆けてくるのが見えた。あんなに切羽詰まった顔をみたことがなくてなんだか笑ってしまいそうになった。
しかしそのまま彼の方へ足を踏むだそうとしたその時、僕は身体に異変を感じた。

身体が動かない、息が苦しい。

「…?…はっ……う…」
「シヅル…?」
「まさかっ」

僕の様子に気付いたリカーフが僕の名前を呼ぶ。そして、何かに気付いたらしい騎士の一人が声を上げた。

「ヒドラの血液の影響か…⁉」
「なっ…!ヒドラの血には確かに多少の毒がありますが体内に大量に接種をしなければ…。っシヅル!もしかして怪我して、」

言われて初めて気が付いた。あぁあの時か。リカーフを最初の攻撃から守った時。
少しヒドラとあたったなと思ったけど、ちょうど脇下、広背筋のあたりが裂けている。
急なことで判断が遅れたんだ。それにしても怪我してることに気付かないなんてアホだなぁ、僕。

毒が回ってきたのか、倒れそうになった僕をリカーフが支える。

「シヅル‼」

そこに怒涛の勢いで割り込んできたアレフガートさんが僕をリカーフから奪う。僕はその腕に向かって崩れ落ちていまった。

「シヅル!どうした、シヅル!なぜ、どうして…!シヅル…!」
「アレフ…ガ、トさん…。」

彼が僕を痛いくらい抱き寄せ、僕の名前を繰り返し叫ぶ。
彼に抱きしめられるといつもならドキドキして心臓がうるさくなるのに、今日はなんだか嬉しいの気持ちが沢山出てきて、抱きしめ返したくなった。

「ッぼさっとするな!早く解毒薬を!他の者は負傷者の治療しろ!重症者はほかにいないなっ!」

レナードさんらしき人が叫んでいる。それに従って皆動き出す。
彼は僕を離すことなく、いつもの冷静な無表情さなんてなく今にも泣きだしそうな顔をしていた。このまま放っておけば何もかも滅茶苦茶にしてしまいそうな、狂気さを交えた悲痛な表情。
抱きしめてあげたいけれど腕が上がらない。身体が動かない。

「アレフガート!あなたは馬鹿ですか⁉早くシヅル君を離してください!」

レナードさんが言っても彼はおかしくなったように僕に小さな子供のように縋り付いて離さない。
彼は誰かが持ってきてくれたのであろう解毒薬さえも威嚇を周りに飛ばして受け取らない。

「団長!解毒を、お早く!」

スカルゴさんかな。怪我をしているだろうに必死の表情で彼に何かを言いながら、僕を彼から引き離そうとして弾き飛ばされた。
大丈夫かな…。
そんなことを思っているうちに毒は僕の身体をめぐる。
あぁこれ、駄目かも。
視界がぼやけてきた。手にも足にも力が入らない。もうほとんど耳も聞こえない。

「シヅル、シヅル、シヅル…。俺の、最愛…」

意識がどこかに消えてしまいそうになったその時、この切迫した雰囲気にはおよそ似ても似つかぬ、眩しくて柔らかい雰囲気を感じ、もう一度目を開けた。
そこには、僕をじっと見つめる何かがいた。

突然あらわれたその生物は馬のような体に大きな純白の翼が生えていて、藤色の長いフワフワとした毛が首のあたりを波打っていた。そして僕を見つめる虹のような不思議な色合いの澄んだ瞳に、額にある凛々しく白い一本の角。
これはもしかして…。

「テ、カン……?」
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