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サヴァリッシュ王国
閑話6 ???side
しおりを挟む僕は可愛い。
それも超、可愛いのだ。
昔から周りから向けられる感情は好意しかなかった。僕が嫌だと言えばそれはなくなる。少し俯くとすぐに声がかけられる。
最初のころはなんでだろうと思っていたけど、すぐに分かった。
僕が魅力的だからだ。パッチリの二重の茶色みがある瞳にそれを覆う長い繊細そうな睫毛。笑うと笑窪ができて思わず触りたくなる真っ白の頬。それにサラサラの色素の薄い髪に、どこもかしこも白く健康的で、だけど儚さを与えるであろう身体。
鏡を見るたびに思う。可愛い、と。
そんな僕の欠点はあの不細工な兄だけだった。
仕事ができていつまでも若々しいパパに、僕に優しくて勉強も運動もできる頼れるお兄ちゃん、病院に入院しているからあまり会わないが美しいママ。それなのにあいつは、あいつだけは違った。
僕の兄のはずなのに醜いのだ。それに僕に厳しい。最初は僕が可愛すぎて嫉妬しているのかと思ったが違った。
僕に馬鹿まじめに言っているだけだった。むかついたが所詮僕のために用意された玩具だ。少し放っておいた。
それなのに、小さなころから僕に注意ばかりして、その癖勉強だけはできる。最初は許してやっていたが勉強ばかりして正論らしいことを言うからすぐにやめた。もう僕のいいように使うことにしたのだ。
まずあいつの居場所を奪った。小さなころからかわいかった僕は泣いたら皆すぐ助けてくれた。パパもママも隼人お兄ちゃんもじいじもばあばも、あいつの友達も、親しい人全部を、奪った。
あいつと話しているときに、人が寄ってきたときに「志弦お兄ちゃんがぁ……」といえばもう一発だ。
あいつがそれに驚いて怒って悪いのは自分じゃないと反抗している様子は面白かった。そしてそれを受け入れてもらえなかったときにする唇をかんでうつむく動作や悔し気な、悲し気な表情。
不細工がそれをすると気持ち悪いとは感じるものの最高に気持ちよかった。
僕のためになるのだから結果オーライなはずだ。その時の快感は一生忘れられない。
これは選ばれたもののみが持つ容姿の特権だ。つまり僕が味わうべき気持ち。
そうやってあいつを“悪者”として作り上げた。そうすれば僕の可愛さも、皆から向けられる“愛おしい”の感情は増えた。
最初はあいつをかばったりするやつはいたけど、最後には僕の可愛さに負ける。ママも最初あいつをかばってたりしてたけど、病気になってからはあまりあいつのことは言わなくなった。どんなイケメンでも、美女でも、今や僕がほほ笑むだけで大体皆イチコロだ。
もちろん僕の可愛さに。尊さに。
あいつは勉強ができなきゃ将来困るなんて言っていたけど僕には関係ない。
勉強ができなくてもクラスのやつらは僕が話しかけただけで馬鹿みたいに親切に教えて来るし。この前のテストじゃあ数学のハゲ親父が僕の体をジロジロと見ながら交換条件を出してきた。まあつまり僕の体を代償にテスト問題を事前に教えてやるよってやつ。
ふざけんなよ。こんな可愛い僕のことが欲しくなるのはわかるけどあんたなんかにやるわけねぇだろ。
気持ち悪い。消えろよ、ハゲ。
こちとら勉強できなくても生きてけるんだっつうの。
養ってくれそうなカモなんて外を10秒歩いただけで10人は見つかるっての。
だけど最近あいつが消えた。
いや、消えたは違うか。可愛い僕が願ったからいなくなったんだ。
神様にまで愛される僕ってすごい。かわいいって最高。
もともと僕が中学生になったころにはもう家事ロボットみたいなもんだったけど、それさえもしなくなって、家が回らなくなった。そのせいで少しバタバタしているがもうすぐでハウスキーパーを雇うらしいから平気だ。
そうこうしているうちに僕のイージーライフは進んでいく、はずだった。
異変が起きた。
パパが、隼人お兄ちゃんが、おかしい。あまり僕に笑わなくなった。
話しかけても生返事ばかり。それにあいつの行方不明届が出された。誰だよ出したの。意味ないでしょ。
そんないなくなった醜悪なやつよりも今目の前で可愛いを更新してる僕のほうが一億倍大事でしょ。
家族だけじゃない。学校のやつらも最近おかしい。僕が話しかけてもあまり良い返事をしない。なんだよ、可愛い僕がせっかくはなしかけてやったのに。
さすがに気になって調べてみると、どうやらあいつが行方不明であることが噂になっているらしい。
なんだ、そんなことか。
あいつは僕と同じ学校の習慣一貫校の高校だから皆があいつのことを知ってても不思議じゃない。
でもおかしいな、僕が中学にあがったころからあいつに飽きたから干渉なんてあまりしてなかったのにな。思っていた以上に僕があいつにいじめられてたことが伝わってたってことかな。まっいっか。
そのうちすぐに収まるだろう。あいつなんてその程度の存在だから。
あ~あ。そのせいで最近はつまらない。
何なのあいつ。いなくなっても僕を煩わせるとか意味わかんない。
さらにお兄ちゃんとかこの前夜ベッドであいつの名前をつぶやいてたし。なんなのもう。
僕を困らせるなよ。
ほんと屑。どうせなら今までいた記録とともに消え去ってほしかった。
そうすれば僕はもっとハッピーだったのにさ。
―――
誰sideなのか、分かってくださると嬉しいです☆
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