駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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サヴァリッシュ王国

月の下

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馬に乗り王都を目指す。彼の馬に横乗りに乗せられ、彼は手綱を握っている。
彼は無言のままだ。先ほどまでのシリル様との会話が気になったのもあり思い切って声をかけてみる。

「アレフガートさん、さっきは何を話していたんですか?」

僕は彼の顔を見上げる。月明りに照らされた彼の横顔は思わず息をのむほど美しく、幻想的なものを感じさせた。

「…俺の覚悟の話だ。」

覚悟…?何に対するものだ。
僕がそう悩むような顔をしたのが分かったのか、彼は僕の頭をふわりと撫でた。

「シヅルは気にしなくていい。」

まだ気になるが彼が気にしなくていいといったのだ。言われた通りにする。

「だが、正直言ってシヅルが精霊達と交流があったことに驚いた。」
「…いけませんでしたか?」

もしかして禁忌とされることだったのだろうか。
精霊と話すのってもしかしてまずい?

「そんなことはない。ただ、精霊はもう人前には姿を現さないものだと思っていたんだ。」
「どういうことですか?」

そういえば精霊についての本とか、あんまり見ないな。というか、王都についてからあんまり見てない…気がする。
姿を見せないのは精霊王だけかと思っていた。王都にいる精霊がただ少ないだけだと思い、あまり気にしないでいた、が。

「まさか…」
「シヅルは聡い子だな。そう、精霊は姿を消した。おそらく民の多くは精霊の存在すら幻のものであると思っているだろう。俺は偶然公爵家に生まれたから、精霊が人間のせいで逃げてしまったことを知っているがな。」

精霊までも姿を見せないのか…⁉一体人間たちは何をしてしまったのだろう。
精霊は、シリル様は、今までどんな思いで生きてきたのだろうか。

「そうだ。シヅル、精霊たちや精霊王にあったことを誰かに言ったか?」
「いいえ。誰にも。」
「そうか。ならばこれからも誰にも言うな。何かあれば俺に伝えろ。」

「えっ!王様とかへの報告はしなくていいのですか?」
「あぁ。無駄な諍いの元になるからな。それにシヅルもそんなこと望んでいないだろう?」

良かった。シリル様や精霊たちもきっと他の精霊王様たちも今更人間たちに探されるのは嫌だろうから。

「ありがとうございます。」
「いや。感謝されることではない。」

変なところで律儀な目の前の彼を見る。冷静な判断を下してくれたことがうれしい。

話のタネが尽きてしまったと思う僕に彼は話題を変えて話しかけてくれる。

「今日は楽しかったか?」
「はい。そのっすみません。アレフガートさんは僕のせいで仕事が溜まってしまっていたのに、僕は私利私欲のためにシリル様に会いに行ってしまいました。」

「シヅル、謝ってほしいわけじゃない。確かに俺が知らない奴に会うために危険な場所に行ったのは腸が煮え返りそうな思いになったが、シヅルが楽しめたのなら俺もうれしい。まあ楽しめた原因が俺でないことを不満に思うが。」
「なっ…!」

僕に対する独占欲のようなものを感じ、思わず顔が火照る。
というかここまでストレートに好意をむけられて、赤面しないものはいないだろう。

「それにそれが私利私欲というのならば、屋敷に君を囲い、働く場でさえも干渉している事は私利私欲に収まりきらない。」

驚きと羞恥心で固まる僕をみて、彼は片頬を上げるようにして微笑んだ。
悪役のような騎士のような男らしい笑みにますます固まってしまう。

「俺は正直言ってシヅルにあまり外に行ってほしくない。」
「それは…」
「分かっている。自分勝手な願いだと分かっている。しかし、この前も言っただろう。可愛いシヅルが俺以外のやつにみられるのは正直言って耐えられない。」

かわいい…⁉何を言ってるんだ?彼は。
この前の謁見の帰りも思ったが、いくら番に対する態度としても嫌われるのが嫌で顔も見せないかわいくない相手に「かわいい」という人がいるか…?
しかし彼が嘘を言っているように思えなくて、胸がときめく。

「それと、俺は決めた。シヅルには直球に好意を伝えると。」

「かわいいな。一度に多くいいすぎたか?だがなもう回りくどいことをするのはやめたんだ。だから、覚悟しろよ?」

正直言ってうれしい。自分が好意を寄せている相手から良くしてもらえるのだから。もしかして本気なのかもしれない。だとしたらとても失礼であろうことを思ってしまう。
そんなことをしてくれなくても僕は番という役目から逃げないというのに、と。


―――


シヅルは何を言っても信じてくれないだろう。
俺や周りが言う言葉を信用していない。いや、信用していないは言い過ぎか。
ただ人からの好意を信じることができないといったところか。
だが幸い反応は悪くない。俺が直接口に出して愛を伝えることで、確実に俺に対する赤面度は上がっている。

その事実に口角を上げたアレフガートであった。
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