駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

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サヴァリッシュ王国

シリル様の誕生日1

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その後も黒曜騎士団の人たちとの訓練は続いた。
そして今日は待ちに待った休暇の日だ。早朝にシリル様が迎えに来てくださる手筈なので、いつもよりはやめに起き、身支度を済ませる。
それにしてもこの2週間は濃かった。

ほとんどアレフガートさんと一緒にいた気がする。
食事の体制はなぜか初日と変わらず膝の上で食べさせられるし、どこかに行こうとしたり備品を運ぶ手伝いをしようと思い、その場を離れただけで連れ戻される。

本当に好かれているのかもしれないと思ってしまう。
僕は利用価値のある番であるだけなのに。


嫌なことを思うばかりではなかった。
武術のほうも上達したのだ。前々から足りないと思っていたのだ。
風魔法で気配が察知できるのはいいが、敵からも自分の身を隠さなければならない。
そうでなければ自分が気づいた瞬間に敵を潰すしか道がなくなる。
その解決策として、自分の気配を消すことにしたのだ。それも常に。


そして今日はアレフガートさんが昨日の夜から家にいないのだ。
どうやら二週間も僕に付いていたのはさすがにまずかったらしい。
処理が必要な書類がたまりすぎて、黒曜騎士団の留守を守っていた副団長であるレナードさんがまさに般若のような顔でアレフガートさんをひきづっていった。

あの量では今日の夜に帰れるかもわからないくらいだろう。
大変なんだろうが、休暇をゆっくり過ごすには好都合だと思ってしまう。


「よしっこんなもんかな」

準備を終え、ベッドのサイドテーブルにジェームスさんへのメモ書きを残しておく。
軽く外に出ると書いた旨である。きっと伝わるだろう。
そこでシリル様がゆるやかな風と共に僕の前に現れる。

『やあ、シヅル。おはよう』
『おはようございます。シリル様。今日はよろしくお願いします。』

そうやって僕が頭を下げるとすぐに抱えられる。

『ふふっシヅルはいつでも可愛いね。さすが僕の愛し子。』
『か、かわいいなんて…。そんなことないです!』

つい、言い返す。

『そういう控えめなところ、僕は好きだよ。さっ行こうか』

するりとシリル様の口からでる言葉に口をもごつかせてしまう。

そうこうしているうちにあっという間に僕の家に着く。
あんなに高く飛んだのは初めてだったけれど、まるで鳥になったようで心地よかった。
無事到着すると、シリル様はすぐに精霊に呼ばれ、僕に謝りながら去っていった。

しばらく放っておいてしまった家の掃除をする。といってもシリル様や精霊たちのおかげで汚いところなど一つも見つからない。
この落ち着く空間にずっといるのもいいが、なんだか精霊たちが窓をたたいているのを見つける。それに待ちきれなかったのか部屋の中で何匹かがふわふわと漂いながら、僕のくせ毛を引っ張っている。

一体何だろう?
もしかしてこの前シリル様がおっしゃっていた精霊たちが話したいことか?

とりあえず身振り手振りで一生懸命説明してくれている精霊たちを見る。
なんとなく伝わる。
なんて不思議なんだろう。精霊たちとは話せないけれど、考えていることがわかる。

『え?シリル様の誕生日…?』

わかった時には思わず驚き、伝わらないと分かっていても、精霊たちに向かって念話をしてしまった。
精霊たちが言うには今日はシリル様が神様によって生み出された日なんだそう。
もう何千年、いや何万年かもしれないが生きていて、精霊が人々のそばをはなれてから誕生祭もなくなっていったため本人ももう忘れているかもしれないとのことだった。

『それで、僕は何をすればいい?その様子だとお祝いをするんでしょ?』

そういうと精霊たちは僕の周りを楽しそうにくるくると舞う。
どうやら正解らしい。

『手伝ってもいいかな?』

精霊たちが木々や草木の上をうれしげに飛び回る。いいよってことか。

さて、どうするか?
シリル様はきっとなんでも見てきたし、なんでも持っているだろう。
欲しいものってあるのかな?無欲そうだけど。いやっちょっと待て、僕。

欲しいものを知っても用意できるはずがないだろ!この僕に!
ならば、僕にできること。

すぐに思いつき、精霊たちと時折話し合いながら作る。

ようやく完成したが、もう夕方になっている。
どうやら会場は広いお花畑のようだ。切り株もいくつかあって僕はそこに座るよう、精霊たちに言われる。

あとはシリル様を待つだけの状態にセッティングをする。
どうやら最初に僕を連れてきた後にシリル様を連れて行った精霊が時間稼ぎをして切れていたようだ。

どうやって伝達しているのかはさっぱりわからないが、精霊同士で会話をしたのだろう、シリル様とその精霊が一緒に現れる。

『みんな…、シヅル……』
『お誕生日、おめでとうございます。』

精霊たちがシリル様の周りを飛び回り、花を散らせたり、光の精霊なのか薄く光っている子もいた。それぞれが持っている力でシリル様を祝う。
僕も風魔法を使う身として精霊たちが散らせていく花びらをふんわりと舞い上がらせたりする。
そして先ほど一生懸命思い出し作った花冠を頭にふわりとかぶせる。
シリル様は動かない。

『その…シリル様?』

僕がそう声をかけると突然抱き着いてきて、肩に顔をうずめてきた。
それを見て、うれしいのだとわかる。精霊たちも大成功だというように飛び回っている。

『シヅル、みんな、ありがとう。こんなに、嬉しいのは、久方ぶりだ…。』

なごやかな時間が流れた一時だった。
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