39 / 85
サヴァリッシュ王国
シリル様の誕生日1
しおりを挟む
その後も黒曜騎士団の人たちとの訓練は続いた。
そして今日は待ちに待った休暇の日だ。早朝にシリル様が迎えに来てくださる手筈なので、いつもよりはやめに起き、身支度を済ませる。
それにしてもこの2週間は濃かった。
ほとんどアレフガートさんと一緒にいた気がする。
食事の体制はなぜか初日と変わらず膝の上で食べさせられるし、どこかに行こうとしたり備品を運ぶ手伝いをしようと思い、その場を離れただけで連れ戻される。
本当に好かれているのかもしれないと思ってしまう。
僕は利用価値のある番であるだけなのに。
嫌なことを思うばかりではなかった。
武術のほうも上達したのだ。前々から足りないと思っていたのだ。
風魔法で気配が察知できるのはいいが、敵からも自分の身を隠さなければならない。
そうでなければ自分が気づいた瞬間に敵を潰すしか道がなくなる。
その解決策として、自分の気配を消すことにしたのだ。それも常に。
そして今日はアレフガートさんが昨日の夜から家にいないのだ。
どうやら二週間も僕に付いていたのはさすがにまずかったらしい。
処理が必要な書類がたまりすぎて、黒曜騎士団の留守を守っていた副団長であるレナードさんがまさに般若のような顔でアレフガートさんをひきづっていった。
あの量では今日の夜に帰れるかもわからないくらいだろう。
大変なんだろうが、休暇をゆっくり過ごすには好都合だと思ってしまう。
「よしっこんなもんかな」
準備を終え、ベッドのサイドテーブルにジェームスさんへのメモ書きを残しておく。
軽く外に出ると書いた旨である。きっと伝わるだろう。
そこでシリル様がゆるやかな風と共に僕の前に現れる。
『やあ、シヅル。おはよう』
『おはようございます。シリル様。今日はよろしくお願いします。』
そうやって僕が頭を下げるとすぐに抱えられる。
『ふふっシヅルはいつでも可愛いね。さすが僕の愛し子。』
『か、かわいいなんて…。そんなことないです!』
つい、言い返す。
『そういう控えめなところ、僕は好きだよ。さっ行こうか』
するりとシリル様の口からでる言葉に口をもごつかせてしまう。
そうこうしているうちにあっという間に僕の家に着く。
あんなに高く飛んだのは初めてだったけれど、まるで鳥になったようで心地よかった。
無事到着すると、シリル様はすぐに精霊に呼ばれ、僕に謝りながら去っていった。
しばらく放っておいてしまった家の掃除をする。といってもシリル様や精霊たちのおかげで汚いところなど一つも見つからない。
この落ち着く空間にずっといるのもいいが、なんだか精霊たちが窓をたたいているのを見つける。それに待ちきれなかったのか部屋の中で何匹かがふわふわと漂いながら、僕のくせ毛を引っ張っている。
一体何だろう?
もしかしてこの前シリル様がおっしゃっていた精霊たちが話したいことか?
とりあえず身振り手振りで一生懸命説明してくれている精霊たちを見る。
なんとなく伝わる。
なんて不思議なんだろう。精霊たちとは話せないけれど、考えていることがわかる。
『え?シリル様の誕生日…?』
わかった時には思わず驚き、伝わらないと分かっていても、精霊たちに向かって念話をしてしまった。
精霊たちが言うには今日はシリル様が神様によって生み出された日なんだそう。
もう何千年、いや何万年かもしれないが生きていて、精霊が人々のそばをはなれてから誕生祭もなくなっていったため本人ももう忘れているかもしれないとのことだった。
『それで、僕は何をすればいい?その様子だとお祝いをするんでしょ?』
そういうと精霊たちは僕の周りを楽しそうにくるくると舞う。
どうやら正解らしい。
『手伝ってもいいかな?』
精霊たちが木々や草木の上をうれしげに飛び回る。いいよってことか。
さて、どうするか?
シリル様はきっとなんでも見てきたし、なんでも持っているだろう。
欲しいものってあるのかな?無欲そうだけど。いやっちょっと待て、僕。
欲しいものを知っても用意できるはずがないだろ!この僕に!
ならば、僕にできること。
すぐに思いつき、精霊たちと時折話し合いながら作る。
ようやく完成したが、もう夕方になっている。
どうやら会場は広いお花畑のようだ。切り株もいくつかあって僕はそこに座るよう、精霊たちに言われる。
あとはシリル様を待つだけの状態にセッティングをする。
どうやら最初に僕を連れてきた後にシリル様を連れて行った精霊が時間稼ぎをして切れていたようだ。
どうやって伝達しているのかはさっぱりわからないが、精霊同士で会話をしたのだろう、シリル様とその精霊が一緒に現れる。
『みんな…、シヅル……』
『お誕生日、おめでとうございます。』
精霊たちがシリル様の周りを飛び回り、花を散らせたり、光の精霊なのか薄く光っている子もいた。それぞれが持っている力でシリル様を祝う。
僕も風魔法を使う身として精霊たちが散らせていく花びらをふんわりと舞い上がらせたりする。
そして先ほど一生懸命思い出し作った花冠を頭にふわりとかぶせる。
シリル様は動かない。
『その…シリル様?』
僕がそう声をかけると突然抱き着いてきて、肩に顔をうずめてきた。
それを見て、うれしいのだとわかる。精霊たちも大成功だというように飛び回っている。
『シヅル、みんな、ありがとう。こんなに、嬉しいのは、久方ぶりだ…。』
なごやかな時間が流れた一時だった。
そして今日は待ちに待った休暇の日だ。早朝にシリル様が迎えに来てくださる手筈なので、いつもよりはやめに起き、身支度を済ませる。
それにしてもこの2週間は濃かった。
ほとんどアレフガートさんと一緒にいた気がする。
食事の体制はなぜか初日と変わらず膝の上で食べさせられるし、どこかに行こうとしたり備品を運ぶ手伝いをしようと思い、その場を離れただけで連れ戻される。
本当に好かれているのかもしれないと思ってしまう。
僕は利用価値のある番であるだけなのに。
嫌なことを思うばかりではなかった。
武術のほうも上達したのだ。前々から足りないと思っていたのだ。
風魔法で気配が察知できるのはいいが、敵からも自分の身を隠さなければならない。
そうでなければ自分が気づいた瞬間に敵を潰すしか道がなくなる。
その解決策として、自分の気配を消すことにしたのだ。それも常に。
そして今日はアレフガートさんが昨日の夜から家にいないのだ。
どうやら二週間も僕に付いていたのはさすがにまずかったらしい。
処理が必要な書類がたまりすぎて、黒曜騎士団の留守を守っていた副団長であるレナードさんがまさに般若のような顔でアレフガートさんをひきづっていった。
あの量では今日の夜に帰れるかもわからないくらいだろう。
大変なんだろうが、休暇をゆっくり過ごすには好都合だと思ってしまう。
「よしっこんなもんかな」
準備を終え、ベッドのサイドテーブルにジェームスさんへのメモ書きを残しておく。
軽く外に出ると書いた旨である。きっと伝わるだろう。
そこでシリル様がゆるやかな風と共に僕の前に現れる。
『やあ、シヅル。おはよう』
『おはようございます。シリル様。今日はよろしくお願いします。』
そうやって僕が頭を下げるとすぐに抱えられる。
『ふふっシヅルはいつでも可愛いね。さすが僕の愛し子。』
『か、かわいいなんて…。そんなことないです!』
つい、言い返す。
『そういう控えめなところ、僕は好きだよ。さっ行こうか』
するりとシリル様の口からでる言葉に口をもごつかせてしまう。
そうこうしているうちにあっという間に僕の家に着く。
あんなに高く飛んだのは初めてだったけれど、まるで鳥になったようで心地よかった。
無事到着すると、シリル様はすぐに精霊に呼ばれ、僕に謝りながら去っていった。
しばらく放っておいてしまった家の掃除をする。といってもシリル様や精霊たちのおかげで汚いところなど一つも見つからない。
この落ち着く空間にずっといるのもいいが、なんだか精霊たちが窓をたたいているのを見つける。それに待ちきれなかったのか部屋の中で何匹かがふわふわと漂いながら、僕のくせ毛を引っ張っている。
一体何だろう?
もしかしてこの前シリル様がおっしゃっていた精霊たちが話したいことか?
とりあえず身振り手振りで一生懸命説明してくれている精霊たちを見る。
なんとなく伝わる。
なんて不思議なんだろう。精霊たちとは話せないけれど、考えていることがわかる。
『え?シリル様の誕生日…?』
わかった時には思わず驚き、伝わらないと分かっていても、精霊たちに向かって念話をしてしまった。
精霊たちが言うには今日はシリル様が神様によって生み出された日なんだそう。
もう何千年、いや何万年かもしれないが生きていて、精霊が人々のそばをはなれてから誕生祭もなくなっていったため本人ももう忘れているかもしれないとのことだった。
『それで、僕は何をすればいい?その様子だとお祝いをするんでしょ?』
そういうと精霊たちは僕の周りを楽しそうにくるくると舞う。
どうやら正解らしい。
『手伝ってもいいかな?』
精霊たちが木々や草木の上をうれしげに飛び回る。いいよってことか。
さて、どうするか?
シリル様はきっとなんでも見てきたし、なんでも持っているだろう。
欲しいものってあるのかな?無欲そうだけど。いやっちょっと待て、僕。
欲しいものを知っても用意できるはずがないだろ!この僕に!
ならば、僕にできること。
すぐに思いつき、精霊たちと時折話し合いながら作る。
ようやく完成したが、もう夕方になっている。
どうやら会場は広いお花畑のようだ。切り株もいくつかあって僕はそこに座るよう、精霊たちに言われる。
あとはシリル様を待つだけの状態にセッティングをする。
どうやら最初に僕を連れてきた後にシリル様を連れて行った精霊が時間稼ぎをして切れていたようだ。
どうやって伝達しているのかはさっぱりわからないが、精霊同士で会話をしたのだろう、シリル様とその精霊が一緒に現れる。
『みんな…、シヅル……』
『お誕生日、おめでとうございます。』
精霊たちがシリル様の周りを飛び回り、花を散らせたり、光の精霊なのか薄く光っている子もいた。それぞれが持っている力でシリル様を祝う。
僕も風魔法を使う身として精霊たちが散らせていく花びらをふんわりと舞い上がらせたりする。
そして先ほど一生懸命思い出し作った花冠を頭にふわりとかぶせる。
シリル様は動かない。
『その…シリル様?』
僕がそう声をかけると突然抱き着いてきて、肩に顔をうずめてきた。
それを見て、うれしいのだとわかる。精霊たちも大成功だというように飛び回っている。
『シヅル、みんな、ありがとう。こんなに、嬉しいのは、久方ぶりだ…。』
なごやかな時間が流れた一時だった。
76
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる