駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

文字の大きさ
上 下
21 / 85
サヴァリッシュ王国

激怒と悪夢

しおりを挟む
扉を開け、廊下を歩き玄関へ向かおうとする。
ーその時、後ろから大きな爆破音がした。
思わず振り返ると、今さっき僕が出てきた扉が向かいの壁へ吹き飛ばされ煙が立っている。その中に黒い大きな人影が見える。

まさか…アレフガートさん?
驚き足がすくむ僕に向かって彼はゆらりと歩いてくる。

彼のエメラルド色の瞳が僕を睨み威圧する。思わず後ずさろうとするが足がぴくりとも動かない。
いや、違う。動けないんだ。
何が彼をこんなに怒らせてしまった?

「どこに…行く気だ? シヅル」

静かだが鋭い、低く背筋が凍るような声が響き渡る。怒りを孕んだ声で僕に問う。試験結果を待つために街の宿に泊まる気だったけど今はとてもじゃないけど言えない。

「何が不満だった?息苦しくならないように自由を与えたつもりだったが加減を間違えたか?くそっ、年端も行かぬ子どもに手は出すまいと思っていたが……もう仕方ない」

彼が何を言っているのか理解できない。いつも怖い表情をしていても纏う雰囲気だけは穏やかな彼はもういなく、ただ恐ろしさだけを僕に感じさせる。だんだんと近づいてくる彼に必死に話す。

「ごめ…なさ…やめて……」
「やめる?何を?」

彼が僕に手を伸ばしてくる。

とてつもない恐怖にかられたその瞬間、僕の意識は暗転した。



 ―――

暗い。痛い。
ここはどこ?
あぁ自分の部屋だ。体中が痛い。今日は何をして叱られたんだっけ?
戸籍上では家族なのだろうが、僕は家族と違って醜いから、当然の報いか…。

幼いころ、僕には堅実な父と優しい母、僕と弟をかわいがってくれる頼れる兄、そして天使のような弟がいた。楽しかった。いつまでもその平穏が続くと思っていた。

弟は僕を嫌っている。最初はちょっとした悪戯から始まった。弟が僕のおもちゃを奪い壊して、僕が怒ると弟が急に泣く。周りの人は家族でさえ僕を叱った。それでもそのときはまだよかった。僕も弟を少なからず可愛いと思っていたからだ。しかし、それからもずっと弟が何かをやらかすと僕は何もしていないというのに僕のせいにされるのだ。
それはだんだんとヒートアップしてった。弟がなんでも僕のせいにするのは止まらず、周りの人も最初は僕のことをかばう人がいたが結局は全員可愛い弟を信じた。
唯一僕のことを庇ってくれていた母は病気で倒れ、病院での入院生活をすることになった。その日から家に僕の居場所はなくなった。次第に家事はすべて僕がやるようになり、弟のなんでも僕のせいにしたがる癖はますます過激になった。

ある日僕は弟に言った。なぜ僕を嫌うのかと。
そう聞くと弟は急に腹を抱えて笑い出し、こう言った。

「なんでって、お前が醜いからでしょ?鏡見たことある?パパもママも徹にぃも美しいのに、お前だけ醜い。そんで、僕は可愛い。こうなったら、醜いなりに役立ってもらうしかないでしょ?」
「ハッ…」

気づいていた。気づいていないふりをしていた。
僕は醜いのだ。家族全員サラサラの髪にパッチリ二重の美形だったのに、僕はくるくるの天然パーマに奥二重で美しいとは言えない顔。血が繋がっていないのではと思った。
そのころから前髪を伸ばし、僅かなお小遣いで眼鏡を買い、自らの容姿を隠した。食べれるものが減ったり不摂生をしていたからか体が食べ物を受け付けなくなった。なにかおかしいと思いつつも、ただひたすら家事をこなした。最近ではそれまで面倒くさくなり、家族からはもうまるで役に立たない存在となった。

自室で倒れていて、そろそろやばいかなって時にいつのまにか神様に助けてもらったんだっけ。
びっくりしたなぁ。
それで「もう一回、やり直してみなさい。それで自分が本当に望むことを見つけること…。」っていうことを言われた。


あっ場面が変わった。ここは今の記憶か。
そういえばこの世界では前の世界にいたころのようなことはなかった。
皆僕のことが嫌いなんだろうに僕に親切に接する。前の世界では会うことのなかったそばにいて安心できるひとまで見つかった。
それももうじき終わる。いまに全員に怒鳴られて捨てられるだろう。
そうしたらどうしよう。
神様からもらった命だから、困っている人たちを助けてまわるのもいいかな、それを僕の命が尽きるまで永遠と
こなす。それか潔く命を絶とう。誰にも迷惑が掛からない形で。


…だけどどこか引っかかる。
そう考えると、暗い暗い闇の底に突き落とされていくような感覚になる。最近は、この世界に来てからは、この感覚がなかったのに。
僕は何なんだろう。誰の役にも立てず、誰にも必要とされずに死んでいくのか。
もう一度神様が言った言葉を思い出す。


「愛されたい」


どうしよう。
僕には不相応の考えが浮かんできた。必死に払う。違う、高望みはしない。しない。弟も言っていたじゃないか、僕は醜いと。

だけど涙が出て来る。止まらない、止まらない。
怖い、絶対無理だ。こんなことこれまでなかった、そんなことなかったじゃないか。
あれ…そういえば久しぶりに怖いだとか思った。

この世界に来てから会った人々を思い浮かべる。みんなやさしい。思えば、不快だという顔を向けられたことがないな。勝手に僕が嫌われていると思い込んでいただけ?
そうだ、嫌われているのかはまだわからないじゃないか。
思い切って、少しでいいから頑張ってみるか?愛される努力とか。
そう思ってみると、何か憑き物がとれた感じがした。



あぁあったかい。

そして、まるで真綿につつまれるような心地いい感覚で目が覚めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

公爵家の次男は北の辺境に帰りたい

あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。 8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。 序盤はBL要素薄め。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

処理中です...