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サヴァリッシュ王国
激怒と悪夢
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扉を開け、廊下を歩き玄関へ向かおうとする。
ーその時、後ろから大きな爆破音がした。
思わず振り返ると、今さっき僕が出てきた扉が向かいの壁へ吹き飛ばされ煙が立っている。その中に黒い大きな人影が見える。
まさか…アレフガートさん?
驚き足がすくむ僕に向かって彼はゆらりと歩いてくる。
彼のエメラルド色の瞳が僕を睨み威圧する。思わず後ずさろうとするが足がぴくりとも動かない。
いや、違う。動けないんだ。
何が彼をこんなに怒らせてしまった?
「どこに…行く気だ? シヅル」
静かだが鋭い、低く背筋が凍るような声が響き渡る。怒りを孕んだ声で僕に問う。試験結果を待つために街の宿に泊まる気だったけど今はとてもじゃないけど言えない。
「何が不満だった?息苦しくならないように自由を与えたつもりだったが加減を間違えたか?くそっ、年端も行かぬ子どもに手は出すまいと思っていたが……もう仕方ない」
彼が何を言っているのか理解できない。いつも怖い表情をしていても纏う雰囲気だけは穏やかな彼はもういなく、ただ恐ろしさだけを僕に感じさせる。だんだんと近づいてくる彼に必死に話す。
「ごめ…なさ…やめて……」
「やめる?何を?」
彼が僕に手を伸ばしてくる。
とてつもない恐怖にかられたその瞬間、僕の意識は暗転した。
―――
暗い。痛い。
ここはどこ?
あぁ自分の部屋だ。体中が痛い。今日は何をして叱られたんだっけ?
戸籍上では家族なのだろうが、僕は家族と違って醜いから、当然の報いか…。
幼いころ、僕には堅実な父と優しい母、僕と弟をかわいがってくれる頼れる兄、そして天使のような弟がいた。楽しかった。いつまでもその平穏が続くと思っていた。
弟は僕を嫌っている。最初はちょっとした悪戯から始まった。弟が僕のおもちゃを奪い壊して、僕が怒ると弟が急に泣く。周りの人は家族でさえ僕を叱った。それでもそのときはまだよかった。僕も弟を少なからず可愛いと思っていたからだ。しかし、それからもずっと弟が何かをやらかすと僕は何もしていないというのに僕のせいにされるのだ。
それはだんだんとヒートアップしてった。弟がなんでも僕のせいにするのは止まらず、周りの人も最初は僕のことをかばう人がいたが結局は全員可愛い弟を信じた。
唯一僕のことを庇ってくれていた母は病気で倒れ、病院での入院生活をすることになった。その日から家に僕の居場所はなくなった。次第に家事はすべて僕がやるようになり、弟のなんでも僕のせいにしたがる癖はますます過激になった。
ある日僕は弟に言った。なぜ僕を嫌うのかと。
そう聞くと弟は急に腹を抱えて笑い出し、こう言った。
「なんでって、お前が醜いからでしょ?鏡見たことある?パパもママも徹にぃも美しいのに、お前だけ醜い。そんで、僕は可愛い。こうなったら、醜いなりに役立ってもらうしかないでしょ?」
「ハッ…」
気づいていた。気づいていないふりをしていた。
僕は醜いのだ。家族全員サラサラの髪にパッチリ二重の美形だったのに、僕はくるくるの天然パーマに奥二重で美しいとは言えない顔。血が繋がっていないのではと思った。
そのころから前髪を伸ばし、僅かなお小遣いで眼鏡を買い、自らの容姿を隠した。食べれるものが減ったり不摂生をしていたからか体が食べ物を受け付けなくなった。なにかおかしいと思いつつも、ただひたすら家事をこなした。最近ではそれまで面倒くさくなり、家族からはもうまるで役に立たない存在となった。
自室で倒れていて、そろそろやばいかなって時にいつのまにか神様に助けてもらったんだっけ。
びっくりしたなぁ。
それで「もう一回、やり直してみなさい。それで自分が本当に望むことを見つけること…。」っていうことを言われた。
あっ場面が変わった。ここは今の記憶か。
そういえばこの世界では前の世界にいたころのようなことはなかった。
皆僕のことが嫌いなんだろうに僕に親切に接する。前の世界では会うことのなかったそばにいて安心できるひとまで見つかった。
それももうじき終わる。いまに全員に怒鳴られて捨てられるだろう。
そうしたらどうしよう。
神様からもらった命だから、困っている人たちを助けてまわるのもいいかな、それを僕の命が尽きるまで永遠と
こなす。それか潔く命を絶とう。誰にも迷惑が掛からない形で。
…だけどどこか引っかかる。
そう考えると、暗い暗い闇の底に突き落とされていくような感覚になる。最近は、この世界に来てからは、この感覚がなかったのに。
僕は何なんだろう。誰の役にも立てず、誰にも必要とされずに死んでいくのか。
もう一度神様が言った言葉を思い出す。
「愛されたい」
どうしよう。
僕には不相応の考えが浮かんできた。必死に払う。違う、高望みはしない。しない。弟も言っていたじゃないか、僕は醜いと。
だけど涙が出て来る。止まらない、止まらない。
怖い、絶対無理だ。こんなことこれまでなかった、そんなことなかったじゃないか。
あれ…そういえば久しぶりに怖いだとか思った。
この世界に来てから会った人々を思い浮かべる。みんなやさしい。思えば、不快だという顔を向けられたことがないな。勝手に僕が嫌われていると思い込んでいただけ?
そうだ、嫌われているのかはまだわからないじゃないか。
思い切って、少しでいいから頑張ってみるか?愛される努力とか。
そう思ってみると、何か憑き物がとれた感じがした。
あぁあったかい。
そして、まるで真綿につつまれるような心地いい感覚で目が覚めた。
ーその時、後ろから大きな爆破音がした。
思わず振り返ると、今さっき僕が出てきた扉が向かいの壁へ吹き飛ばされ煙が立っている。その中に黒い大きな人影が見える。
まさか…アレフガートさん?
驚き足がすくむ僕に向かって彼はゆらりと歩いてくる。
彼のエメラルド色の瞳が僕を睨み威圧する。思わず後ずさろうとするが足がぴくりとも動かない。
いや、違う。動けないんだ。
何が彼をこんなに怒らせてしまった?
「どこに…行く気だ? シヅル」
静かだが鋭い、低く背筋が凍るような声が響き渡る。怒りを孕んだ声で僕に問う。試験結果を待つために街の宿に泊まる気だったけど今はとてもじゃないけど言えない。
「何が不満だった?息苦しくならないように自由を与えたつもりだったが加減を間違えたか?くそっ、年端も行かぬ子どもに手は出すまいと思っていたが……もう仕方ない」
彼が何を言っているのか理解できない。いつも怖い表情をしていても纏う雰囲気だけは穏やかな彼はもういなく、ただ恐ろしさだけを僕に感じさせる。だんだんと近づいてくる彼に必死に話す。
「ごめ…なさ…やめて……」
「やめる?何を?」
彼が僕に手を伸ばしてくる。
とてつもない恐怖にかられたその瞬間、僕の意識は暗転した。
―――
暗い。痛い。
ここはどこ?
あぁ自分の部屋だ。体中が痛い。今日は何をして叱られたんだっけ?
戸籍上では家族なのだろうが、僕は家族と違って醜いから、当然の報いか…。
幼いころ、僕には堅実な父と優しい母、僕と弟をかわいがってくれる頼れる兄、そして天使のような弟がいた。楽しかった。いつまでもその平穏が続くと思っていた。
弟は僕を嫌っている。最初はちょっとした悪戯から始まった。弟が僕のおもちゃを奪い壊して、僕が怒ると弟が急に泣く。周りの人は家族でさえ僕を叱った。それでもそのときはまだよかった。僕も弟を少なからず可愛いと思っていたからだ。しかし、それからもずっと弟が何かをやらかすと僕は何もしていないというのに僕のせいにされるのだ。
それはだんだんとヒートアップしてった。弟がなんでも僕のせいにするのは止まらず、周りの人も最初は僕のことをかばう人がいたが結局は全員可愛い弟を信じた。
唯一僕のことを庇ってくれていた母は病気で倒れ、病院での入院生活をすることになった。その日から家に僕の居場所はなくなった。次第に家事はすべて僕がやるようになり、弟のなんでも僕のせいにしたがる癖はますます過激になった。
ある日僕は弟に言った。なぜ僕を嫌うのかと。
そう聞くと弟は急に腹を抱えて笑い出し、こう言った。
「なんでって、お前が醜いからでしょ?鏡見たことある?パパもママも徹にぃも美しいのに、お前だけ醜い。そんで、僕は可愛い。こうなったら、醜いなりに役立ってもらうしかないでしょ?」
「ハッ…」
気づいていた。気づいていないふりをしていた。
僕は醜いのだ。家族全員サラサラの髪にパッチリ二重の美形だったのに、僕はくるくるの天然パーマに奥二重で美しいとは言えない顔。血が繋がっていないのではと思った。
そのころから前髪を伸ばし、僅かなお小遣いで眼鏡を買い、自らの容姿を隠した。食べれるものが減ったり不摂生をしていたからか体が食べ物を受け付けなくなった。なにかおかしいと思いつつも、ただひたすら家事をこなした。最近ではそれまで面倒くさくなり、家族からはもうまるで役に立たない存在となった。
自室で倒れていて、そろそろやばいかなって時にいつのまにか神様に助けてもらったんだっけ。
びっくりしたなぁ。
それで「もう一回、やり直してみなさい。それで自分が本当に望むことを見つけること…。」っていうことを言われた。
あっ場面が変わった。ここは今の記憶か。
そういえばこの世界では前の世界にいたころのようなことはなかった。
皆僕のことが嫌いなんだろうに僕に親切に接する。前の世界では会うことのなかったそばにいて安心できるひとまで見つかった。
それももうじき終わる。いまに全員に怒鳴られて捨てられるだろう。
そうしたらどうしよう。
神様からもらった命だから、困っている人たちを助けてまわるのもいいかな、それを僕の命が尽きるまで永遠と
こなす。それか潔く命を絶とう。誰にも迷惑が掛からない形で。
…だけどどこか引っかかる。
そう考えると、暗い暗い闇の底に突き落とされていくような感覚になる。最近は、この世界に来てからは、この感覚がなかったのに。
僕は何なんだろう。誰の役にも立てず、誰にも必要とされずに死んでいくのか。
もう一度神様が言った言葉を思い出す。
「愛されたい」
どうしよう。
僕には不相応の考えが浮かんできた。必死に払う。違う、高望みはしない。しない。弟も言っていたじゃないか、僕は醜いと。
だけど涙が出て来る。止まらない、止まらない。
怖い、絶対無理だ。こんなことこれまでなかった、そんなことなかったじゃないか。
あれ…そういえば久しぶりに怖いだとか思った。
この世界に来てから会った人々を思い浮かべる。みんなやさしい。思えば、不快だという顔を向けられたことがないな。勝手に僕が嫌われていると思い込んでいただけ?
そうだ、嫌われているのかはまだわからないじゃないか。
思い切って、少しでいいから頑張ってみるか?愛される努力とか。
そう思ってみると、何か憑き物がとれた感じがした。
あぁあったかい。
そして、まるで真綿につつまれるような心地いい感覚で目が覚めた。
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