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橋本さん

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「僕と行動するのは初めてですよね、田川の方はどうでした?大変でしたか?」

「大輝くんの例はたまたま話題が盛り上がってそこから仲良くなれただけなので大変かどうかはまだちょっとわかりません・・」

「そんな焦らなくても大丈夫ですよ、僕らも別に結成して一年も経ってないし、みんなそんなに歳が離れてるわけでもないのでもっと気軽にきてください」


そこでようやく二人の年齢を聞いていないことに気がついた。


「そういえばお二人っておいくつなんですか?」

「あれ、まだ言ってませんでしたっけ?僕が26で田川が24です」


そんな近かったのか、田川さんが宮野さんより年下だったことにも驚いた。

宮野はテンション感で近いかもなと思っていたが、田川さんは常に冷静で動じなかったから、イメージでは人生経験を積んだお姉様かと思っていた。


「そういえば生徒さんの共有をしていませんでしたよね、許可はとってあるので経緯を話しますね」

「わかりました」


今回の依頼者は職場からのハラスメントにより精神を病んだ人だ。
依頼者は病院の中に食事を作る場所があり、そこで働いていたそうだ。だが病院食を作る分調理師のストレスも大きかったようで、聞こえるところでの悪口や水をホースでかけられ続ける、ゴミ置き場に閉じ込められる、熱した油を飛ばされるなどのいじめが横行しており、統率を取っていた栄養士は、今まで辞めた人たちからの訴えでいじめは気づいていたようだが、問題から目を逸らすだけだったという。
さらにここからがひどかった。辞めたいと親に話すとまともに話を聞いていないうちから「そんな奴らほっとけばいい」「その会社辞めたらもう後がないぞ」「そもそもお前の精神力がないのが悪い」などとと2時間以上責められ続け、出勤の道中では手が震え、息も絶え絶えになりながら大粒の涙が流れ、ご飯も食べられず、睡眠は1時間も取れず、みるみるやつれていく娘に対して、うちの宗教をちゃんと信仰していないからそうなる、そうなりたくないなら金を出せという始末。完全に鬱病の症状が出ていてこのままでは社会と親に殺されると感じた依頼者は無理やり家を出たという。


「実際その人の知人に話を聞いてみると、学生時代から何をさせてもある程度高水準を保つことができる上性格も良かったそうで、いい印象を持つ人と嫉妬心から叩こうとする人で二極化していたそうです。そしてその辞めた職場はそれまで入ってきた人が早く1週間、長くて3ヶ月くらいで入った人が辞めるくらい、いわゆるブラック企業だったそうで、職場に一人はいるお局を集めて作った組織のようだったそうです。その病院は精神病専門の病院だったそうですが、精神を癒すための場所にいる職員たちが精神を病ませているって、皮肉な話ですよね。」

「なかなか酷い話ですね・・能力がある人を羨ましく思うのはわかりますがそこまで・・」


今まで本当の自分を隠さないと虐げられる立場だったからわかる、人はなぜか自分と違うものを受け入れられる人が少ない。
全員がそうというわけではないが、個性や価値観、それぞれの強みは、本人にずば抜けた強さがないと受け入れられず、それ以外は夢を語ることすら許されない。


「生きづらい世の中だ・・」

心の声に留めるつもりが声に出ていたようだった。

「僕はそんな世の中を生きやすくしていきたいと思っています。この活動もその一環であり、重要な通過点です。」

その瞬間、悲しそうな顔をした宮野さんに私は何も声をかけることができなかった。


「着きましたよ、一旦今日は聞いててくれれば大丈夫です。」____________
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