180 / 191
第6章 収束する終焉
第179話 仲間
しおりを挟むシャーロットをせめて扉の外へ移動させてからにしなければ巻き添えになってしまう。
クロエを飲み込んだふくらみがまだ残っている。まだ生きているかもしれない。僕は意識を集中し、魔術式を展開する。
襲ってこようとする肉塊を重力魔術で端から動きを封じて潰した。その潰した肉塊の上を僕はシャーロットを担いで懸命に歩く。
一歩踏み出すごとに、激痛が走った。
内臓が痛い。
口の中から血の味がする。
バリバリバリバリッ!!
と雷の音が聞こえてきた。
音のした方を見ると、肉塊のふくらみからクロエがずるりと肉の中から出てきたのが見えた。
彼の身体はそこかしこが咬みちぎられたような痕がある。腹部の傷を押さえながらクロエは僕の方へ歩み寄ってきた。
ゲルダはクロエの電撃で感電しているらしく、そこで再び動きを止めている。
「生きてたんだね」
「ほとんどくたばりかけてる……退くぞ……もう無理だ……」
クロエは僕と共にシャーロットを担ぎ、扉の方へ向かうが、肉塊が行く手を阻んでくる。
あと少しで扉から出られるのに、あと少しが物凄く遠い。
「ちっ……意地でも逃がす気はねぇようだな」
煙が立ち上っていたゲルダの肉塊は再びクロエの足を弱々しく掴んだ。
クロエがそれを魔術で焼き切ろうとするが、もうクロエには力は残っておらず、魔術は発動しなかった。
「はぁ……もう終わりだ。ノエル、こっち向け……」
最後を覚悟したのか、クロエは僕の顔を手で触れた。
そして僕に顔を近づけてくる。
死ぬ間際、クロエは僕に口づけをしようとしているようだった。
キスをするには互いに最悪の状態だ。
僕は口の中が血まみれだし、クロエは肉片の粘液でそこら中ベタベタしている。
――こんなときに……いや、こんなときだからこそか……
僕は抵抗する力もなく、目を閉じようとした。
その瞬間、僕の頭を冷たい手で掴まれ、驚いた僕は閉じかけた目を開ける。
そのまま僕は勢いよくクロエから引きはがされた。
倒れ掛かった傷だらけの僕の身体を彼は抱える。突然のことで僕は何も言えないままだった。
そこには相変わらず険しい表情をした金髪の吸血鬼がいた。
「ガーネット……」
「この馬鹿者が……文句は後でたっぷりきいてもらうからな」
扉が勢いよく開き、魔族たちが入ってきた。
僕らの血まみれの姿を見てリゾンも険しい表情をする。僕に声をかけるよりもまずゲルダの姿を正確にとらえ、攻撃の準備に入った。
「(距離……とる……攻撃!!)」
魔族たちは得体のしれない肉塊に臆することなく魔術を放ち、近くの肉塊は剣で切り裂き、弓矢などの飛び道具でゲルダに対し攻撃をした。
大きな網をゲルダに放ち、地面に網を固定する。
網がぴったりゲルダの肉塊へと食い込んでいって動きを奪った。しなやかな金属のような網で、いくつもの銛のような返しの刃がついていた。
それを何本もある腕で外そうともがくが、もがけばもがくほど肉塊へ網が奥へと食い込んでいき、血がにじんでいる。
「(炎……放て!)」
龍族が炎の魔術式を発動すると、再びゲルダは業火に焼かれた。激しい熱気が部屋中を焼き尽くすが、水の魔術で魔族たちはその熱を回避した。
「死にぞこないが。まだ戦えるか?」
ガーネットに支えられていた僕は、そのリゾンの言葉で自力で立ち上がる。
「……当たり前でしょ」
「ふん……精々死ぬなよ」
リゾンは僕に背を向けて龍族の業火が止んだと同時にゲルダへ魔術を展開し、網を更に追加で放った。
ゲルダへ絡んでいた網は龍族の業火にも燃え落ちずに尚更食い込んでいった。再生する度に更にその二重の網はゲルダの身体に食い込みきつくなっていく。
それに伴ってゲルダの身体の動きはどんどん鈍って行った。
「ノエル、腐った魔女はどうした?」
「アナベルは飲み込まれちゃった……シャーロットは気絶してる。クロエも……もう魔術を使えない」
「お前は?」
「僕も打ち付けられて……背中と内臓が損傷してる」
悠長に話をしている余裕もない。
ゲルダの動きが止まりかけていたが、再び魔術式を構築し始める。
それは一度はこの街を出ようとしたときに使用した高エネルギーレーザーの魔術式だ。まともに食らえば塵も残らない。
「(退け!)」
リゾンの指示の通りに魔族が前衛を退こうとしたが、その前にゲルダの魔術式が発動した。
部屋の中が眩い光で輪郭線までもすべてが飛ぶ。あまりの光量で何も見えない。
徐々に見え始めると、魔族の前衛と、城の天井が消し飛んでいた。
ガーネットも、リゾンも魔術の線上にいた。
「はぁ……はぁ……」
間一髪だ。
ゲルダのそのレーザーのエネルギーを上へ反射したから、僕らは消し飛ばずに済んだ。
しかし肉塊は継続して動き、魔族全体に向かって網の隙間から勢いよくその触手を伸ばした。魔族たちは肉塊のお殴打によって壁に勢いよく打ち付けられ、そこから肉塊は魔族を食べようとする。
そのゲルダから伸びている肉塊を、僕は全て切断した。
魔族たちはその肉塊を慌てて振り払っていた。
ゲルダは大分消耗してきたようで、動きが網に絡まっているのも相まって相当に鈍くなってきていた。
ゲルダが翼をバタバタと羽ばたかせると、白い羽が何度も生え変わる。
それほど苦しみ、消耗しているにも関わらず何度も何度も魔術を撃ってきた。しかし威力は弱く、鱗の堅い龍族が間に入りそれを防ぐ。
――まだそんなに動けるのか……
ゲルダの魔術は次々と変化していった。
針の魔術から氷の魔術と変わり、次いで炎の魔術となった。
急激に冷やされ、熱せられた龍族の鱗はひびが入る。
「グァアアアァアアア!」
痛むのか、龍族は咆哮をあげた。
尚もゲルダは肉塊からいくつもの腕を伸ばし、魔族を取り込もうとしている。
「僕が翼をむしり取る……」
「……では私が抱えよう」
ガーネットが僕の身体を抱き上げる。内臓が痛くてまともに動けない僕には、そうしてもらう他なかった。
いつまでも守られている訳にはいかない。
「……ガーネット、ごめんね」
「そんな謝罪では済まないぞ」
「うん……そうだね……」
僕らは龍族の陰から横に走り抜け、ゲルダの姿を捕える。
網が絡まっているが、僕の姿を捕えたと同時にその網を力任せに床から引きちぎった。
「なにっ……特殊合金の網だぞ……」
「ギャアァアアアァアアアアッ!!!!」
最早その得体のしれないものは、元々なんだったのか全く分からない。
翼の部分以外はもう原型をとどめていない。
腕のようなものができたり、顔のようなものができては崩れていく。
網が絡まっていたが、ゲルダは高速に崩壊と再生を繰り返すことによって網を外側に排出した。
「網が……!」
その網を魔族たちに向けて魔術を使って投げつけ、魔族たちが網に絡めとられてしまった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)
京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。
だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。
と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。
しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。
地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。
筆者より。
なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。
なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
婚約を破棄された令嬢は舞い降りる❁
もきち
ファンタジー
「君とは婚約を破棄する」
結婚式を一か月後に控えた婚約者から呼び出され向かった屋敷で言われた言葉
「破棄…」
わざわざ呼び出して私に言うのか…親に言ってくれ
親と親とで交わした婚約だ。
突然の婚約破棄から始まる異世界ファンタジーです。
HOTランキング、ファンタジーランキング、1位頂きました㊗
人気ランキング最高7位頂きました㊗
誠にありがとうございますm(__)m
自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません
月野槐樹
ファンタジー
家族と一緒に初めて王都にやってきたソーマは、王都の光景に既視感を覚えた。自分が作ったゲームの世界に似ていると感じて、異世界に転生した事に気がつく。
自作ゲームの中で作った猫執事キャラのプティと再会。
やっぱり自作ゲームの世界かと思ったけど、なぜか全く作った覚えがない乙女ゲームのような展開が発生。
何がどうなっているか分からないまま、ソーマは、結構マイペースに、今日も魔道具制作を楽しむのであった。
第1章完結しました。
第2章スタートしています。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる