151 / 191
第5章 理念の灯火
第150話 どちらかが倒れるまで
しおりを挟む確かに彼の言っている通りだ。
僕もリゾンに対して思うところがあったことも事実。
「だとしても……僕はリゾンと契約をすることはない」
「強情だな。いいだろう。その内に気が変わる。早くあの白い魔女を連れてこい」
「………………」
腑に落ちない気持ちもありながら、僕は階段を登ってシャーロットを呼びに行った。
シャーロットは怯えながらもリゾンの檻へ同行してくれた。枷を厳重に嵌めて動きを封じた上での治療だった。
リゾンは信用できない。
シャーロットが殺されそうになった時、治せるのはたどたどしい治癒魔術の使えるアビゲイルだけだ。深手を負わされた場合、助かる見込みはほぼない。
「これは……爛れた部分は治せましたが、その弟切草の長期的摂取による弊害までは治せそうにありません。昼間は外に出ない方がいいでしょう」
「そうか。じゃあ昼間は僕とクロエ、夜に彼らでいいでしょう」
「お前の殺し合いが見られなくて残念だ。せいぜい負けてあの男の魔女と床を共にすることにならないようにするがいい」
リゾンは嫌味を言うとニヤリと笑った。
「悪いけど、僕が大敗したときに備えて拘束させたままにしてもらうからね」
「はぁ……好きにしろ」
シャーロットと共に地下から上がり、外で待っているクロエの元へと向かった。
外に出るとガーネットとクロエが落ち着かない様子でいるのが見えた。他の魔女もなんだかソワソワしている。
「クロエ、ここだと危ないからキャンゼルたちを見つけた砂漠の方でしようか」
「……俺はやっぱり気乗りしねぇ」
「不戦敗ってことで僕の勝ち……ってことじゃ、僕の気が収まらないでしょ」
「解った。抵抗ができなくなった時点で終わりでいいだろ?」
「何言ってるのさ、本気で来てくれないと。僕だって殺すつもりでやるんだから」
僕の言葉に、クロエは眉間にシワを寄せる。
「お前を殺したくない」
「僕を殺せると思ってるの?」
「…………ノエルこそ、俺を殺せると思ってるのか?」
僕らのピリピリとした雰囲気に、周りの魔女やガーネットも緊張感が漂った。
「あの……ノエル、審判を設けたらいかがですか? 例えば倒れてから時間をはかってみるとか……立ち上がらなければ相手の勝ちという規則にしてはどうでしょう」
「……良い提案だね」
そう言った瞬間、シャーロットは少しほっとしたような顔をした。
「でも、僕らが全力でぶつかったら倒れるなんてないんじゃない?」
再びシャーロットの表情が凍り付く。
「ははは、冗談だよ。真剣に戦うし、勿論シャーロットはいつでも治療できるよう準備しておいて。相手が負けを宣言したらその時点で終了とするから」
「……もう……脅かさないでください……」
「ごめんごめん。クロエ行こう。危ないから来ない方がいいけど……全員くるよね?」
おずおずと、キャンゼルやアビゲイルも影から出てきて落ち着かない様子だった。どうやら僕らの戦いを見たい様子だ。
殺し合いなど本当は子供に見せるものではないが、血なまぐさい殺し合いをするつもりはない僕は寛容に許した。
これは身を護る術の勉強でもある。ゲルダと同等の力を持つ僕を見ることで、ゲルダから身を守るヒントを得てほしい。
「……解った…………」
そうして僕らはキナに乗って何もない砂漠地帯に向かった。
走るのではなく、僕らの歩く速度でキナを歩かせる。キナにとってもずっと同じ場所に繋いでおくのもストレスになってしまう。
「シャーロット、この馬を元に戻してあげることは出来る?」
「そうですね……アビゲイルを戻したようにできたらいいんですが……難しいでしょう。この馬は馬を媒体に鳥を合成しています。しかし、それは先代のことです。この……キナはその先代の子供です。ですから先天的にこの型なのです。生まれながらにこの遺伝子構造であるキナは分離のしようがありません」
「そうか……キナは先天的にそうなのか」
ポンポンとキナの首を触った。
――生まれながらにそうなら、仕方ないね。上手く付き合っていくしかない
僕は長い髪を邪魔にならないように括りあげた。
それでも僕の長い髪はキナの歩行の動きに合わせて揺れている。長いかなと考えながらも、それでもまだ切る決意はできないままだ。
――そんなにすぐには変われないよね……
キナは黙って僕を乗せて歩いている。ふと横を見るとアビゲイルが乗りたそうに見つめてきていた。
「乗りたい?」
「はい!」
一度キナを止めてシャーロットが抱き上げるアビゲイルを僕の前に乗せ、手綱を握らせる。
危なっかしい様子で乗っていたが、僕は片手でアビゲイルの身体を押さえた。
「しっかり乗って。落ちたら危ないよ」
「ありがとうございます」
僕らが緊張感がない様子でキナに乗っている間、浮かない顔をしたクロエとガーネットが後ろで話をしていた。
「手加減をしろ。お前も悪いと思っているなら、手心を見せてやれ。多少痛い思いをすれば済む話だ」
「…………てめぇはノエルを俺に渡したくねぇだけだろ」
「いいから言う通りにしろ。あいつは無策でお前と闘うつもりなんだぞ? 正気の沙汰ではないだろう?」
「無策? まさかそんなわけねぇだろ」
「そう思うだろう? 本当に無策だぞ……あの様子では……」
「……まぁ、俺もそう本気で殺しにかかったりしねぇよ」
「ならいいが……」
何もない砂漠にたどり着くと、僕はキナから降りた。
離れているようにクロエ以外の全員に言って、距離をとらせた。距離をとらせたうえで、シャーロットに身を護る防御壁を張るように指示する。
無事に防御壁を張ったのを確認したところで、僕は向かいに立つクロエを見据えた。
乾いた風に吹かれると、僕の髪が赤く輝き靡く。クロエは鬱陶しそうに自分の髪をかき上げた。乾いた砂に元々鋭い目つきを更に細め、僕を見つめる。
「いくよ、クロエ。初めに言っておくけど、ガーネットは血を飲んでないから」
自分の腕を軽く風の魔術で傷つけて、その傷が塞がらないことをクロエに確認させる。
「あぁ、かかってこい」
次の風が吹いたとき、互いに合図もなくして戦いは始まった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】
草壁なつ帆
ファンタジー
レイヴン・バルは秘境国と呼ばれる国の王子である。
戦争で王が亡くなった後は、民も兵士も武器を捨てた。もう戦いはしないと秘境国は誓い今日に至る。
そこへ政略結婚としてバルのもとへやってきたのは、軍事国として拡大中のネザリア王国。ネザリア・エセルである。
彼女は侍女と見間違うほど華が無い。そこからバルは彼女を怪しむが、国務として関係も深めていこうとする。
エセルを取り巻くネザリア王の思惑や、それに関わる他国の王子や王の意志。各行動はバタフライ・エフェクトとなり大きな波紋を作っていく。
策略と陰謀による国取り戦争。秘境国はいったい誰の物
に? そして、バルとエセルの絆は何を変えられるのか。
(((小説家になろう、アルファポリスに上げています。
*+:。.。☆°。⋆⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝。.。:+*
シリーズ【トマトの惑星】
草壁なつ帆が書く、神と神人と人による大テーマ。他タイトルの短編・長編小説が歴史絵巻のように繋がる物語です。
シリーズの開幕となる短編「神様わたしの星作りchapter_One」をはじめとし、読みごたえのある長編小説も充実(*´-`)あらすじまとめを作成しました!気になった方は是非ご確認下さい。

異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。

帰ってこい?私が聖女の娘だからですか?残念ですが、私はもう平民ですので 本編完結致しました
おいどんべい
ファンタジー
「ハッ出来損ないの女などいらん、お前との婚約は破棄させてもらう」
この国の第一王子であり元婚約者だったレルト様の言葉。
「王子に愛想つかれるとは、本当に出来損ないだな。我が娘よ」
血の繋がらない父の言葉。
それ以外にも沢山の人に出来損ないだと言われ続けて育ってきちゃった私ですがそんなに私はダメなのでしょうか?
そんな疑問を抱えながらも貴族として過ごしてきましたが、どうやらそれも今日までのようです。
てなわけで、これからは平民として、出来損ないなりの楽しい生活を送っていきたいと思います!
帰ってこい?もう私は平民なのであなた方とは関係ないですよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる