罪状は【零】

毒の徒華

文字の大きさ
上 下
145 / 191
第5章 理念の灯火

第144話 なら僕は愚かでもいい

しおりを挟む



「何か変なこと言ったかな?」
「自覚がないようだな。私よりもあの役立たずが良いなどと、狂言も大概にしておけ」
「ガーネットは役立たずなんかじゃない。いつでも僕を助けてくれた。色々と事情が複雑な僕のことを、魔女と魔族の混血としてじゃなくて、一人の個人として扱ってくれてる」
「だからなんだ? 強い者同士が伴侶ツガイとなるのが普通だろう? あいつよりも私の方が強い。だから私を選ぶのが賢いだろう」
「なら僕は愚かでもいい。強くなんてなくていい。何の力もなくてもいい。ただ、僕を“魔女”とか“翼人”とか“混血”とか一括りにしない人が良い」
「正気ではないな……」
「ふふ……よく言われる」

 私がノエルに対して何度も何度も言ってきた言葉だ。
 その言葉に笑ったノエルの表情が手に取るように解る。
 正気ではないと言ったリゾンの表情も、恐らく私がノエルに言うときと同じ顔をしているのだろう。

「解読はもうこの辺りでいい。もう休もうか。悪いけど、部屋がないから地下で寝てもらうよ」
「ふん……眠る前に先ほどのことは考え直すことだな」
「そうだね、考えておくよ」

 一人が立ち上がった音が聞こえた為、私は慌てて、足音を立てないように下の階に降りて外に出た。

 私は気が動転している。
 ノエルがあのようなことを言い出すと思わなかった。
 今はどんな表情でノエルに会ったらいいか解らない。
 ずっと、あの人間のことばかり考えていると思っていたし、現にそうだろう。いくら戯れの質疑だったとしても、あの男の魔女でも、リゾンでもなく私ならばいいと言っていた。
 そのことがグルグルと頭の中で回っている状態で暫く時間が経った。
 私が屋外で放心していると、拠点の扉が開き赤い髪が姿を覗かせる。

「あ、ガーネット。こんなところにいたの」
「ノエル……」

 ノエルは私の隣に腰かけ、私と同じ前方に顔を向けた。私はノエルに顔を向けられずに髪の毛で横顔を隠す。

「今日のこと……怒ってる?」
「いや……」
「明日……手は出さないでね。僕なりのケジメだから」
「…………それにしても、負けたら一晩床を共にするなど……もっとマシな条件はなかったのか……私はそれが一番腑に落ちない」
「それって、僕が負けるって思ってるってこと?」

 悪戯をする子供のような笑顔でそう聞いてきた。
 負けたときのことなど全く考えていない様子だ。
 絶対に自分が勝つと思っているのだろう。

「……癪だが、あの男の魔女は強いぞ。作戦は考えているのか?」
「別に。特に考えてない」
「は……?」

 全くの無策であの魔女に挑むつもりかと私は呆れる。
 よくこの調子で生き残れてきたものだ。

「クロエは魔術だけじゃなくて、身体的な能力もかなり高いしね」
「魔女のくせにやけに体つきがいいからな……」
「…………邪推だけど……部屋から出してもらえなくて、部屋でひたすら鍛錬してたんじゃないかな」

 ――……それは、あえてボケているのか?

 言うべきかどうか一瞬迷ったが、私は勢いに任せて小声で言った。

「……性行為に励んでいたからだろう……」
「え? 何?」

 私が小声で言った言葉はノエルには聞こえなかったらしい。もう一度言うのは気が引けたので、私は適当に誤魔化した。

「……お前がそうするなら、私もリゾンと決着をつけようと考えている」
「決着?」
「あぁ……昔からあいつとは因縁があるからな」
「どんな?」
「子供のころから色々あったからな……」
「昔の話、良かったら聞かせてよ。僕、ガーネットのことよく知らないから」
「……私の話など、聞きたいのか? 面白いものでもないぞ。あまり……良い話でもないしな」
「僕はガーネットのこと、知りたいから」
「……聞いたら失望するぞ」

 大した話でもないが、私は過去のことを想い返しながらノエルに話し始めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。 途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。 だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。 「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」 しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。 「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」 異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。 日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。 「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」 発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販! 日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。 便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。 ※カクヨムにも掲載中です

魔術師セナリアンの憂いごと

野村にれ
ファンタジー
エメラルダ王国。優秀な魔術師が多く、大陸から少し離れた場所にある島国である。 偉大なる魔術師であったシャーロット・マクレガーが災い、争いを防ぎ、魔力による弊害を律し、国の礎を作ったとされている。 シャーロットは王家に忠誠を、王家はシャーロットに忠誠を誓い、この国は栄えていった。 現在は魔力が無い者でも、生活や移動するのに便利な魔道具もあり、移住したい国でも挙げられるほどになった。 ルージエ侯爵家の次女・セナリアンは恵まれた人生だと多くの人は言うだろう。 公爵家に嫁ぎ、あまり表舞台に出る質では無かったが、経営や商品開発にも尽力した。 魔術師としても優秀であったようだが、それはただの一端でしかなかったことは、没後に判明することになる。 厄介ごとに溜息を付き、憂鬱だと文句を言いながら、日々生きていたことをほとんど知ることのないままである。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...