罪状は【零】

毒の徒華

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第5章 理念の灯火

第127話 愚者の末路

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 僕はイライラしながらも矛を収める。

「人間が忌避する罪を、魔女は栄誉の象徴として罪深いほど讃えられるのよ」
「…………リサは罰せられたのに?」
「魔女にも犯してはならない規則があるわ。今……今っていうか、ゲルダ様がまだまともだったころ……ゲルダ様に逆らうことだけはしてはいけなかった」
「随分と……独裁的な政治だな」
「ゲルダ様が翼を得て死なない身体になってからは、女王の座から降ろすこともできなくなっていた」

 しかし、何故不死身の身体になってしまったのだろうか。
 ゲルダと同じように半分の翼がある僕は、いくら力が強くても不死身ではない。

「どうして死なない身体になったの?」
「んー……そうね、いろんな魔族の細胞を移植したりしたからかしら……突然変異みたいなものかもね」
「…………本当に最悪だ。考えれば考えるほど倒せるのか不安になる」
「理論上は、あんたの翼なんだしあんたに戻すのが一番だと思うのよね。あんたの血液か何かで反応させるとかね」
「なら僕が大人しく捕まってた時期にしたらよかったじゃない」
「あんた、馬鹿なの? あんたに翼なんて戻したら今頃世界が滅んでるわ」

 不躾な物言いに一々僕は苛立ちながらも、拠点へ戻り始めた。
 アナベルはかんに障るが、言っていることは的を射ている。研究者をしているほどだ、それなりに頭がいいのだろう。

「あんたの罪は……『傲慢』と『強欲』かしら? 昔は『憂鬱』だったかしらね。それとも人間に紛れて生活してたし『虚飾』……それとも『怠惰』?」

 頭がいいのは別にして、人格は破綻しているのは手に取るようにわかる。

「うるさい。話してないと死ぬのかお前は」
「冷たーい。地下で死体の相手ばっかりしてたんだからいいじゃない。死体は話しかけても返事してくれないのよ?」

 鬱陶しいと思いながらも、道を進み拠点へ戻った。アナベルは僕が話さないと、それはそれとして周りの植物などに興味を示していた。
 移り気な性格のようだ。本当にうまくやって行けるのか不安になってくる。

 僕らが戻るとシャーロットたちは立派な家を作ってくれていた。かなり大きく、僕ら全員に個室がある家だ。
 一階は広間で、二階、三階と上方向に伸びている。

「シャーロット、すごいじゃない」
「おかえりなさい。この辺りの木材と石を使って作ったのですが……強度が不安ですね。設計の知識がないので……」
「それなら石の柱を等間隔に置いて、それから――」

 アナベルはシャーロットに助言をしている様だった。
 シャーロットはアナベルのことを快くは思っていないだろうが、争うこともなくアナベルの助言通りに家を作って行った。

 ――シャーロットは大人だな……

 そう考えているとアビゲイルは僕の後ろに隠れるようにしてアナベルから遠ざかっている。

「キャンゼルはどこに行ったの?」
「あの人は……そこで石の原料を作ってます」

 炎の魔術で懸命に様々な石や土を混ぜていた。それほど強い火力でもないが、なんとか煉瓦のようなものができあがっている。
 しかし、ひとつひとつ作っている為に数えるほどしかできていないようだった。

「…………キャンゼル」
「あっ……ノーラ、どう? あたし頑張ってるでしょう?」
「……そうだね。その煉瓦は……シャーロットに使ってもらおうか」

 彼女なりに頑張っている様だったので、責めはしなかったが何かもっと向いている仕事はないだろうかと考える。

 ――再現魔術……解けたら消えちゃうしな……

 そんなことを考えている間に、クロエが狩りから戻ってきた。クロエが戻ってくると、アビゲイルはシャーロットの方へ走って行った。アビゲイルはクロエのことも苦手らしい。
 クロエの手には大型の草食獣の遺体があった。ズリズリとひきずってこちらへ歩いてきている。意外と細身の身体の割には力があるようだ。

「ノエル、大物だぜ? これなら暫く食えるだろ」
「鹿だね。ありがとう。こっちも食べられる植物取ってきたから」
「家もまぁまぁだな。俺はお前と同じ部屋でいいだろ?」
「…………良いわけないでしょ」

 そう言っている間に、クロエが僕の後ろを見て目を大きく見開いた。

「ノエル!」

 ガーネットの僕を呼ぶ声が聞こえた瞬間、クロエの首が鋭利に切られ、血が噴き出すのが見えた。

「がはっ……!」

 ――え……?

 何が起こったのか解らず、膝をつき自分の首の傷を必死で抑えるクロエに触れようとした。
 しかし、僕は外的要因でそうすることはできなかった。

「お前、本当に愚かだな」

 その声が誰の声か解った瞬間、僕の腹部から血まみれの鋭い爪の手が生えたのが見えた。
 本来絶対にその場所に手など見えるはずもない。
 僕の脊柱が背後から砕かれ、腹部にあるはずの内臓の一部がその血まみれの手に握られている。
 痛みと熱さを同時に感じる。
 あまりの痛みで激しい吐き気に襲われる。

「リ……ゾン……」
「言っただろう? お前に凌辱の限りを尽くすと」

 僕はその場に倒れ込んだ。腰の脊椎が破壊されたため下半身が動かない。
 神経が断裂されてしまっているのだろう。

「ちょっとあんた!? 何してんの!?」

 キャンゼルやアナベルがかけよってくるが、それもリゾンの素早い攻撃にすぐさま陥落する。キャンゼルは左腕を切り落とされ、アナベルは首が地面に落ちた。
 僕はその光景を朦朧と、手放しそうな意識を懸命に繋ぎ留めながら見ていた。

 ――駄目だ……動かない……痛い……苦しい……

 僕はリゾンに首元を掴まれ、成す術なく引きずられて森の中へと入って行った。
 息もあがり、あまりの痛みに吐き気を催した。
 吐くものもないのに僕は嘔吐する。すると、胃液のようなものが口から出た。

 ――ガーネット……

 僕と同じように腹部に穴が開いているガーネットは、僕と同様の外傷を負い、倒れていた。

「ノエ……ル……」

 彼は懸命に僕に手を伸ばすが、その手は届くことはなかった。


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