128 / 191
第5章 理念の灯火
第127話 愚者の末路
しおりを挟む僕はイライラしながらも矛を収める。
「人間が忌避する罪を、魔女は栄誉の象徴として罪深いほど讃えられるのよ」
「…………リサは罰せられたのに?」
「魔女にも犯してはならない規則があるわ。今……今っていうか、ゲルダ様がまだまともだったころ……ゲルダ様に逆らうことだけはしてはいけなかった」
「随分と……独裁的な政治だな」
「ゲルダ様が翼を得て死なない身体になってからは、女王の座から降ろすこともできなくなっていた」
しかし、何故不死身の身体になってしまったのだろうか。
ゲルダと同じように半分の翼がある僕は、いくら力が強くても不死身ではない。
「どうして死なない身体になったの?」
「んー……そうね、いろんな魔族の細胞を移植したりしたからかしら……突然変異みたいなものかもね」
「…………本当に最悪だ。考えれば考えるほど倒せるのか不安になる」
「理論上は、あんたの翼なんだしあんたに戻すのが一番だと思うのよね。あんたの血液か何かで反応させるとかね」
「なら僕が大人しく捕まってた時期にしたらよかったじゃない」
「あんた、馬鹿なの? あんたに翼なんて戻したら今頃世界が滅んでるわ」
不躾な物言いに一々僕は苛立ちながらも、拠点へ戻り始めた。
アナベルは癇に障るが、言っていることは的を射ている。研究者をしているほどだ、それなりに頭がいいのだろう。
「あんたの罪は……『傲慢』と『強欲』かしら? 昔は『憂鬱』だったかしらね。それとも人間に紛れて生活してたし『虚飾』……それとも『怠惰』?」
頭がいいのは別にして、人格は破綻しているのは手に取るようにわかる。
「うるさい。話してないと死ぬのかお前は」
「冷たーい。地下で死体の相手ばっかりしてたんだからいいじゃない。死体は話しかけても返事してくれないのよ?」
鬱陶しいと思いながらも、道を進み拠点へ戻った。アナベルは僕が話さないと、それはそれとして周りの植物などに興味を示していた。
移り気な性格のようだ。本当にうまくやって行けるのか不安になってくる。
僕らが戻るとシャーロットたちは立派な家を作ってくれていた。かなり大きく、僕ら全員に個室がある家だ。
一階は広間で、二階、三階と上方向に伸びている。
「シャーロット、すごいじゃない」
「おかえりなさい。この辺りの木材と石を使って作ったのですが……強度が不安ですね。設計の知識がないので……」
「それなら石の柱を等間隔に置いて、それから――」
アナベルはシャーロットに助言をしている様だった。
シャーロットはアナベルのことを快くは思っていないだろうが、争うこともなくアナベルの助言通りに家を作って行った。
――シャーロットは大人だな……
そう考えているとアビゲイルは僕の後ろに隠れるようにしてアナベルから遠ざかっている。
「キャンゼルはどこに行ったの?」
「あの人は……そこで石の原料を作ってます」
炎の魔術で懸命に様々な石や土を混ぜていた。それほど強い火力でもないが、なんとか煉瓦のようなものができあがっている。
しかし、ひとつひとつ作っている為に数えるほどしかできていないようだった。
「…………キャンゼル」
「あっ……ノーラ、どう? あたし頑張ってるでしょう?」
「……そうだね。その煉瓦は……シャーロットに使ってもらおうか」
彼女なりに頑張っている様だったので、責めはしなかったが何かもっと向いている仕事はないだろうかと考える。
――再現魔術……解けたら消えちゃうしな……
そんなことを考えている間に、クロエが狩りから戻ってきた。クロエが戻ってくると、アビゲイルはシャーロットの方へ走って行った。アビゲイルはクロエのことも苦手らしい。
クロエの手には大型の草食獣の遺体があった。ズリズリとひきずってこちらへ歩いてきている。意外と細身の身体の割には力があるようだ。
「ノエル、大物だぜ? これなら暫く食えるだろ」
「鹿だね。ありがとう。こっちも食べられる植物取ってきたから」
「家もまぁまぁだな。俺はお前と同じ部屋でいいだろ?」
「…………良いわけないでしょ」
そう言っている間に、クロエが僕の後ろを見て目を大きく見開いた。
「ノエル!」
ガーネットの僕を呼ぶ声が聞こえた瞬間、クロエの首が鋭利に切られ、血が噴き出すのが見えた。
「がはっ……!」
――え……?
何が起こったのか解らず、膝をつき自分の首の傷を必死で抑えるクロエに触れようとした。
しかし、僕は外的要因でそうすることはできなかった。
「お前、本当に愚かだな」
その声が誰の声か解った瞬間、僕の腹部から血まみれの鋭い爪の手が生えたのが見えた。
本来絶対にその場所に手など見えるはずもない。
僕の脊柱が背後から砕かれ、腹部にあるはずの内臓の一部がその血まみれの手に握られている。
痛みと熱さを同時に感じる。
あまりの痛みで激しい吐き気に襲われる。
「リ……ゾン……」
「言っただろう? お前に凌辱の限りを尽くすと」
僕はその場に倒れ込んだ。腰の脊椎が破壊されたため下半身が動かない。
神経が断裂されてしまっているのだろう。
「ちょっとあんた!? 何してんの!?」
キャンゼルやアナベルがかけよってくるが、それもリゾンの素早い攻撃にすぐさま陥落する。キャンゼルは左腕を切り落とされ、アナベルは首が地面に落ちた。
僕はその光景を朦朧と、手放しそうな意識を懸命に繋ぎ留めながら見ていた。
――駄目だ……動かない……痛い……苦しい……
僕はリゾンに首元を掴まれ、成す術なく引きずられて森の中へと入って行った。
息もあがり、あまりの痛みに吐き気を催した。
吐くものもないのに僕は嘔吐する。すると、胃液のようなものが口から出た。
――ガーネット……
僕と同じように腹部に穴が開いているガーネットは、僕と同様の外傷を負い、倒れていた。
「ノエ……ル……」
彼は懸命に僕に手を伸ばすが、その手は届くことはなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
アリスと魔法の薬箱~何もかも奪われ国を追われた薬師の令嬢ですが、ここからが始まりです!~
有沢真尋
ファンタジー
アリスは、代々癒やしの魔法を持つ子爵家の令嬢。しかし、父と兄の不慮の死により、家名や財産を叔父一家に奪われ、平民となる。
それでもアリスは、一族の中で唯一となった高度な魔法の使い手。家名を冠した魔法薬草の販売事業になくなてはならぬ存在であり、叔父一家が実権を握る事業に協力を続けていた。
ある時、叔父が不正をしていることに気づく。「信頼を損ない、家名にも傷がつく」と反発するが、逆に身辺を脅かされてしまう。
そんなアリスに手を貸してくれたのは、訳ありの騎士。アリスの癒やし手としての腕に惚れ込み、隣国までの護衛を申し出てくれた。
行き場のないアリスは、彼の誘いにのって、旅に出ることに。
※「その婚約破棄、巻き込まないでください」と同一世界観です。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま・他サイトにも公開あり
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる