116 / 191
第4章 奈落の果て
第115話 三賢者
しおりを挟むガーネットが慌ただしく通訳してくれるが、口々に色々なことを言われてガーネットはついに途中から通訳を辞めた。
辞めたが、ある言葉だけ通訳してくれた。
「『三賢者として異界に留まらないか』と言っているぞ」
「え……」
そう訪ねられたときに、セージの後継ぎができるのは嬉しかったはずなのに、すぐに肯定できなかった。
「……考えておくね」
それはご主人様と違う世界で生きるということ。
確かに空間が同じでも、生きている世界は違う。でも、本当に違う世界で生きることなんてすぐには決断できることではなかった。
僕らが会議室を後にすると、緊張していた糸が切れたのかどっと疲れが出る。
「ガーネットありがとう。通訳がいてくれないと話が進まなかったよ」
「本当に魔族がお前の滅茶苦茶な作戦に同意するとは思わなかった。アラクレ者ばかりの、自分のことしか考えていないリゾンのようなやつばかりだったが……私があっちに行っている間に少しずつ何か変わったんだな」
――それは、ガーネットが知ろうとしなかっただけのことだと思うよ。本当は、魔族も優しい心を持っているんだと思う
そう、言おうと思ったけれど、僕は眠気に襲われた。魔力を派手に使ったせいだろう。
寿命を削ると言われていたが、僕はそんなこと全く気にならなかった。
「…………僕少し疲れちゃった。部屋で少し休むから、なにかあったら起こしてくれないかな」
魔力も結構使ったが、不思議と身体が痛くならない。
こっちの空気が僕の身体に合っているからなのか……僕はやっぱり魔女よりも魔族よりなのだろうか……そんなことを眠い頭でぼんやりと考える。
「お前は植物に対して博識なのだな」
「そこそこはね」
「あの赤い花はなんという名前だ? 弟の墓に植えたものだ」
「あれは……彼岸花って名前の花だよ」
「ヒガン? とはなんだ」
「彼岸っていうのは向こうの岸って意味。人間が名付けたんだけどさ、死んだ者は死者の国との狭間を別つ川を渡った向こうに行ってしまうという人間の概念があって、死人の花という意味で彼岸花という名前だと聞いたことがある」
「ふん……人間は空想に浸るのが好きな生き物なのだな。しかし死者の世界は確かにあった。間違っていた訳でもなかろう」
空想に逃げて、現実を忘れるしかできなかったのではないかと考えた。
現実では死んだらそこで何もかもが終わり、途絶える。
僕らは特別に魔王様に教えてもらったから知っただけで、永遠に違う世界があるなどとは思わないだろう。
大切な人が亡くなったことを大抵の場合は受け入れられない。死者を想い、祈り続けることしか生者はできないからだ。
――だから死の世界で死者は拘束されてしまう……
それはなんて皮肉なことだろうか。
「お前が植物に詳しく、助かった」
「うん……セージの持ってた本を読んだり、ご主人様の治療の為に草を色々勉強して試したんだよね……意味なかったけどさ」
「……結果だけを見るな。お前は……大義を成し遂げたのだぞ」
「まだ何も成し遂げてないよ」
「お前に自覚がないだけだ。普段は険悪な関係の各種族をまとめ、一つの志の元に結託させたのだぞ。異界の革命と言って良いだろう」
「…………そっか。ならよかった」
少し無理やり笑顔を作ってみたが、疲れが顔に出ている。あまり上手には笑えていない。
「ノエル……三賢者の話は断るのか?」
「考えてはいるよ……僕にはもう帰る場所がないから」
「………………」
「疲れちゃったから、少し休むね」
僕は異界にいたほうがいいのだろうか。それも考えなければならない。
考えることが沢山あるほうがいい。それならまだご主人様のことを考えずに済む。
「あぁ、私はまだやることがあるから、部屋で休んでいろ」
「うん。本当にありがとうガーネット……僕の勝手だけど、契約してよかったよ」
ガーネットがいなかったら僕はここまで来ていないだろう。
めちゃくちゃに思われた計画にもなんとか現実味が帯びてきた。
「…………馬鹿なことを言っていないでさっさと行け」
「あはは、じゃあまたね」
僕は部屋に入るとベッドに倒れこみ、事切れたように眠りについた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~
一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】
悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……?
小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位!
※本作品は他サイトでも連載中です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーで成り上がる~
うみ
ファンタジー
港で荷物の上げ下ろしをしてささやかに暮らしていたウィレムは、大商会のぼんくら息子に絡まれていた少女を救ったことで仕事を干され、街から出るしか道が無くなる。
魔の森で一人サバイバル生活をしながら、レベルとスキル熟練度を上げたウィレムだったが、外れスキル「トレース」がとんでもないスキルに変貌したのだった。
どんな動作でも記憶し、実行できるように進化したトレーススキルは、他のスキルの必殺技でさえ記憶し実行することができてしまうのだ。
三年の月日が経ち、修行を終えたウィレムのレベルは熟練冒険者を凌ぐほどになっていた。
街に戻り冒険者として名声を稼ぎながら、彼は仕事を首にされてから決意していたことを実行に移す。
それは、自分を追い出した奴らを見返し、街一番まで成り上がる――ということだった。
※なろうにも投稿してます。
※間違えた話を投稿してしまいました!
現在修正中です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜
かむら
ファンタジー
身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。
そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。
これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる