罪状は【零】

毒の徒華

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第4章 奈落の果て

第114話 力の証明

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【ノエル 翌日】

 僕は魔族相手の会議を行うべく、各魔族の長が集まったところで僕は前に立った。錚々そうそうたる顔ぶれに僕は息を飲む。
 重々しい雰囲気に、ビクビクしているとガーネットに背を軽く押される。

「しっかりしろ」

 ガーネットを見ると堂々としていて、各部族長の威圧感をものともしない姿勢でいるようだった。

「うん」

 僕は混血であるということも、最後の翼人の生き残りということも、片翼であることも何もかもをこの場では捨て置いた。
 片翼の自分の翼を隠すことなく見せる。
 真剣に見つめてくる各部族長たちに僕は向かって話し始めた。ただ言葉が通じないので、ガーネットに通訳になってもらって会議を進める。

 内容はこうだ。
 魔族の中で高度な魔術が使える者は一時的にあちらの世界に行き、世界を創造する魔術の手伝いをしてもらう。それは物凄く複雑な魔術式だ。
 前日に世界を創造する魔術式を解読していたが、火、水、土、雷、木、光と闇、重力、ありとあらゆる魔術系統が複雑に絡み合っている。すべては読み解けていないけれど、膨大な魔力が必要だということだけは解る。僕だけでは到底成しえない。
 だから協力してほしい。
 僕がそう言い終わり、ガーネットが通訳をし終えると、部族長側から僕に質問を投げかけてきた。

「しかし、世界を創造できたとして魔女は世界を超えて干渉する事ができる以上、隔離したとしても意味がないのではないか?」

 吸血鬼族の長、ヴェルナンドは異界の言葉でそう問う。

「勿論そう。隔離する前にすべての魔女を制約で縛る必要がある。それについてはイヴリーンがそうしたように『魔女の心臓』を使用する」

 つつがなくガーネットは通訳してくれたようで、ヴェルナンドには伝わった。

「その魔女の心臓はどうやって手に入れるつもりだ?」
「魔女の女王の心臓を使おうと考えている。この災厄の元凶の女王は僕の片翼を移植したせいで狂乱の渦中にいる。危険だが、そうする価値はある」
「ではその女王を倒さなければならないわけだな。それなら話も早い。我々にこの仕打ちをした魔女の女王には相応の償いをしてもらわねばならない」
「当然そのつもりで考えている」

 険しい表情でそう言う僕を、心配そうな顔でガーネットが見ていたことに僕は気づかなかった。
 両親やセージを奪い、ご主人様や他のたくさんの魔女に驚異を与え続けるゲルダを放ってはおけない。

「世界を作るのを先に行う。女王討伐はそのあとだ」
「我々には関係のないことだが、各地に散らばる魔女をどうやって新たな世界に移すつもりだ?」
「魔女の心臓で制約を課せばいい。“魔女は新世界で暮らす”と。魔女全員をまとめて送る」
「それでは貴殿も対象となるのでは?」
「例外の文をつければいい。その辺りは上手いやり方を考えているから問題はない」
「では我々魔族は、世界を創造する魔術の為、魔女の女王の討伐の為の二つに尽力すれば良いのだな?」
「いや……女王退治はかなり危険だ。僕がやる」

 僕がそう言うと、ガーネットは一度通訳を止めた。

「お前だけで倒せなかったではないか。ただの肉塊になっても尚、翼と心臓を核に再生していたのだぞ」
「あの翼をなんとかしない限りは誰が何をしても無駄だってことでしょう? あの翼は僕の魔力でこそ安定するのなら、僕が……元の持ち主が触れれば僕の魔力に感応してゲルダから剥がせるはず」

 確信はなかった。
 保証もない。
 ただ、他に手立てというものも見当たらない。

「それができるなら何故あのときしなかった?」
「覚えてないんだからそんなこと言われても……とにかく通訳してよ。後で話すから」

 不満げにガーネットが通訳すると、各部族長たちは一斉に声を上げた。
「納得できない」「私たちの積年の恨みは自ら晴らす」「協力した方がいい」という主旨の言葉を発していた。

「かえって非効率だ」

 そんなことは一言も言っていないのにガーネットはそのような事を言った。
「効率的ではない」という意味は理解した。

「こいつはどちらかというと守ろうとすると力を発揮できない性分だ。大勢で立ち向かったところでこいつの足手まといになりかねない」

 僕は何を言っているのかよく解らなかったが、部族長たちがまた次々に声をあげだしたことを考えれば、相当に反感を買うようなことを言ったのだろう。

「やかましいやつらだ。ノエル、お前の力を証明しろと言っている」
「え、僕の?」
「そうだ、お前の魔術を見せてやれ。本気の魔術だ」
「本気って……城が壊れちゃうよ……」

 ガーネットは僕の腕を引っ張り、窓の方へ向かっていく。大窓を開けるとそこから異界の景色が見渡せた。
 相変わらずいい景色というよりは禍々しい景色だ。

「空に向かって撃て」
「……本当にするの……? 部屋が揺れるというか……少しは壊れるよ絶対」
「そんな些細なことは魔族は気にしない。やれ」
「…………じゃあ下がってて」

 反発を強めている魔族長たちを納得させるにはそうするしかないといけないと感じた。
 衆人環視の中、というと彼らは人ではないから語弊があるが全員が僕を見つめる中、魔術式を構築し始めた。
 一度、ゲルダのいる街を全部吹き飛ばす寸前だった大型魔術式だ。
 どんどん大きく複雑になっていく魔術式は強いエネルギーを一点に集めていく。
 小規模な太陽ができているように部屋がジリジリと熱を帯びてくる。外でやるのとは勝手が違う。
 これでは本当に危険かもしれない。

「ねぇ、本当にやるの?」

 僕が不安になってそう言うと、他の魔族長たちは「構わない」と言う。構わないという返事をしている者もいたが、既にこの時点でやめたほうがいいと感じている者もいた。
 魔族の表情は良く解らないが、うろたえている様子くらいは解る。

「どうなっても知らないよ……!」

 一点に集めたエネルギーを一気に打ち出すと、僕は反動で後ろによろけそうになるが足をしっかりと固定してそれに耐える。
 高濃度のエネルギーは一筋の太い光線となり、空へ放たれた。
 部屋が眩しい光で白色に飛ぶ。
 エネルギー放出は貯めた時間の半分ほどだったが長い間に感じる。
 部屋の窓や、窓枠が破壊されて跡形もなくなった。ドロドロに溶けて発光している。

「っと…………これでいい?」

 部屋を振り返って見渡すと目を押さえてのたうち回っている者や、唖然として言葉を失っている者、物の陰に避難している者など阿鼻叫喚の状態だった。
 ガーネットは目を閉じていたのか、少しのダメージで済んだようだ。しかし目を押さえてつらそうにはしている。

「これが本気か?」
「八割くらいかな……流石に城を壊す訳にもいかないし……」

 それを一先ず落ち着いた魔族長たちに告げると、皆が驚いていたがゲルダ討伐の任は僕がやるということで異論はなかった。
 皆怯えて僕を見るのかと思ったが、各魔族長たちは僕を讃えた。
「魔王様と並ぶほどの強者だ」「味方で心強い」「魔術を教えてほしい」等の声が上がる。

「来るべき時がくるまで、少し待っていてほしい」

 会議を終えようとした矢先、僕はあることを思い出した。

「あと……吸血鬼の墓地で見かけた黄色い小さな花のなる植物は、魔族のどの程度が食べている?」
「あの植物は異界全土に生息しており、ほとんどの種族は口にしている。食べない方がいいと言っていたが……何故だ?」
「あれは、向こうの世界で“弟切草おとぎりそう”と呼ばれる植物で、ある種の毒がある。食べるとその毒が皮膚に作用を起こさせ、紫外線に感光するとその毒性が発揮されて爛れなどの症状が出る。人間の場合だけど、最悪の場合は壊死してしまうんだ。太陽の紫外線にさらされないここなら食事にしても問題はないと思うけど……」
「そのようなことが……」
「だからあの植物を好んで沢山摂取している魔族は、向こうに行くことは危険だと思う。勿論皮膚を隠す何かがあればいいけれど、完全に紫外線を防ぎきることは難しい。あるいは夜間の活動になるでしょう」

 僕がそう言うと、植物に詳しい木精族が異界とあちらの知識を共有したいと申し出た。火精族も高エネルギーの集め方について僕に後で村にきてほしいと申し出たり、あらゆる部族から知恵を求められた。


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