罪状は【零】

毒の徒華

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第4章 奈落の果て

第92話 誠意

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「はははははははは!(面白い……ガーネット……私たち……殺す?)」

 笑っているリゾンを無視して、ガーネットは言葉を続ける。

「お前には目的があるのだろう。くだらない目的がな……こんなところで殺されても良いのか? (魔女……脅威……恐怖……委縮……無様……)」

 その侮辱の言葉に、リゾンや獣の姿をした魔族がガーネットを殺そうととびかかった。
 僕が強引に魔術を使おうとすると、バキッという音がして僕の右手の手枷が割れる。どうやら手枷の魔術封じは僕の魔力を押さえるほどの魔術ではなかったようだ。
 魔族たちのその鋭い爪や魔術がガーネットを餌食にする前に、僕はガーネットを守る為の魔術式を構築する。
 水の壁がガーネットの周りを囲んで衝撃を全て吸収した。

「(卑賎……魔女!)」

 怒りの声が耳に響く。
 それでも、僕は殺したくなかった。
 殺すことに何の意味もない。
 それではゲルダと何も変わらないではないか。

「頼む、僕のことを信じてくれ……僕は敵意があって来たわけじゃないんだ! 魔女に憎しみがあるのは解る! 頼む……」

 僕は水の防御壁を解いた。そして、リゾンの目を真っすぐに見つめる。

「面白い……確かに強大な魔力だ……殺すのはやめて私のペットにしてやろう」

 ――この男はいったい何を言っているんだ? 魔族の存亡の危機だというときに……!

 そう思うと僕は怒りすら湧いてきた。
 これ以上魔女が好き勝手をしたら、異界ごと魔族を消してしまいかねない。
 そうでなくともこれだけの犠牲が出ているのに、どうしてそんな悠長なことを言っているのかと耳を疑った。

「僕のことをペットにしてもかまわない……でも魔族の存亡の危機のときにそんなこと言っている場合じゃないだろう! ガーネットも、ラブラドライトも、他のたくさんの魔族も犠牲になっているのに!」

 リゾンはくるくると自分の髪を指先で弄びながら興味なさそうに答える。

「魔族の存亡の危機? だからなんだというのだ? 私には関係ないことだ。私を脅かせる魔女など存在しない。弱い者が搾取されるのは当然だろう?」

 あっちの世界の感覚で考えていた僕が間違っていたのか。
 ガーネットもまだ僕の感覚が解るとは言い難いが、それでも高い知性があれば理解し合えると思っていたのに――――

「どうすれば協力してくれるんだ……」
「どうすれば? そんなに協力してほしいならお前のを見せてみろ」

 リゾンは僕の身体に鋭い爪を立てた。

 ――誠意って……防御するなってことか……

 爪が徐々に僕の身体に食い込んでくる。痛みに僕は暴れそうになったが、暴れないように僕は我慢をした。

「あぁあああッ……!!」
「ぐっ……」

 ガーネットの身体にも傷がついて血を流していた。僕は悔しさで下唇を噛んだ。いつもガーネットがする仕草。
 いつもこんな気持ちで下唇を噛んでいたのなら、本当につらい想いをさせてしまったと感じる。

「ほら。抵抗するな? 私たちに協力してほしいんだろう?」

 僕は何度も何度もリゾンの加虐的な行為に僕は耐えた。
 耐えた。
 耐えるしかなかった。
 傷はすぐに塞がっていくが、徐々にその回復速度が遅くなってきていることに気が付く。僕の血の効果が薄れてきているんだろう。
 それに、僕も血を流しすぎてぼーっとしてきた。

「美しい羽根だ……毟り取りたくなる」

 リゾンは僕の翼を縛るベルトの隙間から優しく翼を撫でた。

「翼に触るな……変態野郎が……」
「あぁ……そういえば翼人は翼に神経が集中していて敏感なんだったな? こんな風に愛撫されたら発情してしまうか?」

 リゾンは僕の翼を優しく撫でまわした。
 気持ちが悪い。
 そして翼のみならず僕の身体の方も撫でまわしてくる。

「(リゾン……停止……)」
「(主……凌辱……見る……興奮……)」

 細かい意味は解らなかったが、さしずめ「主を凌辱されるのを見て興奮していろ」という意味だろう。
 ガーネットの言葉で更にリゾンは僕の身体を弄んだ。

「(悪趣味……)」
「(黙れ……待て……)」

 他の魔族を牽制し、リゾンは行為を続けた。
 首から胸、腹から脚まで軽く爪を立てながら愛撫する。カリカリと皮膚を撫でられ、おかしな気持ちになってくる。

「やめて……っ……」
「いいぞ……お前。ますます気に入った。いい声で鳴け……私に聞かせろ……」

 リゾンが僕の首筋に牙を立てようとした。ガーネットが「やめろ!」「今すぐ殺せ!」と叫び散し、強固な鎖を引きちぎろうとガチャガチャと引っ張っていたが、鎖はびくともしない。
 それでも僕は抵抗できなかった。
 協力してくれると、心のどこかでそう信じていたからだ。

「ふふ……どうだ? 奴に見られながら玩具にされる気分は?」

 首筋を咬もうとしていたリゾンは、咬むのをやめて舌を這わせた。僕の血がついていない部分だ。しかし、その舌先はどんどん僕の血の方へと進んでいく。

 ――マズイ……このままじゃ……!

 僕が誠意を捨ててリゾンを突飛ばそうとした瞬間、

 バタン!

 急に扉が開いて、低級魔族と思しき者が入ってきた。小鬼のような姿をしている。それに手には脱がされた僕らの服を持っていた。



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