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第4章 奈落の果て
第76話 失望
しおりを挟む石が一瞬で消し炭になるなんてどれほどの高温なのだろう。
「ヒィイイッ!」
町の全員が情けない声を出して後ずさる。
「話を聞いて!」
白い龍が俺の肩に勝手に飛び乗り、そう声を張り上げて言う。
「ノエルは本当に町を守っていたんだ! 魔女除けの魔術で町を魔女から隠して、それに町に魔女が攻めてきたときだって、町の人に被害が出ないように最善をつくして戦っていた!! なんでそれが解らないの!?」
町の人間は龍の話を聞かず、蜘蛛の子を散す様に逃げて行った。
その現実に更に俺は打ちのめされた。
あいつはずっと奇異の目で見られていても耐えていた。
俺の為に勉強して、俺の為に薬を作って、俺の為に一生懸命になってくれた。俺の為に泣いてくれた。俺の為に怪我をすることも厭わなかった。なんでも俺の為にしてくれた。
俺の為だけに生きてくれた。
それは今もそうだ。あいつは俺の為だけに生きている。
「ノエルは何も悪くないのに。ノエルはずっと頑張っていたのに! なんでわからないの……ノエルが魔女だってだけで……ノエルは誰よりも優しいのに」
「くそっ……」
俺はついに感情が制御できなくなり目頭が熱くなった。
だが、涙を流すわけにはいかない。乱暴に扉を閉めて自分のベッドに身体を投げ出す。
白い龍はまた泣きながら俺の隣まで飛んできて、少し長い首を丸めて涙を流していた。
――こんなかっこ悪いところあいつには見せられない……
「……酷いよ。ノエルのこと……何も知らないくせに……悔しいよ……」
「あぁ……俺もだ……殺してやりたい」
「殺すのは駄目だよ! ノエルは……不必要な殺しはしないよ」
俺とあいつは正反対だ。
無益に殺してきた俺と、殺さないように努力するあいつ。
無力な人間である俺と、最強の魔女とすら謳われるあいつ。
こんな皮肉があるか。
無力で、必死に強者であろうと見栄を張ろうとしていた自分がどこまでも馬鹿みたいで、力があるのに無力であろうと奴隷の身に窶してどこまでも力から遠ざかった生活をしていたあいつも馬鹿だった。
――俺たち……馬鹿だろ……
どうしてあんな関係性しか築けなかったのか、どうしてもっと大切にしてやれなかったのか。
その堂々巡りだ。
失ってから大切さに気付くなんて、そんなこと考えもしなかった。俺は何も持ってなかった。ずっと何も持っていないと思ってた。
あいつがいたのに。
ずっと俺の傍に、無条件でずっといると思っていたから。
「…………異界ってのは、俺でも行けるのか?」
「どうだろう? でも扉を開けないといけないよ」
「開けられるのか?」
「ぼくにはできないよ。でもノエルならできる」
「他には誰が開けられるんだ」
「えー……力の強い魔女なら開け方が解れば……でもそんな簡単には開けられないよ。でも大丈夫、ノエルはぼくと約束したから、必ず来てくれるよ!」
――また、待っているしかないのか……
「……そうか。なら、待ってる間に俺といないときのあいつのこと、話せよ。どうやって会ったのかとか、色々あんだろ」
「うん! いいよ!」
せめてあいつのことをもっと知っておいて、もっと普通に……普通に、対等に接することができるように、あいつが帰ってくるときに負い目を感じないように。
帰ってきたときには今度こそ問い詰めて、全部吐かせてやる。洗いざらい、何もかも、余すところなく。
――全部吐かせて、楽にしてやる。苦しい想いなんてしなくて済むように……
白い龍は嬉しそうに話を始めた。
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