罪状は【零】

毒の徒華

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第3章 渇き

第63話 傾く世界

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「あの翼は……ゲルダ様……いえ、ゲルダの身体の中心部……心臓と強く複雑に結びついていて、それに翼の見える部分を切除したとしてもゲルダ本人の魔力を利用して、何度も何度も再生するのです。強引に深部の部分を切除しようとしたときは……その痛みと苦しみに耐えられなかったのと、物凄く複雑に融合していて無理でした」

 ――そんなこと……ありえるのか……僕の翼も僕の心臓と?

 そう考えたけれど、もしそうなら片翼をむしり取られたときに心臓も共にむしり取られて死んでいてもおかしくはないはずだ。

「翼人の翼は他の鳥類の翼とは少し違う構造をしていて、魔力を蓄える魔道孔が沢山あり、魔力に反応して蓄えようとするのです。ノエルの翼はノエルの魔力の質と量で安定するように生まれたときに作られているから何の問題もないのですが、ノエルの翼をゲルダが無理やり移植した為、のです。ゲルダについているノエルの翼は、ノエルの魔力の質と量を求め、彼女の魔力を器量を無視して蓄えようと、深く深く食い込んでいっているのです」

 何故ゲルダが暴走しているかが解った。
 確かにそんな状態では暴走しても仕方がない。

「それに、対なる翼を移植すれば確かに安定する可能性はあります。翼人は本来一対二翼で本来の力を発揮しますし、魔力の伝達のバランスが両翼間で調和がとれるのです。だからノエルが魔力を使うと、身体が痛くなったり怠くなったりするのではないですか?」

 シャーロットにそう言われて、思い当たる節があった。
 確かに、魔力を沢山使った後は、身体が痛くなっていたのを思いだす。今は痛みはないけれど、酷く頭がぼーっとする。
 痛みがないのはガーネットの回復能力で治癒力が上がっているからだろう。

「……確かに今までのことも頷ける」
「そんな身体であまり頻繁に魔力を使いすぎると、命を縮める結果になりますよ」
「そう……」

 それでも、ご主人様を助けられるならそれでいい……僕の命なんてどうなったってかまわない。
 僕はご主人様を見た。まだ目を覚まさない。
 そのまま僕らは急ぎ足で歩き続けた。

「クロエ」
「なんだ? 俺とあの夜の続きがしたいのか?」
「…………罪名持ちの魔女は何人くらいいるんだ」

 僕が無視するとクロエはため息をつきながら僕の質問に答える。

「お前が拘束されていた部屋にぞろぞろ魔女が行っただろ? 大体あれが全部だ。お前の拘束と翼の奪取は最優先事項だった。各地から魔女を徴収した」
「ふぅん……」
「お前たちが着ている法衣からして、全員始末したんだろ? どうやって誓約書をんだ?」
「それはキャンゼルが……」

 キャンゼルの名前を出したところで、キャンゼルがいないことに気が付いた。
 シャーロットと合流していなかったのかと考えたが、逃げろと言っただけでどこに行けとは言わなかった。
 城に置いてきてしまったか、あるいは上手く逃げられたか……――――

 ヒュンッ……

 何か、小さいものが飛んできて僕の脚をかすめた。

「っ……」

 石でも投げられたのかと思ったが、そうではなかった。
 振り返った瞬間、更に何かが飛んでくるのが見えた僕は重力で全部下に落とした。すると地面はビシャリと濡れた。

 ――水?

「ノエルゥウウウウウウウウウ!!!」

 笑っている顔は狂気に歪んでいる。アナベルの屍の方がまだしっかりと歩いていたように思う。フラフラと、まるで酔っているような足取りで歩いている。

 ロゼッタだ。

「ねぇ、見て? ここに来る間に面白いもの2つ見つけたのよ……ほら」

 両手に持っていたのは頭2つだった。ロゼッタは2つの頭を交互に僕の方へ投げてくる。
 転がった頭を見ると片方は金髪のボサボサの長い髪と、目と口を縫われた痕がある。首からボタボタと血と水が滴っている。

 ――リサ……

 もう片方はやけに不ぞろいな髪の毛の頭だ。前髪はきっちりと切られているのに、やけに他は不ぞろいな、良く見覚えのある顔。

 ――キャンゼル……

 姿が見えないと思っていたら、ロゼッタに殺されていたようだ。
 転がっている頭を見て、ロゼッタはゲラゲラと笑っている。

「あんたの大切なもの、一つ一つ壊してあげるわ。シャーロットも、クロエも、その人間も、あんたの周りの人間全員殺すの――――」

 ……ゴトッ……

「あれ……世界が……傾いて……」

 刃の魔術は、リサが得意だった。
 ロゼッタの頭はゴロリと床に落ちていた。
 首を切り落としても、数秒程度なら意識が残るらしい。

 にわとりで首を切り落とした後に3日生きていたという話を聞いたことがある。ただ、動いているだけで生きていたと考えられるかどうかは不明だが。
 断頭台での断たれた頭は切り離された自分の姿を見て、認識する時間はあるのだろうか。

「……なんも面白くないよ」

 そうつぶやいてロゼッタだったものに背を向けて、再び歩き出した。


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