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第3章 渇き
第49話 クロエの秘密3
しおりを挟む俺はついに自分の衝動に抑制を効かせることは出来なくなった。毎日見ている彼女の仕草の一つ一つが俺の理性を奪っていった。
しかし、そうしなければ良かったかも知れないと、今でも俺は少し後悔している。
その夜に俺は彼女の眠っているベッドを見に行った。眠っている彼女を淡く照らす月光が、より彼女を美しく見せているのか、あるいは俺の目にはもう美しい彼女しか映らないのかは定かではない。
起こさないようにゆっくりと俺は彼女のベッドに片膝を乗せ、彼女の顔をもっと近くで見て、彼女の匂いを嗅ぐ。
するともう自分の欲求が抑えきれなくなり、俺は早くなる呼吸を抑えながら、彼女の身体にかかっている掛け布をゆっくりとめくった。
彼女の身体はまだ未発達で、神聖なもののように見えた。
俺はその身体に触れたくて手を伸ばし、彼女の脚に触れた。
柔らかく、なめらかな肌に俺はもう我慢の限界になり、ゆっくりとそのまま脚を開かせる。
我を忘れるというのは正にこういう事を指すのだろう。もうソレのことしか考えられなくなっていた。
ガキンッ!
下あごから物凄い激痛が走り、歯が思い切り自分の歯に当たった。俺はベッドから転がり落ちた。
何が起こったのか解らず、俺は自分の顎を抑えて、口の中に広がる何とも言えない味に嗚咽した。
「コイツ……! やっぱり!」
彼女は酷く怒っている様子で魔術式を展開した。
――殺される……!
「待ちなさい!」
セージが慌てて部屋に入ってきて彼女を止めた。
「やめなさい、何があったんだ?」
「コイツが眠ってる僕に何かしようとしてた」
「……なんだって?」
セージは目を見開いて俺を見つめていた。
俺は口から赤い液体を吐きながら、二人から目を離せずに見つめていた。
「まさか、アレをしようとしたのか?」
「アレってなに!?」
「黙っていなさい」
セージはかがみこんで俺の首元を掴んだ。
「どうなんだ、正直に答えなさい。アレをしようとしたのか?」
「…………」
俺はセージを見られずに、目を背けた。
答えない俺にセージは、俺の上着をめくって下着の状態を目視で確認した。
「なんてことだ」
セージは俺から手を放し、未だ殺気を放ち魔術式を展開している彼女を一瞥し、どうしていいかわからないといった苛立ちを見せながら二度三度狭いこの空間を行き来する。
「なにもされていないのか?」
「脚を開かされて……目が覚めた」
「他には何かされたか!?」
あまりの剣幕に少女は戸惑ったような表情を見せる。
「他には何も……」
「そうか……」
セージは安堵した表情を一瞬見せるが、俺の方を向き直ったときは険しい表情をしていた。
「出て行きなさい」
「えっ……」
「聞こえなかったのか? 出て行きなさい。二度と戻ってくるな」
「ごめんなさい、僕……」
「早く出て行け!」
俺はその叱責に耐えられず、立ち上がって走り出した。
また、どこへ向かっているのか解らない中走り続けた。その中、考えているのは彼女のことだけだった。
またどこかで会えたら、その時は――――
結局あのあとゲルダの僕の魔女に見つかり、連れ戻された。
俺はセージと一緒にいた魔女のことについて他の魔女に聞きたかったが、口外するなと言われたことがひっかかり聞けずにいた。
何か複雑な事情があるのだろうと、子供ながらに自分に言い聞かせる。
それでも俺が考えるのは彼女のことばかり。アレのときも目を閉じて彼女を創造するとアレも少しは受け入れられた。
しかし徐々に俺は荒み、壊れていった。
時折魔女たちがカリカリとしている姿を見かけたが、そんなこと気にならなかった。「ノエルが」とうどか「まだ見つからない」とか言っているのをたまに聞くくらいだ。
俺の身はより一層強く拘束された。
外に出ることも、自由も何もかも奪われた。楽しいことも何もない生活だった。
ただ、彼女にもう一度会えることだけを夢見ていた。
【5年後】
俺が再度隙を見て脱走したとき、元の場所には彼女たちはいなかった。
期待を胸に抜け出しただけに俺は残念で仕方がなかった。それでも俺は残っていたレンガ造りの家に入ってみた。そこには何もなく、生活感も一切なくなっていた。
しかし彼女がいた部屋や、自分がいた部屋をのぞくとその時のことが鮮明に思い出された。
初めて彼女に感じたあの感覚を再度思い出すようだった。しかし、年月とともに彼女の香りや感触が薄れ、顔も可愛らしい顔立ちをしていたという事実しか思い出せない。
「……どこに行ったんだ」
俺が隅々まで調べていると、光に反射して赤く光るものを見つけた。
それを拾い上げると彼女の髪の毛であることを確認した。その毛髪を俺はポケットに入れて、その辺りをずっと探し回ったが、結局何も見つからなかった。
俺は抜け出したことがばれない様、こっそりと戻った。
何事もないように戻り、俺は自分の部屋のソファーに座ってポケットから長い一本の赤い毛を取り出し、それを眺める。
普段なら絶対に女の毛など自分から触れたりしないが、俺はその毛髪の匂いを嗅いだり、舐めてみたりしている内にその気になり、しばらくソレに耽っていた。
事が終わると俺は深い眠りに落ちた。
俺が起きたとき、数時間は経過していたようだ。もう日が落ちて暗くなっている。
身体を起こして自分が眠る寸前に何をしていたか思い出し、彼女の髪の毛を手に持ったままだったことを思い出した。
「……?」
俺の手にあったはずの彼女の髪の毛がなくなっていることに気づいた。しっかりと指に巻き付けていたはずだ。ほどけてどこかに行くはずがない。
一体をくまなく探したが、どうしても彼女の髪の毛は見つけられなかった。
それから少しして、大きな変化が訪れた。
◆◆◆
その見覚えのある赤い髪を見た時、俺は言葉を失った。魔女たちが大騒ぎをしているから何事かと思い研究室まで足を運んだときだった。
血まみれで暴れ狂っている彼女の背中には美しい白い翼が揺らめいている。
喚き散らしていた彼女は、翼の部分に杭を撃ち込まれると叫び声をあげてガクリと失神した。
「おい、こいつは……」
「クロエ様、危険です。お下がりください」
「待て、こいつをどこで見つけた。いや、それよりもどうして血まみれなんだ。翼があるのはなぜだ」
俺が彼女を運んでいる魔女を問い詰めたが、何一つ答えられない様子だった。物凄く嫌な予感が俺の中に立ち込める。
「それは、翼人と魔女の混血だからよ」
振り向くと、ゲルダが嬉しそうにやってきた。
「混血……?」
しかし、以前見た時に翼はなかった。
そんなことよりも俺は成長した彼女のより美しい身体や顔に目を奪われた。混血だとか、そんなことは何も気にならなった。再会できたことに俺は歓喜に打ち震える。
「なぁゲルダ、コイツを俺のものにしていいだろ?」
クロエがそう言うと、ゲルダはにこやかな顔を歪ませた。いつも「ノエル」を呼ぶときの顔だ。
それもそのはずだ。
その翼の生えた魔女はノエルだったのだから。
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