黒の転生騎士

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 32  ハーフエルフのキルスティン

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「貴方はこちらの味方になって下さるのですか?」

スティーブの問いにキルスティンは愛想良く答えた。

「はい、この仕事内容が分かった時から、契約を反故ほごにしたかったのですが前金を使ってしまっていた為にそれができませんでした」
「今からでは契約違反になってしまうのではないですか?」
「さきほど医務室でサイラス様に契約書を見て頂いたところ、抜け穴を見つけて下さり、お金さえ返せばどうにかなるようです。お金はあり難いことに、リーフシュタインで出して下さるし、後々の嫌がらせを受けないように、私達家族もこちらの国で受け入れてくれることになりました」
「医務室でその話を?」
「庭で手を取られた後、カイト様に`傷口を消毒したほうがいい ‘と言われ、医務室に連れていかれたんです」
「もしかして、そこで宮廷侍医のじいやにこちらにつくよう説得されましたか?」
「はい、そうです! 面白くて説得力のある方ですね」

また皆でやっぱりと、うんうん頷く。
話の途中でカイトが戻ってきた。リリアーナは大人しく抱っこされて、今ではコテンとカイトの肩に頭をのせている。

「別室で説明をするよ。廊下だと話をルイス王子側の人間に聞かれるかもしれないし」

リリアーナが顔を上げて、カイトに耳打ちをした。

「いえ、リリアーナ様。リリアーナ様のお部屋を使うことはできません」
「でも気になる。わたしのことでしょ?」

小首を傾げてじーっと見つめられて、カイトは根負けをしたように息を吐いた。

「そうしましたら、手早く簡単に済ませることに致しましょう」

「カイト様、オーガスタも一緒にいいですか?」
申し訳無さそうに後ろに立っていたお付きの侍女を、キルスティンが肩に手を掛けて引っ張り出した。

(ぜ、全然彼女の存在に気付かなかった……! あのラブシーンもどきの時も傍にいたのか?)
オーガスタは皆の顔色を見て考えている事が伝わったようだ。また申し訳なさそうに口にする。
「私、地味で周りに溶け込んでしまうんです……」
「あっ、そんな地味という意味じゃ……」

カイトが気まずそうな空気に割って入る。

「一緒で構わないよ。彼女もこちら側についてくれるそうだ」
カイトの言葉の後に、オーガスタがペコリと頭を下げる。
次の警護でやってきたジャネットとエヴァンに訳を話し、話を聞けなくて残念そうな二人を残して部屋に入った。

ソファに全員で座ったところで、スティーブがキルスティンに向かって早速切り出す。

「カイトに手のことを言われた時は驚いたでしょう?」
「はい。普段は手袋をしたり、幻影の術をかけているのですが、今日はうっかりしてしまい……そういう時に限って、鋭い人に偶然会ってしまうものですね」

いや、カイトが貴方を見つけて飛び出して行ったから……とは誰も言わなかった。

「幻影の術というと……」
「私はハーフエルフで、魔導師として雇われました」

ビアンカが納得顔でキルスティンを見つめた。
「ハーフエルフだったのですね。どおりで透明感のある美しい方だと思いました」

キルスティンが頬を染め、恥かしいのかすぐに話を切り替える。
「そんな……ありがとうございます……私は一通りの術は使えますが、その中でも得意なものが幻影の術なのです」

彼女が耳に手を翳すと、エルフ特有の尖った耳が現れた。周りが目を丸くする中、また手を翳すと人間の耳へと変化する。
「このように、人の目を誤魔化すことができます」
「それならば治癒の術を使って、手を綺麗な状態に回復させればいいのでは?」
「治癒の術は多大にエネルギーを要するのです。綺麗な状態に戻すよりは、幻影の術を使うほうが楽ですし、ルイス様に命じられた時にすぐ魔法を使えるよう、温存しておかないといけませんので」

「この間、リリアーナ様のお昼寝中に何かしませんでしたか?」

カイトの言葉に、キルスティンが溜息を吐き、リリアーナも顔色を変えた。

「はい、リリアーナ様の夢に入り込みました」
「何をしたのですか?」
「今のままだとリリアーナ様を攫うことができないので、そのきっかけを作るためです。ルイス王子が『魔法の杖をあげるよ』と言ってリリアーナ様の興味を引きました」

カイトがちらりと横に座っているリリアーナを見下ろすと、青ざめた顔で下を向いている。またキルスティンに視線を戻した。

「それだけですか?」
「ルイス王子は最初カイト様に化けてリリアーナ様を腕に抱こうと目論んでおりました」
周りの者達の表情が `なんて情けないことを……‘ というものに変わった。

「しかしリリアーナ様がカイト様でない事をすぐに見破り、彼から逃げたところを手出しできないように私が保護しました。申し訳ありません。カイト様に化けることを反対はしたのですが雇い主でもあり、逆らえなくて」
「リリアーナ様を助けて下さってありがとうございます」

カイトの言葉にキルスティンが安堵の表情を浮かべる。

「ルイス王子はリリアーナ様に『魔法の杖が欲しかったら誰にもこの事を話してはいけない』と言いました。私達の次の作戦は夢の中にまた入り込み、魔法の杖を渡す約束を取り付け、現実世界でリリアーナ様と落ち合い、そのまま連れ去るというものです」
「詳細を知りたいのですが。リリアーナ様とどこで落ち合うつもりかなど」
「まだ詳しいところまでは決まっていません」

スティーブがいぶかしげに尋ねる。
「貴方が証言すれば、ルイス王子を城から追い出せるのではないですか?」
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