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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 37 奇妙な爆発跡
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カイトは空気をも震わす爆発音で眠りから覚めた。ぶるっと頭を振り、急いで騎士服を身に付けて外に飛び出す。西の方角から派手に黒煙が上がっているのが見え、何人かの騎士に続いて走り出した。側の先輩騎士に声をかける。
「何があったんですか!?」
「西の庭園で大規模な爆発があったらしい! 詳細は不明だ!」
何人かと合流をし近付くにつれ、騎士の数が増えていく。庭園へと辿り着くと先に到着をした者達が現場を調べていたが、何とも奇妙な光景であった。
五メートル四方の草地が焼けてはいるが、地面は平らなまま抉れた跡などはない……。カイトは腑に落ちずに顎に拳を当て考えた。
騎士宿舎からの距離を頭の中で測る。これだけ離れていてあの大きな爆発音……音に対して、たった五メートル四方が焼けただけ。
煙も異常なほど上がっているのに、被害は少ない――それも城から離れたこんな人けのないところで、これではまるで……
「カイト様!」
振り向くとキルスティンが駆けてくるところだった。
「爆発音と一緒に魔力を感じました!」
彼女の近くにぼわっと1m程の黒い球体が浮かび上がる。それは収縮しながら段々と小さくなっていった。
「危ない!!」
カイトはキルスティンに飛びついて押し倒し、上から自分の身体で庇う。
黒い球体はチリチリと音をさせながら小さくなり、いきなり耳を劈くような音を響かせて爆発した。
「カイト――!!! 二人共大丈夫か!?」
パラパラと二人の上に小石が降ってくる。周りが心配して声を掛ける中、カイトが肘を付いて上体を起こし、下にいるキルスティンを見下ろした。
「キルスティン大丈夫か?」
「はい、カイト様が庇ってくれましたから。カイト様は?」
「俺も……」
自分の身体を確認しながら立ち上がると、彼女に手を差し伸べて助け起こした。
「変だ……全然傷を負っていない」
「あんなに音が大きかったのに……」
キルスティンも頷きながら不思議そうな顔をする。見渡すと、さっき黒い球体が浮かんでいた辺りにボッと火が灯り、草地に落ちた。
落ちた火は五メートル四方の草花に燃え広がっていき、人の目を引くように、黒煙がもうもうと昇り始める。
カイトは顔色を変えてすぐに走り出した。
「カイト様!?」
自分を遠ざけようとしている――
いや、自分だけではない、城中の騎士がどんどんここに集まってきている。
その時大きい波動を感じた。背後からキルスティンの叫び声が聞こえる。
「カイト様! 結界が発動しました!!」
カイトは人に見られることも厭わずに全速力で駆け出した。余りの速さにこの世界の人間には奇異に映るかもしれないが、今はそんなことを言っていられない。
城に入る時にフランチェスカの叫び声が聞こえてきた。
***
「さあ、行きましょうか。リリアーナ様?」
サイラスがぎりぎりと歯を食い縛る。身体が壁に張り付いて圧が掛かり、身動きができない状態だ。
外に向かって叫んでいたフランチェスカが、今度は中に向かって叫びながらガラス戸をバンバン叩き始めた。
「リリアーナ様から離れて!! この卑しいド黒エルフが!!」
オーガスタのこめかみがピクッと引きつった。
「口の悪い女。いっそのこと三階から真っ逆さまに突き落としてやろうかしら」
彼女の左手を小さな手が掴んだ。見下ろすとリリアーナが口を引き結び、首を横に振っている。
「わたしはけっかいの外に出た……!」
オーガスタが笑いを零した。
「そうね……約束したものね。それじゃあ…」
「リリアーナ様!!」
カイトの声が室内まで響き、ぐわんと扉が内側に撓んだ。
「カイト!!」
リリアーナの声に、また蹴り上げる音と共に扉が撓む。
「うっわぁ、来るの早っ……爆発のトラップに引っ掛からなかったのかしら? その上蹴り……? 信じられない! 私の張った結界が人間の蹴りで破れそうになるなんて……さっさと退散しなくちゃ」
オーガスタがリリアーナの首根っこを掴んで跪いた。
「何があったんですか!?」
「西の庭園で大規模な爆発があったらしい! 詳細は不明だ!」
何人かと合流をし近付くにつれ、騎士の数が増えていく。庭園へと辿り着くと先に到着をした者達が現場を調べていたが、何とも奇妙な光景であった。
五メートル四方の草地が焼けてはいるが、地面は平らなまま抉れた跡などはない……。カイトは腑に落ちずに顎に拳を当て考えた。
騎士宿舎からの距離を頭の中で測る。これだけ離れていてあの大きな爆発音……音に対して、たった五メートル四方が焼けただけ。
煙も異常なほど上がっているのに、被害は少ない――それも城から離れたこんな人けのないところで、これではまるで……
「カイト様!」
振り向くとキルスティンが駆けてくるところだった。
「爆発音と一緒に魔力を感じました!」
彼女の近くにぼわっと1m程の黒い球体が浮かび上がる。それは収縮しながら段々と小さくなっていった。
「危ない!!」
カイトはキルスティンに飛びついて押し倒し、上から自分の身体で庇う。
黒い球体はチリチリと音をさせながら小さくなり、いきなり耳を劈くような音を響かせて爆発した。
「カイト――!!! 二人共大丈夫か!?」
パラパラと二人の上に小石が降ってくる。周りが心配して声を掛ける中、カイトが肘を付いて上体を起こし、下にいるキルスティンを見下ろした。
「キルスティン大丈夫か?」
「はい、カイト様が庇ってくれましたから。カイト様は?」
「俺も……」
自分の身体を確認しながら立ち上がると、彼女に手を差し伸べて助け起こした。
「変だ……全然傷を負っていない」
「あんなに音が大きかったのに……」
キルスティンも頷きながら不思議そうな顔をする。見渡すと、さっき黒い球体が浮かんでいた辺りにボッと火が灯り、草地に落ちた。
落ちた火は五メートル四方の草花に燃え広がっていき、人の目を引くように、黒煙がもうもうと昇り始める。
カイトは顔色を変えてすぐに走り出した。
「カイト様!?」
自分を遠ざけようとしている――
いや、自分だけではない、城中の騎士がどんどんここに集まってきている。
その時大きい波動を感じた。背後からキルスティンの叫び声が聞こえる。
「カイト様! 結界が発動しました!!」
カイトは人に見られることも厭わずに全速力で駆け出した。余りの速さにこの世界の人間には奇異に映るかもしれないが、今はそんなことを言っていられない。
城に入る時にフランチェスカの叫び声が聞こえてきた。
***
「さあ、行きましょうか。リリアーナ様?」
サイラスがぎりぎりと歯を食い縛る。身体が壁に張り付いて圧が掛かり、身動きができない状態だ。
外に向かって叫んでいたフランチェスカが、今度は中に向かって叫びながらガラス戸をバンバン叩き始めた。
「リリアーナ様から離れて!! この卑しいド黒エルフが!!」
オーガスタのこめかみがピクッと引きつった。
「口の悪い女。いっそのこと三階から真っ逆さまに突き落としてやろうかしら」
彼女の左手を小さな手が掴んだ。見下ろすとリリアーナが口を引き結び、首を横に振っている。
「わたしはけっかいの外に出た……!」
オーガスタが笑いを零した。
「そうね……約束したものね。それじゃあ…」
「リリアーナ様!!」
カイトの声が室内まで響き、ぐわんと扉が内側に撓んだ。
「カイト!!」
リリアーナの声に、また蹴り上げる音と共に扉が撓む。
「うっわぁ、来るの早っ……爆発のトラップに引っ掛からなかったのかしら? その上蹴り……? 信じられない! 私の張った結界が人間の蹴りで破れそうになるなんて……さっさと退散しなくちゃ」
オーガスタがリリアーナの首根っこを掴んで跪いた。
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