黒の転生騎士

sierra

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第十章

私を呼んで 28  投石

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「ジェイミーこちらに来てくれる・・・?」
 リリアーナが手を差し伸べる。ジェイミーは一人取り残され始めはびくびくしていたが、彼女の優しげな様子や、大好きなカイトがいることで段々落ち着きを取り戻してきた。

 とことこと近くまで歩いてくると、リリアーナと目を合わせて声を出す。
「リ、リリアーナ王女殿下! 質問があります!」
 緊張で真っ赤な顔をしていた。

「王女殿下はいらないけど、そうね・・・呼び捨てという訳にはいかないし`リリアーナ様 ‘ でどうかしら?」
 リリアーナが優しく微笑む。
「はい! リリアーナ様! ・・・さっき言ったことは本当ですか・・・?」
 声が自信なげに段々と小さくなっていく。

「さっき言ったこと・・・?」
「はい・・・こ、心から・・・愛せる者って・・・ぼ、僕のこ・・・」

 リリアーナは一瞬にして理解した。それは『やっと心から愛せる者を手にしたのに、取り上げられてしまった 』を指すのだろう。きっとアマンダから事実を捻じ曲げて色々と聞かされてきたに違いない。

 この小さな身体で耐えてきた悲しみや苦しみを思うと、リリアーナの胸に込み上げてきたものが涙となって溢れ出てきた。しゃがんでジェイミーを抱きしめる。

「そう、あなたの事よ、ジェイミー・・・! お母さんは死の間際まであなたの事を気にかけて『ずっと愛していると伝えて欲しい』と」
 ジェイミーがそっとリリアーナを抱きしめ返した。

「『もっと抱きしめておきたかった』とも言っていたわ・・・」
 ジェイミーの手がぎゅっとドレスを掴み、身体を震わせ始める。泣くのを禁じられているのだろうか・・・一生懸命に耐えている。
「泣いていいのよ――」
 その言葉を聞いた途端、大きな声で泣き始めた。リリアーナも一緒に涙が流れ出るままに任せる。二人は暫くの間、抱き合いながら泣いていた。

 リリアーナがふと気付くと、ジェイミーの力が抜けている。泣きつかれて腕の中で眠ってしまったようだ。カイトがリリアーナにハンカチを差し出し、手を伸ばしてジェイミーを自分の膝の上に横向きで乗せた。本能で信頼している人と分かるのか、すりすりと身体を寄せて深く寝入ってしまった。

 リリアーナはその様子を見た後にカイトの隣へ静かに座る。
「ジェイミーをアマンダから離したほうがいいと思うのだけど・・・」
「うん、そうだね。俺もそう思う」

 リリアーナがカイトをじっと見つめる。
「何か考えがあるんでしょう?」


 リリアーナと共に、眠っているジェイミーを腕に抱いたカイトが廊下に出ると、アマンダが直ぐに近寄ってきて跪いた。
「リリアーナ様! 先程は申し訳ございませんでした! 今後、考えと行いを改めますので、どうぞお許しください!」

「アマンダ、あなたは間違っています。謝罪すべきはカミラとジェイミーにであって、私にではありません。しかし安心しなさい。あなたを罰するつもりはありません」 

 アマンダが見るからにほっとした様子になり、リリアーナはそのまま言葉を続けた。
「ジェイミーの後見人は、シュペー家の次男、バーナード・シュペー閣下だそうですね。これからの養育は彼に一任します」
「バーナードは、優しいだけで貴族のプライドの欠片もない! 伯爵の称号を受け継ぐ人間を育てるのに相応しくありません!」

「私の聞いている話しでは、慈悲深くて万人に優しく、全てに於いて尊敬できる人物との事ですが」
「しかし・・・!」
「このことは言いたくありませんでしたが、あなたに任せたら故シュペー伯爵、マクシミリアンのような人間になってしまうのではありませんか?」

 マクシミリアンは放蕩者で、愛人を何人も作り金遣いも荒く、危うく伯爵家を没落させかけたことがある。唯一の救いは、そうなる前に心臓発作で急死したことだ。 

 アマンダはこれ以上、何を言っても無駄だと感じたらしく、口を固く引き結び後ろに退く。カイトとリリアーナは、そのまま玄関へと歩みを進めた。外に出ると陽光が当たり、ジェイミーが目を覚ます。

「あ・・・カイト」
「ジェイミー、君はこれからバーナード・シュペー閣下のところに行くんだよ。今日からそこで暮らすんだ」
「バーナード叔父さん!! 本当に!? 僕、叔父さんのこと大好きなんだ! 待ってて、宝物を持ってくるから!」

 
 ジェイミーは庭先にある小さい小屋へと走り出した。その時、ひゅっと群集の中からジェイミー目掛けて石が飛んだ。カイトが飛ぶ方向を見定め、瞬時に移動し叩き落す。
「カイト!!」
 リリアーナが驚きと心配から声を上げた。

「誰だ。いま石を投げつけた者は・・・?」
 凄みのある怒りを抑えた声に、人々はしんと静まり返る。
「子供に向けて石を投げつけるなど言語道断だ・・・! 彼の母親はもう罰を受けてこの世にはいないし、彼には何の罪もない。今後このような事があれば、理由の如何を問わずに連行して牢屋にぶち込む――」

 群集の中から声があがった。
「しかし、その子供の母親はリリアーナ王女を誘拐して恐ろしい目に遭わせたんだ! 同じ血が流れているのに罰せられないのか!? そいつも大きくなったら同じような事をするに違いない!!」
 一部から彼に賛同する声が上がる。

「人殺しをした親の子供が、必ず人殺しをするのか!? 俺はそういった子供が育って、立派な、ひとかどの人物になった例をいくつも知っている。しかしその道は困難を極めたそうだ。中には夢半ばにして挫折し、底辺に落ちていった者達もいる。いま石を投げた心無い者と同じような輩によって」
 カイトは断固とした口調で話を続けた。

「もう罪を犯した者はいないんだ。代わりにこの幼い子供が一生償っていかなければいけないのか? リリアーナ王女を思う気持ちは分かるが、どうか冷静になって正しい判断をしてほしい。ジェイミーは何もしていないのだから」 

 水を打ったような静けさの中、リリアーナが震えて縮こまっているジェイミーを抱き上げ、カイトに近付いた。尊敬と信頼を込めて彼を見上げる。
「カイト、貴方を誇りに思うわ」

 その言葉を皮切りに拍手が沸き起こり、しまいには大歓声となった。カイトの頬にキスしようと爪先立ったリリアーナが、届かずによろけた身体を彼が抱きとめて唇にキスをする。

 リリアーナが紅くなったり、間に挟まれたジェイミーが両手で顔を隠し、しかし指の間からこっそり見ている様子などが微笑ましく、歓声はいつまでも止まなかった。
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