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第六章
執 着 6 殺されてもいい
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リリアーナが息を呑んだ
「これは賭けでした。最近貴方は夜に出てくる事はない。もし万が一出てきたら・・・」
「出てきたら・・・?」
「貴方を私のものにするつもりでした」
「カイト違うの、聞いて・・・」
そこまで言いかけた後で、自分を渇望する目に捉えられた。
「寝ても覚めても、貴方の事しか考えられない。完全に心を囚われて・・・ルドルフを本当に殺したいとさえ思いました」
「カイト違うの! ルドルフ様は・・」
「その名前を口にするな!!」
リリアーナがびくっとした。
カイトは口に手を当てると横を向いた。
「すいません、怒鳴るつもりはなかったのですが・・・今日あいつが ` リリィ ‘ と親しげに呼んでいたのを思い出して」
リリアーナは寝室のドアをカイトに気取られないよう、横目で見た。寝室は鍵が掛かる。上手く逃げ込めれば――
カイトが淡々と言う。
「無理です。逃げ込む前に捕まえますから」
リリアーナが愕然とする。カイトが近付いてきた。
「いや、駄目、カイト・・・きっと後悔するから」
リリアーナが後ずさりながら首を振る。
「貴方を失うこと以上に後悔する事なんてない」
伸びてきた手を避けて、寝室に逃げ込もうとしたが三歩も行かない内に捕まってしまった。`カイトも絶対に後悔する ‘ リリアーナは暴れたがあっという間に運ばれて、ベッドの上に放り出される。
見るとカイトが上着を脱いでいる。我に返りベッドの反対側から降りようとしたが、すぐに引き戻されてしまった。
リリアーナの華奢な身体を自分の身体で押さえつけ、逆らおうとした両手は頭上で一纏 (ひとまと) めに左手で拘束する。
リリアーナの頬から顎にかけて輪郭を指先でゆっくりとなぞると、顔を近づけてきた。リリアーナが避けるように右を向くと、指でなぞった後を今度はキスでなぞる。背筋をゾクリとした感触が這い登った。
「カイト・・やめて・・・」
「ちゃんと貴方にキスさせて下さい・・・それとも、やはりルドルフがいいのですか?」
「そんなこと・・っ!」
否定の言葉と共に振り返ると、カイトのキスに捕まった。くちづけに応えるようにと、リリアーナの抵抗を食い潰していく。
やがてキスが甘いものに変わるとリリアーナが応え始め、腕の枷 (かせ) が外された。華奢な手がカイトの背中に回り、白いシャツをぎゅっと掴む。
「貴方は、キスには応えるのに心はルドルフを求めている・・・」
唐突にキスを終えると、荒い息を吐いた。片肘を立てて、少し上からリリアーナを見下ろす。
「こんな細い首、力を入れたらすぐに折れてしまうだろうに」
片手でリリアーナの首を絞めるように掴んだ。
「昨日、池で気付きました。ルドルフを殺しても貴方は決して手に入らない。私への恐怖と、愛するルドルフを殺された憎しみから私を遠ざけるでしょう」
カイトはリリアーナを見下ろしたまま、両方の手で首を掴んだ。
「貴方を手に入れるただ一つの方法は、貴方を私の手で殺す事です」
「いいわ、カイト・・・私を殺して」
馬鹿だった、カイトをこんなに愛しているのに・・・自分は何をやっていたんだろう。カイトを試すような真似をして。今、この瞬間も平気なのにカイトの事が怖いなんて。ここまで彼を追い詰めてしまったのはこの私・・・
リリアーナは右手を上げると、カイトの頬にそっと当てた。
「愛しているから――」
涙を浮かべた目で微笑んで、カイトを優しく見つめる。
「――っ!」
カイトが身体を反転させて、リリアーナから突然離れた。
「すいませんでした」
カイトは右手で目を覆うと、絞り出すように声を出した。
「過去に貴方を我が物にしようとしていた者達と一緒になる所でした・・・最低な奴らと軽蔑して、一番なりたくなかった者達に。」
身を起こして、ベッドから下りようとするカイトの肘をリリアーナは急いで掴んだ。
「待ってカイト!! ルドルフ様とは何もないの!」
「遠慮しなくていいのですよ。婚約は解消しましょう」
「本当よ!! 貴方があの村で、相手の男を殺すって言って、私少し怖くなって・・・愛していたけど、私は過去の事があったから、貴方は本心を見せないし、本当の貴方の姿を見た時に怖くならないか分からなくて! だから、ルドルフに手伝ってもらって」
カイトの顔色がみるみる変わった。
「俺を騙したのか――!?」
リリアーナの手を振り払うと、床に落ちていた上着を拾って出口に向かう。
「カイト! 待って! 大丈夫だって確かめたかったの! カイト!!」
廊下に続く扉が閉まる音がして、後は静寂に包まれた――
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
「これは賭けでした。最近貴方は夜に出てくる事はない。もし万が一出てきたら・・・」
「出てきたら・・・?」
「貴方を私のものにするつもりでした」
「カイト違うの、聞いて・・・」
そこまで言いかけた後で、自分を渇望する目に捉えられた。
「寝ても覚めても、貴方の事しか考えられない。完全に心を囚われて・・・ルドルフを本当に殺したいとさえ思いました」
「カイト違うの! ルドルフ様は・・」
「その名前を口にするな!!」
リリアーナがびくっとした。
カイトは口に手を当てると横を向いた。
「すいません、怒鳴るつもりはなかったのですが・・・今日あいつが ` リリィ ‘ と親しげに呼んでいたのを思い出して」
リリアーナは寝室のドアをカイトに気取られないよう、横目で見た。寝室は鍵が掛かる。上手く逃げ込めれば――
カイトが淡々と言う。
「無理です。逃げ込む前に捕まえますから」
リリアーナが愕然とする。カイトが近付いてきた。
「いや、駄目、カイト・・・きっと後悔するから」
リリアーナが後ずさりながら首を振る。
「貴方を失うこと以上に後悔する事なんてない」
伸びてきた手を避けて、寝室に逃げ込もうとしたが三歩も行かない内に捕まってしまった。`カイトも絶対に後悔する ‘ リリアーナは暴れたがあっという間に運ばれて、ベッドの上に放り出される。
見るとカイトが上着を脱いでいる。我に返りベッドの反対側から降りようとしたが、すぐに引き戻されてしまった。
リリアーナの華奢な身体を自分の身体で押さえつけ、逆らおうとした両手は頭上で一纏 (ひとまと) めに左手で拘束する。
リリアーナの頬から顎にかけて輪郭を指先でゆっくりとなぞると、顔を近づけてきた。リリアーナが避けるように右を向くと、指でなぞった後を今度はキスでなぞる。背筋をゾクリとした感触が這い登った。
「カイト・・やめて・・・」
「ちゃんと貴方にキスさせて下さい・・・それとも、やはりルドルフがいいのですか?」
「そんなこと・・っ!」
否定の言葉と共に振り返ると、カイトのキスに捕まった。くちづけに応えるようにと、リリアーナの抵抗を食い潰していく。
やがてキスが甘いものに変わるとリリアーナが応え始め、腕の枷 (かせ) が外された。華奢な手がカイトの背中に回り、白いシャツをぎゅっと掴む。
「貴方は、キスには応えるのに心はルドルフを求めている・・・」
唐突にキスを終えると、荒い息を吐いた。片肘を立てて、少し上からリリアーナを見下ろす。
「こんな細い首、力を入れたらすぐに折れてしまうだろうに」
片手でリリアーナの首を絞めるように掴んだ。
「昨日、池で気付きました。ルドルフを殺しても貴方は決して手に入らない。私への恐怖と、愛するルドルフを殺された憎しみから私を遠ざけるでしょう」
カイトはリリアーナを見下ろしたまま、両方の手で首を掴んだ。
「貴方を手に入れるただ一つの方法は、貴方を私の手で殺す事です」
「いいわ、カイト・・・私を殺して」
馬鹿だった、カイトをこんなに愛しているのに・・・自分は何をやっていたんだろう。カイトを試すような真似をして。今、この瞬間も平気なのにカイトの事が怖いなんて。ここまで彼を追い詰めてしまったのはこの私・・・
リリアーナは右手を上げると、カイトの頬にそっと当てた。
「愛しているから――」
涙を浮かべた目で微笑んで、カイトを優しく見つめる。
「――っ!」
カイトが身体を反転させて、リリアーナから突然離れた。
「すいませんでした」
カイトは右手で目を覆うと、絞り出すように声を出した。
「過去に貴方を我が物にしようとしていた者達と一緒になる所でした・・・最低な奴らと軽蔑して、一番なりたくなかった者達に。」
身を起こして、ベッドから下りようとするカイトの肘をリリアーナは急いで掴んだ。
「待ってカイト!! ルドルフ様とは何もないの!」
「遠慮しなくていいのですよ。婚約は解消しましょう」
「本当よ!! 貴方があの村で、相手の男を殺すって言って、私少し怖くなって・・・愛していたけど、私は過去の事があったから、貴方は本心を見せないし、本当の貴方の姿を見た時に怖くならないか分からなくて! だから、ルドルフに手伝ってもらって」
カイトの顔色がみるみる変わった。
「俺を騙したのか――!?」
リリアーナの手を振り払うと、床に落ちていた上着を拾って出口に向かう。
「カイト! 待って! 大丈夫だって確かめたかったの! カイト!!」
廊下に続く扉が閉まる音がして、後は静寂に包まれた――
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
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