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第四章
カミラからの救出 1
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帆船は一時間程の航行の後に停船した。長時間乗せられるだろうと思っていたので意外であった。
真新しい桟橋を渡り、目の前の屋敷へと案内される。庭は美しく手入れされており、果樹園もしつらえてある。
屋敷もよく手入れされていて、最上階の三階にある中央の部屋に通された。普段は客間に使われているようだ。広くて調度品の趣味も良く、庭と川が見渡せる。ガラス戸の外のバルコニーはお飾り程度の広さしかなく、人が一人やっと立てる程度のものだ。侍女が二人入ってきて、紅茶を入れて薦められた。その後は隣の部屋で立ち働いている。
「リリアーナ様、湯浴みの準備が整いました」
何故こんな時間から?無理やり連れてこられていきなり湯浴みも気味が悪い。それに今は五時位で、日暮れまでまだ三時間もある。外も明るいこんな状況の中でとても入る気にはなれない。
「湯浴みはいたしません」
毅然と答えるリリアーナに揶揄するような声が聞こえてきた。
「入ってもらわないと困るのよねぇ」
黒髪の美女が青年二人を後ろに従え入って来た。
「カミラ伯爵未亡人・・・」
銀髪の女性騎士を見た時から彼女ではないかと思っていたが。
「そうよ、リリアーナ姫様。ご機嫌麗しゅう・・・。今日、貴方に入札している富豪が一人来るからお見せしないといけないのよ」
カミラは扇を畳むとそれでリリアーナの身体と顔を指し示した。
「ほら、あなた汚れてしまって、顔も涙の後がついているし」
「入札って・・・私は品物ではありません!!」
「いいえ、貴方は品物よ! 今値段がどんどん競りあがっているの。幾らになるか楽しみねぇ」
含み笑いを漏らすカミラにリリアーナは気分が悪くなってきた。
「まぁ、いいけど・・・汚いままでカイトに会うつもりなの?」
「え・・・?」
「いい子にしてたらカイトに会わせてあげる。最後にお別れしたいでしょう?」
「本当に会わせてくれるのかしら? 貴方の言う事は疑わしいわ」
「約束するわ。私を信じて下さいな。これでも私、結構善人なんですよ」
人を攫って売り飛ばそうとしている人が、とても善人とは思えないが今は信じるしかない。隣の部屋で湯浴みをした後に侍女たちによって瞳の色と同じ碧いドレスを着せられた。髪の毛も結い上げられ、美しく仕上がったリリアーナを見て、二人の侍女達は溜息をつき、口々に褒めそやした。
少し親近感を持てたので、逃がしてくれないか話しかけようとしたが、申し訳なさそうに話を変えられてしまった。
もう日が暮れかけてる。一人の侍女が蝋燭を持ってきた。暖炉の上に一本だけ灯すと、また出て行き一人にされた。当然ではあるが、ドアの外には番人がいる。
ガラス戸を背にしてカウチにずっと座っている。家族に会いたい・・・。今頃心配しているだろう。最後まで心配を掛けてしまった。会いたい気持ちと申し訳ない気持ちが混ざり合う。
カイトには会えるだろうか――
碧いドレスに涙が落ちた。次から次へと落ちていく。私はこんなに泣き虫だったかしら・・・
幼い頃は毎日が幸せで、泣く事なんて殆どなかった。11歳を過ぎた頃から周りの状況が変化して、無理に言い寄ってくる男性や、連れ去られそうになったりで、一時期泣き暮らしていた。心が死んでしまったように、何も感じなくなってしまい・・・喜怒哀楽が欠落した。
カイトに助けてもらった時に久しぶりに、心の底から思い切り泣いた気がする。涙と一緒に心の闇も取り払われ、私に感情が蘇り、毎日が楽しくて、カイトといるとドキドキして・・・
いつの間にか月が出ていたようだ。月の明かりがガラス戸の形に自分の上に落ちている。床に写っているその形をただ見つめていた。
カミラに言われ`カイトに会える‘と一瞬目を輝かせた時、その瞬間を捉えた彼女は意地の悪い目で私を見ていた。もう、無理かもしれない・・・
また涙が零れてきた。
会いたい――
一目でいいから・・・
見ていた自分の影に人の影が重なった。ガラス戸を軽く叩く音がする。
高鳴る鼓動を抑えながら、ゆっくりと・・・信じられない思いで振り向いた。
ガラス戸の外に月の光を受けたカイトが静かに立っていた。
真新しい桟橋を渡り、目の前の屋敷へと案内される。庭は美しく手入れされており、果樹園もしつらえてある。
屋敷もよく手入れされていて、最上階の三階にある中央の部屋に通された。普段は客間に使われているようだ。広くて調度品の趣味も良く、庭と川が見渡せる。ガラス戸の外のバルコニーはお飾り程度の広さしかなく、人が一人やっと立てる程度のものだ。侍女が二人入ってきて、紅茶を入れて薦められた。その後は隣の部屋で立ち働いている。
「リリアーナ様、湯浴みの準備が整いました」
何故こんな時間から?無理やり連れてこられていきなり湯浴みも気味が悪い。それに今は五時位で、日暮れまでまだ三時間もある。外も明るいこんな状況の中でとても入る気にはなれない。
「湯浴みはいたしません」
毅然と答えるリリアーナに揶揄するような声が聞こえてきた。
「入ってもらわないと困るのよねぇ」
黒髪の美女が青年二人を後ろに従え入って来た。
「カミラ伯爵未亡人・・・」
銀髪の女性騎士を見た時から彼女ではないかと思っていたが。
「そうよ、リリアーナ姫様。ご機嫌麗しゅう・・・。今日、貴方に入札している富豪が一人来るからお見せしないといけないのよ」
カミラは扇を畳むとそれでリリアーナの身体と顔を指し示した。
「ほら、あなた汚れてしまって、顔も涙の後がついているし」
「入札って・・・私は品物ではありません!!」
「いいえ、貴方は品物よ! 今値段がどんどん競りあがっているの。幾らになるか楽しみねぇ」
含み笑いを漏らすカミラにリリアーナは気分が悪くなってきた。
「まぁ、いいけど・・・汚いままでカイトに会うつもりなの?」
「え・・・?」
「いい子にしてたらカイトに会わせてあげる。最後にお別れしたいでしょう?」
「本当に会わせてくれるのかしら? 貴方の言う事は疑わしいわ」
「約束するわ。私を信じて下さいな。これでも私、結構善人なんですよ」
人を攫って売り飛ばそうとしている人が、とても善人とは思えないが今は信じるしかない。隣の部屋で湯浴みをした後に侍女たちによって瞳の色と同じ碧いドレスを着せられた。髪の毛も結い上げられ、美しく仕上がったリリアーナを見て、二人の侍女達は溜息をつき、口々に褒めそやした。
少し親近感を持てたので、逃がしてくれないか話しかけようとしたが、申し訳なさそうに話を変えられてしまった。
もう日が暮れかけてる。一人の侍女が蝋燭を持ってきた。暖炉の上に一本だけ灯すと、また出て行き一人にされた。当然ではあるが、ドアの外には番人がいる。
ガラス戸を背にしてカウチにずっと座っている。家族に会いたい・・・。今頃心配しているだろう。最後まで心配を掛けてしまった。会いたい気持ちと申し訳ない気持ちが混ざり合う。
カイトには会えるだろうか――
碧いドレスに涙が落ちた。次から次へと落ちていく。私はこんなに泣き虫だったかしら・・・
幼い頃は毎日が幸せで、泣く事なんて殆どなかった。11歳を過ぎた頃から周りの状況が変化して、無理に言い寄ってくる男性や、連れ去られそうになったりで、一時期泣き暮らしていた。心が死んでしまったように、何も感じなくなってしまい・・・喜怒哀楽が欠落した。
カイトに助けてもらった時に久しぶりに、心の底から思い切り泣いた気がする。涙と一緒に心の闇も取り払われ、私に感情が蘇り、毎日が楽しくて、カイトといるとドキドキして・・・
いつの間にか月が出ていたようだ。月の明かりがガラス戸の形に自分の上に落ちている。床に写っているその形をただ見つめていた。
カミラに言われ`カイトに会える‘と一瞬目を輝かせた時、その瞬間を捉えた彼女は意地の悪い目で私を見ていた。もう、無理かもしれない・・・
また涙が零れてきた。
会いたい――
一目でいいから・・・
見ていた自分の影に人の影が重なった。ガラス戸を軽く叩く音がする。
高鳴る鼓動を抑えながら、ゆっくりと・・・信じられない思いで振り向いた。
ガラス戸の外に月の光を受けたカイトが静かに立っていた。
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