黒の転生騎士

sierra

文字の大きさ
上 下
43 / 287
第四章

カミラからの救出 1    

しおりを挟む
 帆船は一時間程の航行の後に停船した。長時間乗せられるだろうと思っていたので意外であった。
 真新しい桟橋を渡り、目の前の屋敷へと案内される。庭は美しく手入れされており、果樹園もしつらえてある。
 屋敷もよく手入れされていて、最上階の三階にある中央の部屋に通された。普段は客間に使われているようだ。広くて調度品の趣味も良く、庭と川が見渡せる。ガラス戸の外のバルコニーはお飾り程度の広さしかなく、人が一人やっと立てる程度のものだ。侍女が二人入ってきて、紅茶を入れて薦められた。その後は隣の部屋で立ち働いている。 

「リリアーナ様、湯浴みの準備が整いました」
 何故こんな時間から?無理やり連れてこられていきなり湯浴みも気味が悪い。それに今は五時位で、日暮れまでまだ三時間もある。外も明るいこんな状況の中でとても入る気にはなれない。

「湯浴みはいたしません」
 毅然と答えるリリアーナに揶揄するような声が聞こえてきた。
「入ってもらわないと困るのよねぇ」
 黒髪の美女が青年二人を後ろに従え入って来た。
「カミラ伯爵未亡人・・・」
 銀髪の女性騎士を見た時から彼女ではないかと思っていたが。

「そうよ、リリアーナ姫様。ご機嫌麗しゅう・・・。今日、貴方に入札している富豪が一人来るからお見せしないといけないのよ」
 カミラは扇を畳むとそれでリリアーナの身体と顔を指し示した。
「ほら、あなた汚れてしまって、顔も涙の後がついているし」
「入札って・・・私は品物ではありません!!」
「いいえ、貴方は品物よ! 今値段がどんどん競りあがっているの。幾らになるか楽しみねぇ」
 含み笑いを漏らすカミラにリリアーナは気分が悪くなってきた。
「まぁ、いいけど・・・汚いままでカイトに会うつもりなの?」
「え・・・?」
「いい子にしてたらカイトに会わせてあげる。最後にお別れしたいでしょう?」
「本当に会わせてくれるのかしら? 貴方の言う事は疑わしいわ」
「約束するわ。私を信じて下さいな。これでも私、結構善人なんですよ」

 人を攫って売り飛ばそうとしている人が、とても善人とは思えないが今は信じるしかない。隣の部屋で湯浴みをした後に侍女たちによって瞳の色と同じ碧いドレスを着せられた。髪の毛も結い上げられ、美しく仕上がったリリアーナを見て、二人の侍女達は溜息をつき、口々に褒めそやした。
 少し親近感を持てたので、逃がしてくれないか話しかけようとしたが、申し訳なさそうに話を変えられてしまった。

 もう日が暮れかけてる。一人の侍女が蝋燭を持ってきた。暖炉の上に一本だけ灯すと、また出て行き一人にされた。当然ではあるが、ドアの外には番人がいる。
 ガラス戸を背にしてカウチにずっと座っている。家族に会いたい・・・。今頃心配しているだろう。最後まで心配を掛けてしまった。会いたい気持ちと申し訳ない気持ちが混ざり合う。

 カイトには会えるだろうか――
碧いドレスに涙が落ちた。次から次へと落ちていく。私はこんなに泣き虫だったかしら・・・
 幼い頃は毎日が幸せで、泣く事なんて殆どなかった。11歳を過ぎた頃から周りの状況が変化して、無理に言い寄ってくる男性や、連れ去られそうになったりで、一時期泣き暮らしていた。心が死んでしまったように、何も感じなくなってしまい・・・喜怒哀楽が欠落した。

 カイトに助けてもらった時に久しぶりに、心の底から思い切り泣いた気がする。涙と一緒に心の闇も取り払われ、私に感情が蘇り、毎日が楽しくて、カイトといるとドキドキして・・・

 いつの間にか月が出ていたようだ。月の明かりがガラス戸の形に自分の上に落ちている。床に写っているその形をただ見つめていた。

 カミラに言われ`カイトに会える‘と一瞬目を輝かせた時、その瞬間を捉えた彼女は意地の悪い目で私を見ていた。もう、無理かもしれない・・・

 また涙が零れてきた。

 会いたい――
  一目でいいから・・・

 見ていた自分の影に人の影が重なった。ガラス戸を軽く叩く音がする。

高鳴る鼓動を抑えながら、ゆっくりと・・・信じられない思いで振り向いた。

ガラス戸の外に月の光を受けたカイトが静かに立っていた。 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

処理中です...