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第一章
てめぇ・・・一体何しやがった・・・
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5人目!
百発百中とはいかないが、盗賊たちにはいい効果を与えてるようだ。どうにかしようと下がってくる奴もいたが、近くなればそれだけ命中率が上がる。近場に来た者を全員射倒した。当たらないようにと、馬車の前へ出始めた者もいる。
盗賊の親玉らしき人物が馬車から顔を出したのが見えた。馬に乗った子分の1人と話している。その子分を狙って矢を放った。
「信じられねぇ・・・馬を走らせたまま弓矢を・・・それも当てるなんて。」
慌てて顔を引っ込め青い顔で呟いた。少しの間考えていたがすぐに支持を出す。
「20人ほど残って、通れないように壁を作れ!すぐに騎士団の連中も来る筈だ!迎え撃て!!」
『敵の動きが変わった・・・バリケードか、20騎程・・・』
背中にある矢筒から矢を取り出す。
「これだけの人数がありゃあ、通り抜けられないだろうよ。」
「おい!矢をつがえてるぞ!!」
盗賊たちが馬に乗ったまま盾を構えて矢に備えた時。しゅっ――、矢が飛ぶ音がして見事に馬の尻に刺さった。続けてすぐ傍らにいたもう一頭にも・・・
ヒヒーン!!
二頭が前足を蹴り上げて乗せていた盗賊を振り落とし暴れだす。僅かにできた隙間を疾風のように騎士が駆け抜けていった。
呆然として見送ってしまった盗賊達が我に返り後を追おうとした所で、怒号と共に騎士団が押し寄せて来るのが見えた。
「お頭!!!またさっきの奴が追ってきてます!!」
「何!?」
『信じられない!どうすればいいんだ!また壁を――駄目だ、20騎でだめなのだから今いる7騎程では到底止められない。こうなったら姫さんを人質にして・・・』
「馬車を停めろ!ここで迎え撃つ!」
ダムットは外に向かって怒鳴った。
「さっ、姫さん来るんだよ。」
馬車が停まりリリアーナに手を伸ばしてきた。
「姫様に触らないで!」
フランチェスカはリリアーナを背中に庇いながら伸ばしてきた手を振り払おうとしたが、その手を逆に掴まれ背中にねじ上げられ、そのまま馬車の外に放り出された。
「フラン!!」
「さあ、次は姫さんだ。」
ダムットが今度こそはとリリアーナに手を伸ばしてきた。
「いっ!いやぁー!!」
過去の恐ろしい体験も重なり、リリアーナはパニックに陥った。両手は男を叩き、全身で抵抗する。
「ちっ!発作か!?いやパニックか!?」
パン――!
馬車に乾いた音が響き、リリアーナは自分が叩かれた事を知った。
「手間取らせやがって、おとなしくしてれば痛い目に合わせねえよ。」
呆然とするリリアーナを左手で抱えるようにして、右手にはナイフを用意し馬車を急ぎ降りる。
最初に目にした光景にダムットは唖然とした。
「何だこれは・・・」
手下が全員倒れていて・・・それどころか、先ほど放り出した侍女もいない。
「なっ、何だ!一体どうなってるんだ!?」
慌てて辺りを見回しリリアーナを離した瞬間、目の端で馬車の上の何かを捉えた。それは自分の上に振ってきて、右肩に強烈な蹴りをくらった。ナイフが飛び落ち、右肩から腕にかけて激痛に襲われる。
「リリアーナ様!ご無事ですか!?」
着地したカイトが立ち上がりざまにリリアーナに向き直って目にしたのは、疲弊しきって今にも倒れそうなリリアーナと、その美しい左頬が赤く腫れている様であった。透き通るような白い肌だけに、赤くなったそれは大変痛々しい。
「――てめぇ・・・一体何しやがった・・・」
ダムットは痛みに堪えながらナイフを拾おうとしとしていたが、右腕はだらーんとして動かない。仕方なく左手で拾ったその時に、地獄の底から絞り出したような低い声が聞こえてきた。
「え・・・?」
「貴様は・・・一体何をしたかと聞いてるんだ。姫様の頬が腫れているようだが・・・」
リリアーナの目の前だと思い直し、口調を丁寧な物に変えたようだが、その恐ろしい声と雰囲気は変わらない。
『ヤバイ!!!――』
ダムットの全身が総毛立った。
『こいつに逆らってはいけない!!』
今までの経験から、カイトの醸し出す得体の知れない不気味な強さを感じ取り縮み上がる。
「姫さんの・・・」
「姫さん・・・だと?」
カイトがぴくっ、と片眉を吊り上げた。
「い、いいえ、姫様が、姫様が、パニックを起こしてお暴れになったので、頬をほんの少し撫でる様に叩かせて頂いた所・・・」
「姫様の、頬を、叩いた、だと・・・?」
カイトの機嫌が下降すると共に、殺気と威圧するオーラがどんどん大きくなっていく。
「は、はい・・・姫様の・・・」
このままだと殺されてしまう――いや、騎士とはいえ相手は自分より小柄ではないか、身体も細いようだし、きっと気迫で押されてるだけ!行け!行くしかない!!
ナイフを握り直すと、カイト目掛けて突っこみ、左手を振り上げた。
落ちてきた左手首を右手で、左肘を左手で掴むようにして一瞬止め、すぐ左手を相手の肘下に素早くくぐらせ、両側から左手首を掴み反らせてナイフを落とした。
素早く少し離れて間合いを取る。
一瞬の事で何で落ちたか分からない様子の男の左頬に向かって、背中に引いた右手を、腰を正面にして捻りながら振り子のように繰り出した。
「姫様と同じにしてくれる――!!」
大きな身体が1m近く吹っ飛び、薄れてゆく意識の中でダムットは思った。
『全然同じじゃない・・・』
ちょうどその時、盗賊を倒した騎士達も駆けつけた。
「姫様!」
「よくぞご無事で!」
「リリアーナ様!」
駆け寄ってきた騎士達に恐怖の色を浮かべたリリアーナを、カイトはすぐ背中に庇うように前に出て声を張り上げた。
「先輩方!!止まってください!大男が押し寄せたら非常に恐ろしいです!!」
皆リリアーナの男性恐怖症を思い出し、ぴたっ、と止まった。イフリートが跪き、他の者もそれに従う。
「フランチェスカ!ここへ!」
カイトに馬車の後ろに隠れるように言われて、身を潜めていたいたフランチェスカが飛び出して来た。
「姫様!!」
駆け寄ってきたフランチェスカに安心したのか、リリアーナの身体が崩れそうになる。フランチェスカがすぐに支えた。
振り向きざまに跪いたカイトはリリアーナに話しかけた。
「リリアーナ様、イフリート副団長でしたら怖くないですよね?」
リリアーナが幼い頃から暫くお付きの騎士をしていたイフリートは、リリアーナが怖くない数少ない男性の一人である。
「イフリート副団長、リリアーナ様を馬車まで・・・」
イフリートに話しかけたその時
「右・・・手を・・・」
リリアーナが弱々しくカイトに声をかけた。
カイトが跪いたまますぐ向き直るとリリアーナがまた繰り返した。
「貴方の・・・右手を・・・」
すぐさま自分の右手を差し出すと、リリアーナの震える両手に下から包み込まれた。
「こんなに腫れて・・・」
見ると確かに正拳部がえらい事になってる。巨体を1m近く殴り飛ばしたし、相手の頬骨が折れる感触も伝わってきたので、当然の結果なのではあるが。
「私が、厄災の姫だから・・・」
「え・・・?」
「他の騎士達も戦いに巻き込んで、あんなに倒れて・・・厄災の・・・私がいけないの」
カイトのリリアーナに包まれた、腫れた手の甲に涙がぽたっ、と落ちてきた。その傷ついた痛々しい姿に皆一様に胸が詰まる。
カイトが口を開いた。
「リリアーナ様は厄災の姫君ではございません。」
百発百中とはいかないが、盗賊たちにはいい効果を与えてるようだ。どうにかしようと下がってくる奴もいたが、近くなればそれだけ命中率が上がる。近場に来た者を全員射倒した。当たらないようにと、馬車の前へ出始めた者もいる。
盗賊の親玉らしき人物が馬車から顔を出したのが見えた。馬に乗った子分の1人と話している。その子分を狙って矢を放った。
「信じられねぇ・・・馬を走らせたまま弓矢を・・・それも当てるなんて。」
慌てて顔を引っ込め青い顔で呟いた。少しの間考えていたがすぐに支持を出す。
「20人ほど残って、通れないように壁を作れ!すぐに騎士団の連中も来る筈だ!迎え撃て!!」
『敵の動きが変わった・・・バリケードか、20騎程・・・』
背中にある矢筒から矢を取り出す。
「これだけの人数がありゃあ、通り抜けられないだろうよ。」
「おい!矢をつがえてるぞ!!」
盗賊たちが馬に乗ったまま盾を構えて矢に備えた時。しゅっ――、矢が飛ぶ音がして見事に馬の尻に刺さった。続けてすぐ傍らにいたもう一頭にも・・・
ヒヒーン!!
二頭が前足を蹴り上げて乗せていた盗賊を振り落とし暴れだす。僅かにできた隙間を疾風のように騎士が駆け抜けていった。
呆然として見送ってしまった盗賊達が我に返り後を追おうとした所で、怒号と共に騎士団が押し寄せて来るのが見えた。
「お頭!!!またさっきの奴が追ってきてます!!」
「何!?」
『信じられない!どうすればいいんだ!また壁を――駄目だ、20騎でだめなのだから今いる7騎程では到底止められない。こうなったら姫さんを人質にして・・・』
「馬車を停めろ!ここで迎え撃つ!」
ダムットは外に向かって怒鳴った。
「さっ、姫さん来るんだよ。」
馬車が停まりリリアーナに手を伸ばしてきた。
「姫様に触らないで!」
フランチェスカはリリアーナを背中に庇いながら伸ばしてきた手を振り払おうとしたが、その手を逆に掴まれ背中にねじ上げられ、そのまま馬車の外に放り出された。
「フラン!!」
「さあ、次は姫さんだ。」
ダムットが今度こそはとリリアーナに手を伸ばしてきた。
「いっ!いやぁー!!」
過去の恐ろしい体験も重なり、リリアーナはパニックに陥った。両手は男を叩き、全身で抵抗する。
「ちっ!発作か!?いやパニックか!?」
パン――!
馬車に乾いた音が響き、リリアーナは自分が叩かれた事を知った。
「手間取らせやがって、おとなしくしてれば痛い目に合わせねえよ。」
呆然とするリリアーナを左手で抱えるようにして、右手にはナイフを用意し馬車を急ぎ降りる。
最初に目にした光景にダムットは唖然とした。
「何だこれは・・・」
手下が全員倒れていて・・・それどころか、先ほど放り出した侍女もいない。
「なっ、何だ!一体どうなってるんだ!?」
慌てて辺りを見回しリリアーナを離した瞬間、目の端で馬車の上の何かを捉えた。それは自分の上に振ってきて、右肩に強烈な蹴りをくらった。ナイフが飛び落ち、右肩から腕にかけて激痛に襲われる。
「リリアーナ様!ご無事ですか!?」
着地したカイトが立ち上がりざまにリリアーナに向き直って目にしたのは、疲弊しきって今にも倒れそうなリリアーナと、その美しい左頬が赤く腫れている様であった。透き通るような白い肌だけに、赤くなったそれは大変痛々しい。
「――てめぇ・・・一体何しやがった・・・」
ダムットは痛みに堪えながらナイフを拾おうとしとしていたが、右腕はだらーんとして動かない。仕方なく左手で拾ったその時に、地獄の底から絞り出したような低い声が聞こえてきた。
「え・・・?」
「貴様は・・・一体何をしたかと聞いてるんだ。姫様の頬が腫れているようだが・・・」
リリアーナの目の前だと思い直し、口調を丁寧な物に変えたようだが、その恐ろしい声と雰囲気は変わらない。
『ヤバイ!!!――』
ダムットの全身が総毛立った。
『こいつに逆らってはいけない!!』
今までの経験から、カイトの醸し出す得体の知れない不気味な強さを感じ取り縮み上がる。
「姫さんの・・・」
「姫さん・・・だと?」
カイトがぴくっ、と片眉を吊り上げた。
「い、いいえ、姫様が、姫様が、パニックを起こしてお暴れになったので、頬をほんの少し撫でる様に叩かせて頂いた所・・・」
「姫様の、頬を、叩いた、だと・・・?」
カイトの機嫌が下降すると共に、殺気と威圧するオーラがどんどん大きくなっていく。
「は、はい・・・姫様の・・・」
このままだと殺されてしまう――いや、騎士とはいえ相手は自分より小柄ではないか、身体も細いようだし、きっと気迫で押されてるだけ!行け!行くしかない!!
ナイフを握り直すと、カイト目掛けて突っこみ、左手を振り上げた。
落ちてきた左手首を右手で、左肘を左手で掴むようにして一瞬止め、すぐ左手を相手の肘下に素早くくぐらせ、両側から左手首を掴み反らせてナイフを落とした。
素早く少し離れて間合いを取る。
一瞬の事で何で落ちたか分からない様子の男の左頬に向かって、背中に引いた右手を、腰を正面にして捻りながら振り子のように繰り出した。
「姫様と同じにしてくれる――!!」
大きな身体が1m近く吹っ飛び、薄れてゆく意識の中でダムットは思った。
『全然同じじゃない・・・』
ちょうどその時、盗賊を倒した騎士達も駆けつけた。
「姫様!」
「よくぞご無事で!」
「リリアーナ様!」
駆け寄ってきた騎士達に恐怖の色を浮かべたリリアーナを、カイトはすぐ背中に庇うように前に出て声を張り上げた。
「先輩方!!止まってください!大男が押し寄せたら非常に恐ろしいです!!」
皆リリアーナの男性恐怖症を思い出し、ぴたっ、と止まった。イフリートが跪き、他の者もそれに従う。
「フランチェスカ!ここへ!」
カイトに馬車の後ろに隠れるように言われて、身を潜めていたいたフランチェスカが飛び出して来た。
「姫様!!」
駆け寄ってきたフランチェスカに安心したのか、リリアーナの身体が崩れそうになる。フランチェスカがすぐに支えた。
振り向きざまに跪いたカイトはリリアーナに話しかけた。
「リリアーナ様、イフリート副団長でしたら怖くないですよね?」
リリアーナが幼い頃から暫くお付きの騎士をしていたイフリートは、リリアーナが怖くない数少ない男性の一人である。
「イフリート副団長、リリアーナ様を馬車まで・・・」
イフリートに話しかけたその時
「右・・・手を・・・」
リリアーナが弱々しくカイトに声をかけた。
カイトが跪いたまますぐ向き直るとリリアーナがまた繰り返した。
「貴方の・・・右手を・・・」
すぐさま自分の右手を差し出すと、リリアーナの震える両手に下から包み込まれた。
「こんなに腫れて・・・」
見ると確かに正拳部がえらい事になってる。巨体を1m近く殴り飛ばしたし、相手の頬骨が折れる感触も伝わってきたので、当然の結果なのではあるが。
「私が、厄災の姫だから・・・」
「え・・・?」
「他の騎士達も戦いに巻き込んで、あんなに倒れて・・・厄災の・・・私がいけないの」
カイトのリリアーナに包まれた、腫れた手の甲に涙がぽたっ、と落ちてきた。その傷ついた痛々しい姿に皆一様に胸が詰まる。
カイトが口を開いた。
「リリアーナ様は厄災の姫君ではございません。」
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