黒の転生騎士

sierra

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 94

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 後ろからルイスに抱きすくめられて、サファイアの身体は震え、鼓動も早鐘のように打ち始めた。
 ルイスは以前より精悍になった――。背中に当たる身体は固く、抱き締める腕も引き締まり、男らしいルイスに胸がきゅんとして、サファイアの頬は朱色に染まる。

 ルイスが指先でそっと頬に触れてきた。様子を見るように優しくその指先を滑らせていき、唇のふちで止まる。

「……っ、」
 親指でゆっくりと唇をなぞられて、サファイアは息を呑んだ。びくっと身体を硬直させ、思わず指を避けるように、ルイスを肩越しに見上げる。

「ル、ルイス……!」
「ん……怖い……?」

 優しい瞳で見下ろすルイスに、潤んだ瞳で、サファイアは首を振った。

「怖くないけど、どきどきして、胸が、心臓が止まりそうなくらい。だから、……やめてほしいの」

 恋愛経験がないサファイアは、どうしていいか分からずに、いつもの平穏な自分を取り戻したくてルイスに請う。

 柔らかくルイスは微笑む。

「やめない」
「えっ、……」
 
 ルイスが、戸惑うサファイアの顎をとらえ、正面から顔を覗き込んだ。

「怖くないなら、やめない――」

 目を見開く彼女の唇をじっと見つめながら、ゆっくりと顔を近づけていく。
 サファイアは時が止まったように、唇が重なるのをただ見ていた。胸の鼓動は一段と早くなり、それはルイスにも伝わっているだろう。
 
 そっと……唇が重なった。

 軽く押し当てられた唇は、束の間離れ、サファイアが嫌がっていないのを見て取ると、もう一度重ねられた。
その後は角度を変えて、何度も、何度も……優しく触れるたびに、サファイアを焦がれる気持ちが伝わってくる。

 優しく、情熱的なくちづけ――
 
 ルイスは後ろ髪を引かれる思いで、唇を離した。
 サファイアは瞳を閉じたまま……ふっくらとした唇をルイスに向けたまま……少しだけ残念そうに呟く。
 
「ルイ…ス……もう…終わり……?」
「……っ、」

 ごくりと喉を鳴らして、彼は理性を失いそうになるのを必死にとどめる。
 ふんわりとサファイアを地面に下ろして振り向かせると、包み込むように抱き寄せた。

「理性を飛ばすようなことを言わないでくれ。優しくしたいのに、乱暴になってしまう」

 サファイアは静かに目を開けて、恥かしそうに口にした。

「少しなら……乱暴にしても、平気……」

 ルイスの胸に手を当てて、伸びをしながら爪先立ち、耳まで赤く染め上げてチュッ、とルイスにくちづける。

「――っ、サファイア……!」
「きゃっ、」

 我慢の限界にきたルイスに、足が浮くほど抱き締められた。柔らかな唇は、声ごと彼の口に覆われる。ルイスの舌先が歯列を辿って、歯の隙間から奥へと忍び込み、咥内は侵略されていった……。

「ふぁ……んっ、…ぃや…ぁ……」
 上顎をなぞられて、ぞくっと背筋がわななく。恥かしい声が出てしまい、サファイアは身をすくませて赤くなった。唇を離そうとすると、彼の手に後頭部を捉えられ、逃げられなくなってしまう。

 ルイスは可愛らしい声に益々刺激され、逃げ惑う小さな舌を絡め取り、柔らかく吸い上げた。彼の上着の胸の部分をぎゅっと掴み、サファイアは甘い攻撃に耐えようとする。

(まずい……!)

 いけないと頭では分かっているのに、サファイアの愛らしさに、くちづけは激しさを増していった。貪るようなそれを、ルイスはやめる事ができない。

(サファイアを怖がらせて失うわけにはいかない。もう、彼女なしの人生なんて考えられないのだから――)

 殆ど飛んでいる理性を総動員して、サファイアの肩を掴み、やっとのことで引き離した。
 サファイアはうっすらと目を開けて、ぼうっとした状態で立っている。急に身体を離したルイスに寂しさを感じたのか、身を寄せて胸に頬を押し当てると、すりすりと擦り付けた。

(くっ、可愛い……! 連れて、帰りたい!)

 もう、サファイアと離れたくはない。しかし、三日後には帰らなくてはいけない。国を長期間留守にして、宰相や、高官達に戻ってきてくれと泣きつかれたのだ。

 プロポーズはきっと受けてくれるだろう。しかし、その後の長い婚約期間を思うと……………。

 ルイスは意を決したように、上着を脱いで地面に敷き、その上にサファイアを横たえた。

「ルイス……?」

 放心状態のサファイアが問いかける。

「サファイア、少しだけ……、君を連れて帰りたいんだ。最後まではしないから」

 サファイアは霞がかった頭で、首を傾げる。少しずつ理性が戻り、頭は覚醒しつつあった。胸元のクラヴァットを緩めるルイスを見て、慌てて起き上がろうとした。





 すいません!ε≡ ヽ__〇ノ…(スライディング土下座) 今回、サファイアとルイスのキスシーンに手間取りました(汗) 
一度書いて読み返したら、全然ドキドキしない。何故かな~と思ったら、どうもルイス視点だけで書いていたのがいけなかったようです。
 そうだ、私も(一応)女子。ドキドキするには女子(サファイア)目線もなければ!(握り拳)
と、泣く泣く書きなおしたり、まだどきどきが足りない……! とまた書きなおしたり、時間が掛かってしまいました。全部一度に上げたかったのですが、後半部分がまだ書けてないので、もうちょっと待ってね •(´;ω;`)

 
 
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